雑誌『正論』6月号に目を通す。胡錦濤訪日を前にした「総力特集号」だが、いつもの保守的論調と変わりはない。
目を引いたのは「日本人となるのに忠誠心は必要ないのですか」という中條高徳氏と、日本国籍をとって“日本人”になった“元中国人”評論家・石平氏との対談であった。
3月24日に旧知の中條氏と共に靖国神社に昇殿参拝して、「石は日本人になりました。どうぞ宜しくお願い致します」と英霊に国籍取得を報告した石平氏は「この日を以って私は精神的にも日本人となりました」と熱く意見交換しているのだが、帰化申請手続きについて「あっけなくてかえって心配になりました」とこう語っている。
「帰化申請から許可が下りるまで八ヶ月かかりましたが、私が法務局に足を運んだのは四回だけ。最初に問い合わせに行った時と、書類をそろえて申請した時、一回限りの面接を受けた時、そして最後は申請許可後、本籍の作り方などの説明を受けた時だけです。いずれの時も、法務局の職員から『どうして日本人になりたいのか』『日本の文化伝統をどう思うか』『皇室をどう思うか』という質問は一切ありませんでした。申請時や面接時に聞かれたのは、前科の有無や在日年数、中国内にいる親族の人数など表面的な質問だけです」と云うから驚きである。
幹部学校の面接試験でも、その程度の内容については『圧迫質問』するのは常識で、ましてや『前科の有無、在日年数、中国内の親族数』などについては、日本の担当部局の方がしっかり把握しておくべき問題だろう。本人が申請時に『前科があります』と答えるとでも思っているのだろうか?係官の手元の資料との「照合」のための質問だと理解したいが・・・
「最後に法務局に行った時も、がっかりさせられました。申請が許可されたというので、改めて日本人としての心構えを諭されたり、国家に忠誠を誓う誓約書を書かされたりと、何か儀式めいたものがあると思っていたのですが、今後の事務手続きなどを淡々と説明されただけで、三分足らずで終了。国歌も国旗もなく、『えっ、これで終わりですか?もう帰っていいんですか?』と聞き返したくらいです。やっと日本人になれたというのに、あのようなそっけない対応では、まるで興醒めです」
読んでいる私のほうが興醒めしてしまう。
「申請から許可まで八ヶ月がもかかるのですから、いい加減にしているとは言いませんよ。前科の有無とか、収入が安定しているかどうかなどには、かなり神経を尖らせていると思います。でも、新に日本人となる上での根本的な心情面については全くお構いなしなんです。これでは、反日的な思想を持つ外国人だって、どんどん日本人になれますよ」
これに対して中條氏は「とんでもないことだ。最近、またぞろ外国人参政権問題がクローズアップされてきたので憂慮していたが、それどころの話ではありませんな。もしも日本を弱体化させようと考える外国の勢力があって、工作員やシンパを次々と日本に帰化させ、官僚やら警察やら自衛隊にもぐり込ませたらどうなるか・・・」
石平氏「それだけではありません。一番疑問に思うのは、日本の役所も、そこで働く役人も、国家意識を明らかに欠いていることなんです・・・」
胃が痛くなるのでこの辺で止めるが、これについてはその後「正論」などの誌上でも何ら反論がないから、石平氏の言うとおりなのであろう。やはりこの国は滅びつつあるようだ・・・
3時に家内が手紙類を持って面会に来た。「部屋が変わったのね、よかったわ」
そういうと電話などの処置について「報告」してくれる。Kさんが眠っているので食堂に移動して話していると、Sさんが入ってきた。
Sさん「これ、俺のお袋」
おふくろさん「息子が御迷惑をかけています」
私「いやいや、楽しいお話を聞かせていただき、喜んでいます」
家内「お母様ですか?お若い、お元気ですね」
Sさん「もう80、若くないッすよ」
おふくろさん「まだ79、今年80だよ」
Sさん「大してかわんねーよ。毎日来るから心配で、いいって言うのに来るんだもん」
おふくろさん「だってワタシャ母親だよ、息子の面倒は親が見なきゃ〜」
私「Sさん、いくつになっても親は親、子は子ですよ」
Sさん「そりゃ分かってんだが、俺ももう54だぜ。キマリ悪いよ。最もまだ独りだからおふくろには迷惑ばかりかけているけど・・・」
おふくろさん「そんなことはどうでもいいの、早く良くなって人様に迷惑かけないこと」
私「Sさん、本当にそうだ、親の言いつけには従うこと」
午後4時、部屋に戻ると看護婦が来て「佐藤さん、点滴が終わりましたから外します」と言った。これでやっと「点滴棒」から解放され自由の身になった!
隣のKさんがベッドに座っている。
私「失礼ですがKさんは91歳だそうですね。では軍務経験がお有りなんでしょう?」
Kさん「17歳で満州特別守備隊に志願入隊しました」
私「ではシベリア抑留経験がお有りでは?」
Kさん「いや、19歳の時に重病にかかって、二十歳で本国送還になったからそれはなかったです」
私「それはよかったですね」
Kさん「その後ずっと大森に住んでいたが、戦後は苦労しました」
私「いや、看護婦さんが驚くくらい身奇麗にしておられる様子が伺えたものですから、ツイ軍隊経験がお有りかと・・・」
夕食は「おもゆ、コンソメ、ポタージュ、りんごジュース、パインキャロットジュース」だったが実に香りと味がよい。断食の成果なのだろう。 (続く)
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