軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

鎮魂、神風特別攻撃隊

先週末、鹿屋基地で、表記の演題で講演してきた。
羽田から鹿児島空港までは約1時間10分(実際は混雑で、地上で30分間以上もホールドしたが)、空港から基地までは約1時間半かかる。
高速道でつながったとはいえ、かなり辺鄙な田舎町だ。町の繁華街もシャッター通りと化していて、なんとなく活気が感じられなかったが、海軍の町だけあって、どこでも親身になって対応してくれた。
特に特攻隊については、基地に隣接した立派な史料館もできていて感動したが、何せ観光客(見物者)は陸軍の知覧に比べて落差が大きいと感じた。


翌日、宿を出て市内の特攻慰霊碑、桜花(人間爆弾)の碑をめぐって参拝したが、鹿屋市の手厚い支援で整備されていたのは嬉しかった。勿論隊員たちも、季節になると清掃作業に精を出しているという。さすが“伝統墨守”の海上自衛隊だ!


≪鹿屋市の特攻慰霊塔建立経緯≫


≪詳細な出撃者の記録版≫


≪作家・山岡荘八氏の書もあった≫

≪特攻慰霊塔の全景=塔の前に広大な広場があり、ことあるごとの市民は憩の場として利用しているという。英霊も一緒になって喜んでいることだろうと感動した≫


ところで今頃気が付いたのだが、鹿屋飛行場は高台にあって、その周辺は起伏の激しい谷間に囲まれている。その谷間の一角の小学校や施設に起居した隊員たち、とりわけ桜花隊の隊員たちは、出撃のたびに急坂を上って飛行場に登り出撃していったのだという。
資料館には貴重な資料が展示されていたが、現地にもそれなりの標識があって、改めて当時の模様が身に迫ってくる。


≪桜花隊員が起居した一角にある記念碑。今は雑草が茂っていたが、隊員たちが丁寧に清掃して清めているという≫


≪道路を隔てた場所には小学校があり(現在は一面の田んぼ)、そこで毎朝朝礼していたそうで、小学生たちが後ろの校舎で聞き入っている写真もあった≫


≪当時の野里国民学校の校舎とその標識≫

16歳から35歳の穢れなき青年たちが、国難に際して清く飛び立っていった情景を思うと涙なしにはいられない。勿論知覧もそうであった。
この桜花隊のメモリアル付近には、国旗掲揚台の礎石が一部残っていた。




国民学校の正面にあった国旗掲揚台跡と当時の朝礼風景≫


≪その拡大写真。指揮官後方の校舎に、学校関係者?と子供たちが集まって朝礼を見つめている姿が見える≫

鹿屋は、旧海軍の施設、とりわけ特攻隊に関する遺跡が凝縮した町である。世が世なれば「世界遺産」ならぬ、「国民遺産」として知覧と共に手厚く保護されてしかるべきだろうと思う。


今回の講演旅行は、若く礼儀正しい後輩たちに囲まれて昔に戻ったような一日だったが、前日に訪ねた老舗菓子店のことは書いておかねばなるまい。

到着した日の夕食会が市内で開かれるというので会場に向かう時、私は以前TVで知った「海軍タルト」という、特攻隊員が出撃中の機上で口にしたお菓子を作っているお菓子屋に案内してもらい、ぜひ現物を入手したいと考えていた。
閉店間際の6時前だったが、お店は開いていて、ドヤドヤ〜と飛び込んできた“人相の悪い”一団に、店の方々はぎょっとしたようだった。

私の話を聞いてようやく納得されたが、すでに店じまい前、切れ端を試食させていただき、お菓子は翌日早朝、息子さんが作って届けてくれることになった。
「タルト」とは一般的にロールケーキの形をしたお菓子なのだが、「海軍タルト」は細長く食べやすくできている。
そのいわれは、海軍少将が何とか隊員達が自在に食べられる形に、と言ってロール型ではなく、3cm×10cmほどの板状の形を指定されたらしい。
理由は、上空で片手で操縦かんを握りつつ、片手で“タルト”が食べられるようにという配慮からだ。
包装紙は、片手でもって口でくわえて噛み切りやすくなっているとか。
戴いた切れ端のタルトを、それぞれ片手で持って、右手で操縦かんを持つ仕草をしながらいただいたのだが、店の女将・北村薫さまは「みんなこれを食べて突撃していったのよ」という。
「私は酸素マスク付きだから、マスクを外さないとだめだな〜」と言いつつも、コックピット内の情景が思われて感動ものだった。


