軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国党大会に注目

 昨日は史料調査会で「中国の軍事力と台湾海峡」という題で、拓大教授の茅原氏に講演していただいた。茅原氏は防大6期(陸将補)の先輩で、たまたま会場まで一緒になったので、講演では17回党大会についてのご意見をまず聞きたい、といったのだが、約束どおり第一日目の所見を語ってくれた。大会はまだ続くので、これからの流れに注目しておく必要があろう。
 中でも、私は前主席の江沢民氏との関係に注目している。報道では今回の大会では、胡錦濤主席がわざわざ江沢民前主席を招待したそうだが、掲載された写真には「ぎこちない握手」と表現されていた。いずれにせよかの国の権力闘争は、我が国の「馴れ合い?」的政争とは桁が違うことを忘れてはなるまい。

 今朝の産経は「『ポスト胡』争い」として、1955年生まれの李克強遼寧省党委書記と、1953年生まれの習近平上海市党委書記の二人が注目さえれているとされていたが、二人とも胡錦濤主席が掲げる「科学的発展観」「人間本位」を強くアピールして「忠誠心」を競い合ったという。
 党大会は7600万といわれる共産党員の中から、2200名の代表が集まって会議するのだそうだが、産経は「権力闘争に関与しているのは党の要職を占める一握りの高官」だけで、2200あまりの代表の大半は、本来の役目を忘れ、大会を人生の晴れ舞台として楽しんでいる」という。
この現象から、まもなく一人っ子政策の影響が出てくるのでは?、と捉えるのは考えすぎだろうか?
 13億の人民を、僅か7600万の党員が牛耳っているというのも興味深い政治形態だが、政治は『共産主義思想』で、経済は『民主主義的手法』でというねじれ現象も実に興味深い。
 資本論や共産思想を専門に勉強してはいないのだが、この両思想は所詮『水と油』ではないのか?
経済的発展が、訒小平氏の改革解放がもたらした物であれば、政治的思想もそれに“類似した”思想であるべきだが、この国にはそれが「分離」出来るらしい。その結果「拝金主義」が横行して、やがてにっちもさっちもいかなくなるだろう。その上、経済専門家たちの分析によると、やがてはじける「バブル」に、胡錦濤政権はどう対処しようとするのか?大いに興味がある。
 問題なのは、それにどっぷりつかっている日本の企業であって、その際のうまい手立ては出来ているのだろう、と信頼する以外にない。余計な問題を持ち込まないで欲しいのだが・・・
 この週継続されるこの大会の的確な情報が報道されることを期待したい。

 ところで、今「知られざる隣人達の素顔(出版:防衛弘済会)」という、元朝日新聞社会部・外報部記者であった木村明生氏の本を読んでいるのだが、「モスクワから追放という名の勲章を送られた朝日新聞元モスクワ支局長。ロシア語事始から60年、ジャーナリストとして学者として、見て聞いて体験したユーラシア観察の総決算を綴る」と帯にあるとおり、極めて興味ある内容が綴られている。 とりわけ、日・米・ソ連(当時)・中国という4カ国の相克は凄まじく、朝日新聞の記事は「中国よりだ」として、ソ連から追放されたのだから面白い。
 当時は、中ソ対立のさなかで、そんなことは日本国内には正確に伝えられず、あくまで「中ソ一枚岩」的報道が続いていたのだから、その間に挟まった木村氏の立場がまた面白い。朝日新聞らしく、ソ連にご機嫌を取って彼を「自主的に帰国」させたり、朝日本社首脳部の悩みもお気の毒だが、実は今もそのような三角関係にあるのではないか?
 ロシアから見ると、この新聞社は「チョウニチ新聞」ならぬ「中国新聞」だと思っているに違いない・・・!
 読みやすい本なのでぜひ御一読をお勧めするが、国際関係の裏側なんていつもこんなもの。「奇奇怪怪」といって政権を降りた首相がいたくらいだから、律儀で真面目、信義を重んじる日本人には理解できない事柄かもしれない。何しろ憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と明記し、それをいつまでも信じきって?念仏のように唱えて満足している」のだから。中ソ関係の機微な時代に、その間に挟まれて苦労した木村氏の体験は、今の中ロ関係や、日米関係にも通じる話である。
 明治天皇には畏れ多いが「四方の海みな同胞・・・」とはいかないのが現実の国際関係であることを、日本国民は再認識する必要があろう。

 21世紀、中国がこれからどう変化するのか?彼らの資源獲得(略奪?)行為と、国内の遅れた設備がもたらす環境破壊の凄まじさは、ゴア元副大統領が如何にノーベル賞をもらったとはいえ、解決できるものではない。
 東シナ海ガス田開発なんぞ序の口、中国のモザンビークなどアフリカ諸国への進出、ロシアへの大量移動、ミャンマー軍事政権に対する武器援助、アフリカへの軍事援助、南米諸国に進出?した中国人に対する排斥運動など、どう見てもこれからの「紛争ネタ」は、中国中心におきるような気がしてならない。
 そしてそのまず第一に掲げられるのが、来年に迫っている中台間の緊張である、と私は案じている。胡錦濤主席が「和諧(調和)社会構築」を唱えつつ、「科学的発展観」を掲げた意味がどこにあるのか、ここ当分、世界に「影響!」を及ぼすこの国の動きから目が離せない。

知られざる隣人たちの素顔

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中国 胡錦濤政権の挑戦―第11次5カ年長期計画と持続可能な発展 (情勢分析レポート)

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中国の黒いワナ (別冊宝島Real 73)

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