軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

コメントから、将来の「日米関係」を考える

昨日は、我が平河総研の第三回講演会が学士会館で開かれ、拓大客員教授黄文雄氏の「日中の現在と未来」と題する話を聞いた。黄教授は台湾の高雄出身で、1964年に来日し、早稲田大学明治大学を出られた日本通である。2時間10分に亘って熱弁を振るわれたが、「アジアの安定のためには、『普通の国家』ではなく、『強い日本』が必要なのだ」。又、戦前の日本が色々悪かったように言われているが、台湾の日本世代の方々は「日本の悪かったことは戦争に負けたことだ」と答えるという結論には考えさせられた。
中国の現状は日々の日本のメディアでは窺い知れない動きがあり、汚職の蔓延(しかしこれは中国の“文化”だから消滅しない)、脱北者ならぬ“脱国者”がシベリアへ800万人、欧米に年間110〜130万人出ているというから、私が樺太(サハリン)で、中国人の流入が異常に多いと聞いたことを裏付ける。やがて我国にも「溢れる」のではないか?
資源争奪戦もさることながら、政略的に他国の『メディアを買収する』のが得意で、台湾では既に80%が買収されているというから、我国も既に大新聞は産経を除き“買収”されているのかもしれない・・・。極めて示唆に富む話であった。
次回は11月13日(日)午後12時半から3時まで、同じく学士会館で『石油戦争の舞台裏』と題して、評論家の宮崎正弘氏が登壇することになっている。

  • ところで、私のブログには熱心なコメントが色々寄せられるので大変参考になるが、いちいちお答えしている余裕もないし、個別的になるのも困るので意図的に無視?させて頂いている。しかし、次の二つについては私も興味があることなので論評しておきたい。

まず「いわし」さんの「地政学的に見て日本が中国の影響下に完全に入ることをアメリカは決して許さないと思います」という意見についてである。

  • 対テロ戦争を開始し、イラク戦争を通じて米国が悟ったことは、欧州においては英国を中心に、アジアにおいては日本を中心に「前進基地」を整備し、南部欧州、中近東、インド洋から台湾海峡にかけての、いわゆる「不安定な弧」に如何に対処するかが、米国の今後の世界戦略と見られるから、確かにその意味では日本は重要拠点である。そして少なくとも現状においては「小泉首相」はそれに答えているように見える。しかし、原則的には「昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵」であることを忘れてはならない。僅か60年ほど前、米国は蒋介石を応援して日本と戦わせ、自らも参戦した。如何に『スターリンの謀略を見抜けなかったから』だとは言え、血みどろの戦いを繰り返したことは事実である。
  • その後米国は米ソ冷戦、朝鮮戦争共産主義の脅威を悟ったが時既に遅かった。以来日米関係は極めて強固であったが、既に50年以上が経ちほころび始めている。その象徴が在沖縄米軍基地問題であろう。2006年に多分小泉首相は交代するだろう。そして2008年にはブッシュ大統領も交代する。共和党民主党かで大きくアジア政策が変わるだろう。おまけに台湾の陳水篇総統も交代し、民進党政権から国民党政権に戻る可能性を秘めている。韓国大統領も多分交代するだろう。その時点で選ばれた米国大統領が誰だか知らないが、アジア政策再検討で、親中派の補佐官の影響を受けないという保証はない。
  • アメリカ在住」氏が指摘しているように、産経新聞古森義久氏がリベラル派のエドワード・リンカーン氏の対中、対日発言を報告しているが、この程度の日本認識しかない「専門家」が、「クリントン政権時代に三年間ほどモンデール駐日大使の特別補佐官として勤務した民主党リベラル派」なのであるから推して知るべしであり、大切なことは、我国が如何にそれに対処し、国益を確保するかであろう。私の独断と偏見に基づく結論から先に言えば、「米国は中国がどういおうと、日本政府がどういおうと、日本から完全に撤退するということはイレギュラーな手段を使ってでも頑としてありえない」かどうかは実に神のみぞ知るだと思う。
  • 数年前、台湾で「空軍力に関する国際会議」が開催され私も参加したが、各種会議の討議内容よりも、厳重な秘密下にある、要塞化された「花蓮空軍基地」を視察した時、米国務省から参加した補佐官は目を見張った。私が「米国の救援まで十分に堪えられると思うが?」というと、「十分」と答えたが、要は自分の国を死に物狂いで守ろうという台湾の決意がそこに凝縮されているのが確認されたからである。その後の会議は実に活発で、大いに成果が上がったから台湾側としても有益だったであろう。
  • 「いわし」氏は、「イレギュラーな手段を使ってでも」と言ったが、米国の国益次第によってそれは十分考えられる。つまり第二の8月15日を迎えかねないということである。

世界中の200に及ぶ国家で、如何に小国であろうと「国家主権擁護」のために軍事力を行使することは当然の事であって、我国のように「全てを時の流れに身を任せて」希望的観測で判断することが如何に危険なことであるか、ということを、過去の大戦から学ばねばならないと思う。冷戦時代、我が自衛隊は、巨大なソ連軍の極東アジア集結を前に、来援する米軍の本隊が、一週間で駆けつけるのか、一ヶ月なのか、その間は玉砕覚悟で訓練し、米軍来援の信頼度を高めるために日夜心血を注いできた。我々のその覚悟を実際に見て知っている米軍人達が、快く支援してくれたから「冷戦」に勝ったのだと私は信じている。

  • 「韓国に関しては失っても日本があればという計算もあるでしょうが」という点については、その逆だと私は感じてきた。つまり、韓国防衛は、欧州へのソ連の圧力を東側から牽制するために必要だったのであり、アジアの拠点である日本防衛のための第一線だったのである。今や米国にとってはソ連は敵ではない。従って韓国撤退は再編の目玉である。その意味では当面「イレギュラーな手段」を講じても、日本本土は重要基地として確保する必要があるが、近い将来には、軍事技術の発達で、不要になることも考えておくべきであろう。米軍の新兵器開発状況を見れば「ロボット戦争」になることは必至である。その「実験」は、やがてイラクで開始されるだろうが、その結果次第では、米国が今後外国に基地をおく必要性が「再検討」される時が来るように思えてならない。
  • 今回は聊か長くなったがご容赦願いたい。いわし氏のご指摘は大変重要な課題だが、本文は「思いつき」のもので十分分析されたものではないことをお断りしておく。