当時のお話を少し伺った後、車で出発するとき女将は店の外までお見送りに出てくる。
そこで一同、窓を開けて挙手をして、「出撃します」というと笑顔で見えなくなるまで見送ってくださった。
昔、親しい隊員の出撃日には、一家で屋根に上って空を見上げたが、中には低空で旋回して去っていく機もあったという。


購入したお菓子箱の中に、これを報じた読売新聞のコピーが入っていたが、記事の初めには、「…海軍鹿屋航空基地がおかれていた鹿屋市にある菓子店「富久屋(ふくや)」が、特攻隊員向けに作っていた『タルト』と呼ばれる菓子を再現した。
貴重だった砂糖を使い、出撃前の隊員に渡されていたという。毎年、追悼行事を営む女将の北村薫さん(77)は、『国や家族を思って亡くなった若者たちを思い出し、平和の尊さを考えるきっかけになれば』と話している」と書かれていた。


≪海軍タルト復刻を報じる読売新聞記事と、片手で試食する私と菩薩のような笑顔の女将さん。≫

≪これが”海軍タルト”復刻版だ!≫

≪鹿児島の花を集めた見事な包み紙もご紹介!≫

12〜13日の2日間にわたった鹿屋訪問は、好天に恵まれ各所の慰霊塔を参拝することができた。「表記」の内容の講演に、隊員たちは真剣に聞き入ってくれたが、環境がそうさせるのだろう。
列線に並んでいた息の長い名機「P3C」は、南西方面の哨戒で隊員たちは多忙らしい。
まだまだ対象とする“敵潜水艦”の哨戒は「国民の期待に添えています!」とのことだったが、シナも眠っているわけじゃないから、やがて苦しくなってくるのじゃないか?


何よりも、その昔、一律予算削減方針で防衛費が削減され続けてきたことは、徐々にボディブローとして効いてきそうな気がした。
現にクリントン時代に大幅予算削減された米軍では、規律が低下して事故が多発しつつある。
全て政治の責任だが、中でも口先だけの人気取り大臣らの責任は非常に重そうに感じた。
空自を退官して既に20年強、ウサギとカメの寓話を思い出した視察旅行であった。


届いた本のご紹介
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「軍事研究誌11月号」
当然北朝鮮情勢が、話題の中心だが、巻頭言に志方先輩は「本音と建前の間で戸惑う国際社会」(最も危険な戦略環境が目の前に迫っている我が国)と題した論文の中で≪・・・安倍政権は子育てへの投資拡充や消費税の使い道見直しなどのため臨時国会冒頭での衆院解散を決めた。これを≪大義なき解散≫と非難する論調もあったが、朝鮮半島有事への体制整備の面からすれば、早ければ早い方がよかったと思える」
全く同感である。有権者が口から出まかせの泡沫政党に惑わされないことを祈りたい。


ディスクロージャー・軍と政府の証人たちにより暴露された現代史における最大の秘密:スティーブン・M・グリア編・広瀬保雄訳=ナチュラルスピリット¥3780+税≫
ついに米国最大のUFOに関する秘密文書の一部が公開され、わが国で邦訳された。
今や、空飛ぶ円盤番組などに惑わされている場合じゃないのだが…。
プレスリリースも紹介しておこう。

価格が若干高いことと、700ページを超える分量の全編が横書きなことが特徴だが、原文がリリースされた米国の機密文書だから仕方あるまい。関心のある方にご一読をお勧めする。

ディスクロージャー ― 軍と政府の証人たちにより暴露された現代史における最大の秘密

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UFOテクノロジー隠蔽工作

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指揮官たちの特攻: 幸福は花びらのごとく (新潮文庫)

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安保法制と自衛隊

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