軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

税金泥棒は誰だ!

昨日は某テレビ局に呼ばれ,日米共同訓練(空軍)について解説を求められた.先月ガム島で行われた共同訓練で,空自のファントム戦闘機が500ポンド爆弾の実弾投下訓練をしたが,その取材VTRを見ながら解説させられたのである.正直なところ『漸くここまで来たか.それにしても時間がかかりすぎた!』というのが感想であった.
我国は『専守防衛』という『独特な戦略』を持っているので,『周辺諸国に脅威を与えてはならない』から、『足が伸びる?空中給油装置』を外し,「爆撃コンピューター」も外された.従ってパイロットは,第2次世界大戦を想起させる手法で,命中率を向上すべく訓練に励まざるを得なかった.世界の常識という点から見ると,自国の軍事力を使い物に出来ないように「制限する活動」を行う人々は,いわば『反国家活動に従事する敵国に通じた非国民』ということになるのだが,『平和国家・日本』にはそんな考えは通用しなかった.自国の防衛力の発展を阻害したものが,マスコミには『英雄』として迎えられたのである.

昭和56年,ファントムの使用期間を延長するに伴い,レーダーやコンピューターを新型に置きかえる計画を出すと,社会党の大出議員が噛みつき,『爆撃能力が復活する!』と猛反対,国会が止まった事は有名である.そのさなか,当時「新自由クラブ」とか言う政党の数人が,ファントム戦闘機を見たい!と言い出したので,私が隊長を勤めた百里基地で『ご覧』頂く事になった.
国会議員様が,茨城の片田舎までお出かけになるのだから,部隊は念入りに御説明申し上げるべく,準備万端整えてお待ちした.2月の寒い日であったが,隊員達は「外套」もつけず,ファントム戦闘機をご説明申し上げたのだが,中に一人,「着流し?スタイルで上等なオーバーを身につけた方」がいて,私はファントムの外周を一巡してご説明申し上げた.彼がコックピット内を見る順番になったのだが,その方は「寒い,寒い!」を連発され,オーバーの襟を立てて、ストーブを炊き,熱いお茶が用意されている飛行隊指揮所に小走りで戻り,とうとう機内を見ることは無かった.国会で問題になっているコンピューター・爆撃照準装置は機内に取りつけられるから,コックピットを見なければ視察の意味は無い.いくら勧めても拒否され,『傍で見ると案外大きいものだ』と言うのが唯一の感想であった.後で仄聞したところによると,「機上の人」になったところを写真に取られたく無かったらしい.そういえば、外務大臣としてシンガポールの会議に出かけるとき、悪天候で飛行機が台湾の台北空港に臨時着陸した際、一歩も機外に出ることなく、中国にそのことを「自慢して報告した」ことがあったと聞いたからやはりそうか!と思ったものである.
この方は今も御健在で,衆院議長を務めておられるが、こんな方々から我が国の防衛力整備は長い間『いじめられて』来たのであった.
郵政法案問題で,右往左往する議員達を見ていると,当時も今も,国会議員の国家観はその程度で少しも進歩していないように思う.

他方国内の射爆撃場も3箇所しかなかったから,北九州の岡垣射場が返還されると更に困窮した.北海道の島松射場は陸自の管轄であり,青森の天が森射場は米空軍が管轄している.『満杯状態』の射場を,なんとか都合をつけてもらって,全国の飛行隊は『移動訓練』して技能保持を図って来た.しかし島松は周辺の開発が進み「騒音苦情問題」で下手をすると陸自に迷惑がかかる.飛行パターンを極端に狭めて窮屈な訓練をしていたが,余り制限すると今度は飛行安全上問題になる.
天が森射場の方も,この地方独特の「やマセ」の頃は訓練が出来ない.それでもなんとか工夫して,技量低下を防ごうと,各部隊は必死だった.
そんな「悪環境下」で育った私から見ると,ガム島の訓練場で,兄貴分の米空軍と一緒に,制限無く伸び伸びと訓練しているかっての部下達の姿は,感動ものであった.漸く一人前の空軍に近づいた!と『感動した!』.

私達が防大生時代,大江健三郎と言う若者に『防大生は恥辱だ』と非難され,メーデーが近づくと横須賀市内で労働者団体から『税金泥ボー!』と罵声を浴びせられた.
それがどうだ,テポドン騒ぎ以降一変した。昭和31年の鳩山総理時代に,『ミサイルなど,他に手段が無い場合は,敵地の策源地攻撃は,憲法に抵触しない』という見解が,改めて持ち出されたが,全く手をつけることなく『眠りつづけていた』こともばれてしまった.更に拉致問題北朝鮮の仕業だと分かるや,国民の怒りは爆発し、私は講演の度に『空自は北朝鮮を爆撃する計画があるか?』という質問攻めにあった.
政治的、物理的に手足を縛られ,空軍力の最大の特性を発揮できない状態に『放置』されてきた我が空自戦闘機部隊だから、『計画はありません』。『航続距離が制限され,爆撃装置も不備ですから困難です』と正直に答えると,会場から『税金ドロボーだ』という声が上がった.
自衛隊創設50年にして,180度環境が変わったことを痛感したものである.
国民の期待に応えるべく,若いパイロット達は,黙々と実爆訓練で腕を磨いている.私の体験から想像しても米軍パイロット達に負けてはいないだろう.最も米軍はF-15Eという最新鋭の戦闘爆撃機だから,ベトナム戦争時代の新鋭機・ファントムでは些か見劣りするが,米軍が関心を持っているのは,空自のパイロットの能力は勿論,それを支える整備員達,司令部要員達の能力が、同盟国空軍として信頼に足りるか?という点である.
VTRを見た限りにおいては,相当緊密な訓練をしている,と見うけられた.
永田町が私利私欲剥き出しの「混乱中」であっても,太平洋上で黙々と訓練に励んでいる後輩達に拍手を送りたい.国民は,どちらが「税金泥棒」であるか,ちゃんと見ぬいている.

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