軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

防衛省の混迷を憂える

 省昇格でなぜ『国防省』にしなかったのか?という質問が白書講演会で出たと書いたが、「現代用語基礎知識2007(自由国民社)」にこう書いてある。
防衛庁/国防省
 防衛庁を「省」に昇格させ、「国防省」にしようとする動きがある。「防衛省」では何を防衛するのか不明瞭と主張する保守系議員は少なくない。憲法改正に先んじ、名称を変えることで自衛隊の認識を変えさせようとの意図もあるのだろう。満州事変以降、軍部の力を強化しようとした動きに通ずると見る向きもいる」
 解説者は「市井熊八というライター&エディター」だそうだが、「・・・軍部の力を強化しようとした動き」に通じると「見る向き」がどこにどれだけいるのか知らないが、この国の「防衛」に関する認識はこの程度なのである。
 別に揚げ足をとるわけではないが、白書の中の「国防」という用語は、目次を見ると米国とロシアの項目に「国防政策」と表示してあるだけである。その他の国に使われていないのはこの2国は「軍事大国」だからだろうか?そうだとすれば、日本に使える「わけ」がない! しかし待って欲しい。我が国の防衛政策の基本の項には、毎年必ず、防衛政策の基本として「国防の基本方針」が掲げてある。そして「我が国が憲法の下で進めている防衛政策は、57(昭和32)年に国防会議と閣議で決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。この「国防の基本方針」は、まず、国際協調など平和への努力の推進と民生安定などによる安全保障基盤の確立を、次いで効率的な防衛力の整備と日米安保体制を基調とすることを基本方針として掲げている」と解説してある。
「防衛」に比べて「国防」が“なじみが薄い”ということは、「国防会議」や「国防の基本方針」が蔑ろにされてきた証拠では?などと勘ぐってしまう。保守系?の私には、「日本の防衛」などという“馴染みやすい”書名ではなく「国防白書」の方が馴染みやすかったのだが・・・。「名は体を表す」という。せめて官庁名、白書名くらいは米露「超大国」と肩を並べて欲しかった!

 ところで「tana」氏からインド洋で健闘している海自艦艇は、シーレーン防衛に役立っているのでは?とコメントがあったが勿論そうである。安倍首相が訪問した印度でもパキスタンからも感謝されていることで証明される。インド洋上を遊弋しているだけでもテロリストの活動範囲も“制限”されるし、交代で艦艇が日本と往復するだけで実質的なシーレーン防衛になっているのは自明である。そんなこともわからない政治家達だから、米国大使からは勿論、世界の経済“小国”からも馬鹿にされるのである。
 身近な問題としてパトカーを考えてみるが良い。パトカーがたった一台走行しているだけで、スピード違反する運転手がいなくなるようなものである。最も、大臣や代議士達は、SPの警護の下に「超法規」で動くようだから、そんな庶民の感覚は薄れているのだろうが。

masa」氏の「中国東方航空機」パイロットが撮影している写真は「那覇基地における空自の航空祭に展示されている自衛隊機を撮影中のもの」との指摘は鋭かった。確かに今回の中華航空機事故関連TV画像に、周辺に中国東方機が駐機、または通過しているシーンはなかった。となると、この写真は、今回の事故とは無関係だが、官民共用飛行場の特性を十分に生かした「情報収集」をかの国がしている動かぬ証拠ということになる。

 さて、今朝の産経新聞には、中国が空母を保有する決意を固めて積極的に動いているという報道が出た。日中安保対話の会議の場で「台湾が独立宣言をしたら、あらゆる手段を講じてそれを阻止する。空母艦載機50機を既に発注した」と発言があったことから、現実的な「戦力化がどうか」などは無関係、共産国は「計画通りに事を進める」ことを忘れてはなるまい。
 その一方で、我が国の「防衛体制整備」は窮地に陥っているように見える。海自の「ひゅうが」は進水したが、空自のF-X選定は暗礁に乗り上げたままである。
航空ファン10月号」に、「F-22はF−Xに最適か」という特集が組まれ、私も意見を書いたが、航空評論家などによる、面白い分析が出ていて参考になる。ところがそのあとの「どうする!!航空自衛隊」という記事に私は懸念を持った。「F−X、C−X、KC−767J遅延問題」など、空自の正面装備整備計画が、なかなか進捗していない、というのである。
「諸外国と日本を取り巻く軍事情勢、そして防衛省になったことでの国際緊急援助活動や国際平和協力業務などの本来任務化など、各種の環境の変化にも対応した、バランスの取れた予算配分がきわめて重要になってくる」と筆者の小林健氏は締めくくったが、その肝心要の防衛省は、次官人事で大改革は避けられなくなっているという。
 産経5面の「防衛省、若返り人事・テロ特措法審議、不安視する声」という記事には、守屋次官(63)が、4年下の増田人事教育局長(56)と交代するに伴い、北原施設庁長官、西川官房長、大古防衛政策局長、山崎運用企画局長が、揃って退任し、後任には、それぞれ「2階級特進」で若手が起用されるとある。
 若返りは悪いことではない。しかしテロ特措法始め、前述したような極めて我が国防上の重要な案件が山積している時期に、交代に伴う着任式、状況報告、議員諸侯へのあいさつ回り・・・などなどに精力を使っていたら、いかに若くても任務に集中できまい。そこへ、中国国防相が来日する。疲労困憊、法案提出などで弱気になっている隙を突いて、相手に先手を取られかねない。
 更にこの問題に火をつけた大臣までもが交代したのでは、勝てる戦も勝てなくなる。だからといって大臣留任を希望するものではないが、防衛省内の人事交代時期をずらすなど適切に計画して、国防上、隙が出来ないよう配慮すべきである。若い増田次官が着任するからといって、先輩が揃って退くべきではなかろう。
 真珠湾攻撃直後、更迭されたキンメル大将の後任としてニミッツが太平洋艦隊司令長官に任命された。当時彼は少将であり序列は28番であった。12月17日に着任したニミッツ“大将”は、並み居る諸先輩を前に、後輩の下で働くことを良しとしない先輩には、適職を推薦するから遠慮なく申し出てほしいとしつつも「今は国家の非常時である。一致団結して戦おう」と訓示したことは有名である。
 我が国も今は間違いなく「国家非常時」に近い。防衛省には混迷を避ける賢明な策をとるよう期待したい。