軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

上海会議・その3

(承前)続いて李日本研究室長が「日本防衛戦略の転換と中日間戦略互恵関係について」と題して意見を述べた。彼女は早稲田大学に留学して文学博士号をもらった「知日派」だが、論文作成の資料の中心は「朝日」や「日経」などが主体になっているようだ。
 司会を務めた楊所長は「第一セッションはすばらしいプレゼンテーターであった。中日間の相互信頼を強調してくれた」と賞賛して11時から休憩に入った。
 15分間の休憩時間は、いつものようにコーヒーを飲みながらの雑談なのだが、この間の会話に興味深いものがある。『会議はあくまでも会議』なのである。
 続いて李女史司会の下、自由討論に入ったが、武貞氏が李女史のプレゼンテーションに対して「プレゼンテーションの典型的なパターンである」と前置きして、「日本防衛に対する過大な評価が目立つ。新聞、月刊誌、出版物などに影響を受けている」と指摘、これに対して李女史が反論する場面があって面白かった。
 次に若いアメリカ室副主任が「地域安全保障」について、自己の研究成果?と思える意見を長々と述べた。若い研究員にとってはこの場が出世の大事な場面らしい。彼女は「中日間の軍事交流はいまだ不十分だというが、これから大きくなる。過小評価しないほうがいい。中米間の交流もそれほど進んではいない。起伏は大きく、90年代から2000年代にかけて波があった。
 中米間の交流メカニズムが確立しているから(金田氏はこれを否定)中日間よりも安定している。中米間の軍人間の交流が盛んに行われている。防衛交流はプラスになっている。ところで、日米間においては米国の方がなぜ日本をリードしているのか?米国がいつもイニシアティブをとっているから、日本が米国よりも出来ることでも戒めている。
 日本は中国をどのように位置づけているか不明である。相手の利益を重視することによって発展していかなければならない」というのだが、若いだけあって、なかなか個人的見解を発言するので興味深い。上海は昔からそうだが、時々かなり“自由な発言?”が飛び出す。
 ただ、「相手の利益を重視すべし」という発言は中国にこそ当てはまるのではないか。
 中国は、アジアの隣国であり、日本にとっては『友好国』である。しかし、歴史問題や靖国問題では、日本国民は中国を素直に理解できないことが多い。最もこれは日本人自身が「決断して実行する」ことで大部分は解決できる問題ではあるのだが・・・
 彼女の意見については金田氏がまとめて答え、更に中国側へ質問した。
 これに対しては若いアジア太平洋研究室副主任が「中日相互理解の問題には関心がある。相手の戦略判断を正しく判断することが大事ではないか?そこで聞きたいのだが、日米同盟に性格上の変化が起きているのではないか?72年のニクソン訪中、日中国交正常化以降に比べて・・・。
 しかし現状は米国が一歩先に対中改善に進んでいて、日本は一歩遅れている。中米関係に比べて日中関係は遅れている。北朝鮮に対しての対応振りも、日米の対中姿勢は、ポジかネガかの変化、それが影響を及ぼすのではないか?」と発言した。
 これには専門家の武貞氏が「日中関係では、日本が核を持たないので、米国との同盟で対応している」ことを説明し、米国との同盟関係以外選択肢はないこと、「仮に日米同盟が破棄されたら、中国は日中同盟を結ぶ決意があるのか?日本に対する批判よりも、金正日に対する批判を先行させるべきである」と厳しく指摘した。

 次に李室長が意見を述べた。
「過大評価だというが、その原因は日本の国家戦略、軍事戦略の曖昧さが原因である。日本のマスコミの、例えばメカニズム化などという表現がそうである。日中間の戦略的互恵関係はまだまだである。軍事関係をカバーしているとはいえない。
 次に上海協力機構についてだが、この機構が対テロの性格を持つことは明確である」
 おっしゃるとおり、日本の戦略的意図が不明確なのは「憲法の不自然さ」にあるのだから、「誤解を解くためにも、日本の憲法改正にご協力を!」とコーヒーブレイク時に言ってやった。
 前回、上海協力機構の実態について「テロ国家と指定されているイランの大統領を招待しておきながら、対テロ協力もないものだ」と私が発言したときには、明確な返事はなかった。
 この国の研究者は、自己主張と弁明に終始する癖があるが、これがこの国の研究活動の実態なのだろうと思う。
 金田氏が若い研究員に対して「我々と認識が少々異なる」と回答、続いて海軍少将が「中日関係促進のためには、両国間でやるべきで他国を入れないほうが良い。相手側に対する一定の理解をもつ利益と意思を持つべきで、中国も日本も同様である」と言ったのは、台湾を意識してのことだろう。
 更に「日本は空中給油機を必要とするのか?ヘリ空母を持つ必要があるのか?(両国間を)プラス思考でとらえるべきで、いつも相手側に猜疑心を持っているとすれば解決できない」とも付け加えた。
 経済専門家の吉崎氏は「経済の観点から見れば実に簡単で、米中関係は経済問題が多いが、日中関係には問題はない」と皮肉ったが、更に武貞氏が中米関係の改善について「1、経済的分野、2、大国同士の波長:類は類を呼ぶ。例えば核や国連の常任理事国といったような・・・3、中国の戦略的外交が成功したこと。例えば日本の国連の常任理事国入りに反対した。日中関係が大切だと思うのであれば賛成すべきであった」と皮肉った。
 これに対して李室長が「(中国は)政府だけでは決められず、13億人の意見を聞かなければならない。小泉首相靖国神社参拝などをさせないこと!」と言ったのは、何を意味するのか理解不能であった。「13億人民の意見を聞く必要がある」という発言が出るとは寝耳に水?であろう。しかし、翌日も、同じような発言があったことは注目に値する。民主主義国でもないのに、どうして13億の国民の意見が聞けるのか?物理的手段としては『新華社通信などのメディアを使う』らしいが、本当だろうか?朝日新聞社屋にある同社に聞いてみたいものである。
 こんな『民主主義的?』発言が出るようになったのは、胡錦濤主席の指導方針に何か変化があったのか?それとも、人権問題で「非民主主義」な政治体制が非難を受けていることに対する「弁解?」なのだろうか?
 小泉首相靖国参拝問題を唐突に発言したが、これも理解できない。靖国を非難する発言をすれば出世するからだろうか?

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