軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記22「上海へ」

食事中、呉寄南氏が「ここはみかんの産地です。みかん狩りしましょう」と言い出し、ホテル別棟の裏山でみかん狩りに興じた。数種類が植えられているがどれも小ぶりで、種が多かった。しかしやや酸味があるジューシーな味であった。「日本のみかんの原種では?」と誰かが言ったが一番小粒なみかんは「鏡餅の上の正月飾りにぴったりだ」と私が言うと、「日本に輸出されています」という。遂に「榊」のみならず、正月飾りのみかんまで「中国」に占領されたのか!
13時30分にホテルを発ち、近在の古寺に立ち寄った。狭い民家が立ち並ぶ田舎道を、大型観光バスが通り抜けるのだからハラハラしたが、運転技術は見事だった。とにかく、そんな狭い通りにまで「自家用車」が駐車しているから車体ぎりぎりで通過するのである。クリアーすると自然に拍手が湧き、運転手が得意そうに笑顔を見せる。
古寺は「紫金庵」という1000年前の唐貞元年に復建された由緒ある寺であったが「三世如来」と呼ばれる三体の仏像の中の中央の如来の目線は「常に参拝者の方に向けられている」という。そこで試してみたがそのとおりであった。
「文化」大革命とは名ばかりで、実は「文化大破壊」の時代には、寺や仏像の殆どが紅衛兵たちの手で破壊されたそうだが、この寺は人里離れた所にあったから破壊を免れたのだという。「十六羅漢像」は、中央アジアとの交流を示すように、ペルシャ人そっくりの羅漢像もあり、中には「眉毛が長い」どこかの元首相にそっくりな羅漢像もあった。まさか彼のご先祖様?ではあるまいが・・・
 駐車場に戻る間の路地には、みかんやびわの花芽などを売る露店があって、客引きがすごい。びわの花芽は「スープに入れて飲む」健康食材だという。
 バスの傍に「老婦人」が待っていて、「ロレックスの腕時計」を数個出して「これ本物、安いよ」と「熱心に」勧める。日本語が出来るということは、日本人観光客がここまで来るらしい。余りしつこいので通訳のT君が追い払おうとしたから、私が「私、安い時計要らない。高い時計欲しい」と通訳してもらったら、ポカンとしたのでその間にバスに乗り込んだ。
 車内では大笑いになったが、「先生、あの時計はもちろんロレックスの偽物ですが、中の機械は日本製ですから皆買います」と言われてなるほど、と感心した。時計は時刻が正確ならそれで十分なのである。しかし、高級時計・ロレックスを売る「田舎婦人」は絵にならない!
 この「紫金庵」には、多くの人たちが参拝に来るそうで、江沢民氏も来たというから、「観光」に来たのか「参拝」に来たのか気になった。
 10分後、再び下車、「江南第1楼」に立ち寄った。科挙制度でナンバー1になったこの地方出身の青年が勤務した館だという。大いに期待された彼の所には「陳情?」が殺到したらしく、僅か24歳で「過労のため?」死んでしまったというから気の毒である。
 続いて隣接する「O花大楼」を見学した。入場料は40元である。3階建ての建物で、1922年から24年の3年間に250人を使って建てられた、三国志の物語を周囲に彫った、贅を尽くした建物であったが、オーナーは、上海で大成功した「麺職人」だという。3階が宝物倉になっていて隠し部屋まである。科挙で優秀な成績を収め、期待されながらも「過労」で早逝した青年とは対照的である!「秀才より鈍才のほうが長生きする」事が「証明」されたので、日中双方ともみんな「安心」した次第。
面白かったのは、建物を説明してくれる現地女性の「解説」が、瀋陽出身のOさんには通じなかったことである。日本でいえば、薩摩人の説明を津軽人が通訳しようとした、というところだろうか。
 14時40分、現地を出発して「上海蟹」が待つ夕食会場へ向かった。何回来てもこの周辺の道路事情には馴染めない。プロの運転手も迷いに迷って、いたるところで車を止めて聞いて歩く。それほど「開発」が急ピッチであるのは、この地方が「上海蟹」で有名になったためだと思われる。最初に来た時は、殆ど街灯もなく、単に陽澄湖に面した田舎に過ぎなかったが、来るたびに、「ラブホテル」のような建物が林立し始め、今や一大「ネオン街」に成長している。今回は、「蟹天蟹地」と言う名の立派なレストランで食べたが、上海蟹は雌蟹の卵よりも雄の方が独特の味がするのが良いという。しかし私には、身が詰まったタラバか毛蟹の方が食いでがある。
オスメス番いで二匹を平らげた我々は、満足して上海に向かい、約一時間半かかって、午後8時50分に「上海陝西商務酒店」という新築の政府指定ホテルに着いた。
渡されたカードには無造作に「7009」と書かれていたが、7階に向かったが4桁番号はない。多分「709」の間違いだとは思ったがトラぶってはいけないので、確認のため一度フロントに戻ると、一人の男が係の女性を怒鳴りつけている。女性は電話を掛け捲っているのだが、どうも要領を得ないらしく、客とも思えないその男性が大声で怒鳴るのである。フロントにはもう一人男性の係がいたが、こちらの方は夫婦客?に何か聞かれて書類を調べている。たぶん予約名簿を調べているのだろう。割り込むわけにもいかないので観察していると、まず女性の夫?と思われる男性が「いつまでかかるのか!」と言った風情で怒り出した。フロント係は焦ってノートを調べているが進展しない。遂に男性が本格的に怒鳴りだしたのでロビー中に2人の男の「怒鳴り声」が響き始めた。女性の係は、派手に怒鳴りつけられて「ウルルン」状態であり、男性の係のほうも遂に無言で立ち往生、全くフロントの機能を失っている。勿論私が待っていることなど全く無視されている。
しばらく3人の男女の「怒鳴り声」を聞いていたが、こちらもそんな喧嘩に付き合ってはいられない。と突然後ろの扉が開いてベルボーイ?らしい男が出てきたので捕まえたが英語が通じない。カードを見せてルームナンバーを示し、7009か?と数字を一つ一つ指し示すと彼は無造作に0を一つペンで消した。確認すると頷いたのでエレベーターに戻ったのだが、彼はフロントの二人を「応援?」することもなくそのまま消えてしまった。中国人は、自分の持ち場以外に手を出すことはしないらしい。つまり、加勢しないらしい。
案外軍隊でもそうではないか?とエレベーターの中で考えながら7階に戻り、部屋に入った。こうして「番外編」を楽しみ、9時半に漸く寛ぐ事が出来たのだが、この日のメモをノートから書き写しておこう。
a  高速道路が異常に発達している。まさか日本のODAではなかろうが・・・。沿道には「広告」が多く、まるで資本主義国さながらである。
b 外資系企業の進出は凄まじく、上海郊外の蘇州地区は大変貌を遂げている。
  例えば、シンガポールの企業は、シンガポール本国の面積よりも広い面積を確保しているという。
c 広大な敷地の工場には、それぞれの国の国旗がはためいている。米国、カナダ、韓国、中に「中華民国(台湾)」らしい国旗も見えたので気になった。勿論日の丸はなかった.
d この国には「サービス精神」と言うものが欠けている。共産主義国の最大の欠点である。
e テレビで、バスを含む7台の車が追突事故を起こした、と報道されていた。玉突きは「導球」と言うらしいが、何となく言いえて妙である。                (続く)