軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

心棒を欠いている!

 29日の産経新聞やばいぞ日本」に、私の沖縄時代の尖閣を巡る“体験談”が掲載された。抑止行動を取った10日間、部下達が実によく働いてくれたと思う。今思い返しても“軍人”として忘れられない思い出だったが、この当時も為政者の中には「心棒を欠いていた」人がいて苦労した。
 この欄の書き出しに、防衛産業関係者が「東シナ海などの浅い海域で使用できる魚雷を開発したい」と述べたところ、経済産業省の担当官が「大国になりつつある中国を脅威と見ているのか」と激高したことをあげ、「その(防衛産業)関係者は、国を守る意識のない人が防衛力整備を担当していることに愕然としたという」とある。
 
 私が外務省軍縮室出向時代に、BCWを担当していて関係省庁と調整して廻ったことがあったが、時の通産省の若い担当官は「国内産業と無関係な外務省は、きれいごとばかり言っているが、我々は国内産業と密接な関係にある。そんなきれいごとに協力できない」といわれ、「忙しいので帰りはあっちの扉から出て行ってくれ」と言われたことがあった。防大の期別でいうと7期の私に15期生?が言うようなもので、その無礼にさすがの私も“激高”しかかったが、同行した外務省のキャリアーから説得されてこの場は引き下がったことがある。
 その後電話で彼を呼び出し、「官庁は首相を中心にした首脳部の≪幕僚組織≫、官僚は国益を考えて行動すべきであり、自分の所属官庁の利益だけを考えて行動すべきではない!」と指導したが、当時私は3等空佐、幹部学校出たてのほやほやで、各官庁は国の「幕僚組織だ」という認識があったのだが、これで「縦割り行政」の実態を学んだのであった。

 その後2等空佐で空幕防衛課時代、銀座のある書店主の計らいで通産官僚三人(現役課長:その後二人は次官に出世)と、制服自衛官との懇談会がもうけられ、陸・空自から10名ほどの佐官級が集まったことがある。
 寿司をつまみながらの「ざっくばらん」な意見交換会だったが、当時としては珍しい試みだったからはじめはぎこちなかったが、やがて活発な意見交換が始まった。切り出したのは通産官僚で、「皆さんがよく言う『脅威』とは何ですか?そんなものが今、日本のどこにあるのですか?」というものだった。
 これに対して陸自幹部学校教官が『脅威の定義』などを解説するものだから、まどろっこしかったので、この場でたった一人の戦闘機乗りの私は「こうして寿司をつまみ、ビールを飲んでいる間も、全国28箇所のレーダーサイトでは我々の仲間たちが24時間態勢で厳重な警戒配置についていること、7箇所の航空基地ではパイロットと整備員達がスクランブル勤務についていること」を挙げ、我々にとっては「赤い星のマークをつけて我が国領空に近づいて来るソ連爆撃機こそ明白な脅威である」と言ったのだが、当時は、空自の戦闘機乗り以外の制服組でさえ、直接「ソ連機」や「ソ連の戦車」を見た者はいなかったのだから、迫力に欠けても止むを得なかった。増してや官僚においておや、である。
 ところが官僚たちの意見は「大東亜戦争の敗因は、敵に補給線を叩かれて油や食料が枯渇したからであり、今回起きた石油パニックが正にそれを証明している。島国である我が国の安全保障の原点は、強力な軍事力を持つことよりも石油と食糧をしっかり備蓄しておくことにあり、その意味において今大きな話題になっている『総合安全保障』の考え方は間違っていない。あれほど強力な軍事力を誇った陸海軍でも勝てなかったではないか。ましてや今や核の時代、国の安全は軍事力では保たれない」というものであったから、何か遠慮がちな先輩たちをさておいて、私はこう反論した。
『仮にあなた方が言うように、鹿島灘沖に大量の石油を備蓄し、横浜港に山ほどの食糧を輸入して積み上げたとしても、それでもって飛んでくるミサイルは防げない。これを守る実力、即ち軍事力がなければ、かえって敵が食指を動かすだけである。極論すれば、石油や食料は欠乏していても、軍事力さえ残っていればそれを奪い取ることが出来る。身近な例で言えば、油を断たれた我が国は南方の油田を占領するため軍事力を行使したのではなかったか。
 膨大な軍事力だけを維持している北朝鮮は、やがて食うに困るときがやってくるだろうが、彼らは決してあわてないだろう。突出した軍事力さえ持っていれば、いざとなれば韓国を脅かせば食料を届けてもらえると思っているし、それがだめなら攻め入って食料を奪い取ることが出来ると信じているからである。食糧安保、石油安保というが、国家の安全保障とは軍事力抜きでは考えられないものである。油や食料を確保して国民生活を安定させる行為は、単なる役所のルーティーンの仕事に過ぎない。それが確保できなくなり、国民生活が危機に瀕すると、その国の政府が他国に言いがかりをつけてその冨を奪い取るために発動するのが戦争というもので、それに備えるのが『国家安全保障政策』というものではないか』
 スクランブルの実態も知らず、国の安全保障政策とは『食料と油を確保しておくこと』と本気で思っていた彼ら官僚の『軍事軽視』の態度に落胆したのだが、あれから30年!、テロ特措法に基づいてインド洋で活躍している海自の行動が持つ意味も、北朝鮮の核開発がもたらした影響も全く理解できていない様に思われる。その昔、自ら「補給線を叩かれて破れた」と反省しておきながらである。 これでは破綻国家・北朝鮮に、米国・ロシア・中国などの大国が振り回されている“6者協議”の裏が読めるはずもない。「軍事を語らずして・・・」と私が掲げるゆえんである。

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