軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

戦争はなくならない!『イスラエル・パレスチナ遺族の会』

2日火曜日,都内で、『イスラエルパレスチナ遺族の会』の代表が話しをした.
連綿と殺し合いを続けるこの両民族間に和解の日が来るのだろうか?と関心を持って参加した。
イスラエル代表は50歳の女性小学校教師で,1996年,テルアビブで起きた自爆テロで,当時15歳の長女を失った.パレスチナ代表は,27歳の女性弁護士で、1994年,イスラエル兵士に当時15歳の兄を射殺されたと言う.
この『遺族会』は,1994年にハマスにより息子を殺されたイスラエル人が,翌年パレスチナ紛争で家族をなくした遺族に呼びかけて設立した団体で,その後パレスチナ人の遺族も参加するようになり,現在では500家族がメンバーになり,教育と啓蒙活動を行っているのだと言う.
パレスチナの地に真に平和と共生をもたらすためには,双方が暴力ではなく対話を通じて和解するしかないとの認識を共有する人々の集まり」で、『パレスチナ紛争により双方から更なる犠牲者が出るのを防ぐ事で,草の根レベルで中東和平の下地を作る事を目的とする』というのだが,二人の遺族の訴えは体験に基づいているのでインパクトがあった.
主な活動は,ミーティングや野外キャンプ活動など,おもに高等学校を中心に回っているというが,昨年は1000回以上巡回したという.活動の中心は女性だそうだが,①まずお互いに知り合う事.②互いの声に耳を傾ける事.③そして共感し合うこと,『和解』の意味を教え,相手も『人間』である事、「敵」ではない事を子供のころから教えることが大切だと言う.
パネラーとして日本人の中東問題専門家と女性ジャーナリストが同席したが,遺族会の彼女達は,広島,沖縄を尋ねて,原爆を体験した日本人が「復讐心」ではなく「赦しの精神」を持って国家の再建に成功した事に「畏敬の念」を抱き,そこから何かを学び取りたいと望んでいます、と解説した.
講演の後,質疑応答になったが,米国駐在時に「イスラエル人とパレスチナ人たちが,30人づつサマーキャンプをしていて3年間続いたが、3年後にイスラエルの少年達が『兵役』に服することになったので続かなかった例があった。彼らはやはり現実が第1だと言っていた」という体験談をもとに,『単なる話し合いで問題が解決できるのか?その会をどういう風にもっていくつもりなのか?』という辛らつな質問をした人がいた.
ある女性は「違いを認めて『赦し』を掲げているが,宗教が異なる双方が『赦し』をどう説明したいのか?」と質問した.
私は「イスラエルは『国家組織』であるから『命令』は行き届く.しかし,パレスチナは『国家の体をなしていない』集団であるから統制はとれない.この差は決定的ではないか?』と思っていたが,同様な質問が出て、東洋英和学園大学の池田教授が明快に答えてくれた.つまり,国家(垂直)と非国家(水平)の差であるから、非対称の戦いである。和解は極めて難しいと言うのである.その上自爆テロで『殉教者』になれば,天国に行ける,と教え込まれた子供達の「呪縛」を解くのは極めて難しいのではないか?
犠牲者達の家族の苦しみはいたいほど良く分かる.しかし,漸く『赦しの心』が理解できた頃に皮肉な事に『兵役に服する』というのでは,暖簾に腕押しではないか?
アジアの「近隣諸国」にも,一向に「赦しの心」を学ぼうとしない人々がいる.
パスカルは言った.「正義無き力は圧制であり,力なき正義は無効である」と.
「互いに傷を舐め合うだけ』では、一時的慰めでしかないのではないか?
人間が神にならない限り『戦争はなくならない』と改めて考えさせられた半日だった.