軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「情報流出、保全教育を徹底せよ」

情報流出“事件”は、ついに陸海空3自衛隊に広がった。今朝の産経新聞によると、海自では「秘密情報や個人情報は私用パソコンからファイル交換ソフトウィニー』を通じてインターネット上に流出した」が、新に陸自と空自でも、「訓練計画などの情報流出があった」という。「いずれもウイルス感染した私用パソコンから流出したとみられる」ようだが、国家防衛に携わる自衛隊が、情報を「防衛(保全)できない」様では頼りにならない。
防衛庁では当然その対策に躍起になっていると思うが、上辺だけを取り繕っても根本解決にはならないだろう。
聊か古い体験談になるが、私が現役時代、予算の制約で日用品はじめ、色々な機材不足で不自由した。例えば、飛行隊の「各種表示板」など、外注するにも予算がない。教材整備隊という専門部隊に発注しても、注文が多すぎるので一年先になる。それでも訓練は中断できないから、器用な隊員が「日曜大工」で勤労奉仕し、各種ボードを製作する。資材は「廃材」や、施設隊などから「融通」してもらうのだが、適材がない場合には、隊員の自費でまかなわれている「厚生費」で購入する。飛行隊の場合には、訓練でミスをすると、自主的に「罰金」を納入するシステムがあったから、それを流用する事が多かった。
こうしていつの間にか「国を守るのにポケットマネーで補填する」という「公私混同」が身についていく。例えば、その一例に「コピー」があった。
当時は「青焼き」と呼ばれる、湿式複写機が主流だったが、やがて今では当り前の「乾式コピー機」が導入され、驚くほど効率が上がるようになったが、使用量が増えるにつれて「制限」も増え、一日のコピー枚数が定められた。レンタル予算をオーバーするからである。そこで午後になると、「本日の使用は終了」と書かれたカードがコピー機にぶら下げられ、コピー機からマスターキーが抜かれる。そうなると悲劇である。書類は仕上げなければならないから何とか「終了していない部課」を走り回り、係りにお願いしてコピーさせてもらう。それでもダメな場合には、止むを得ず近傍の文房具屋など、コピー機材がある店に飛んでいってコピーする。そして時々「原紙」を忘れるハプニングが起きる! 勿論「部外秘」文書などになると、コピーそのものの実施に制約が加えられる。しかし「背に腹は変えられない」から、目をつぶって店でのコピーに踏み切る。
幹部学校で学生に課題を付与すると、殆どの学生が私物の「ワープロ」「パソコン」で仕上げた論文を提出する。貧乏教官には買えない最新器材を、学生達が所有していて、どんどん作業を仕上げていく。しかし、学校にはそんな予算はないから、課題作業は与えても、印刷用の紙は与えない。手書きの原稿用紙、ざら紙はあってもA-4版のコピー紙は、学生に貸与できない。学生は「不平を言いつつ」自費でまかない作業を提出する。
もっと若い頃のこと、スクランブル勤務についている待機所では、新聞を読むのが唯一の楽しみなのだが、それも予算が減り新聞が削られた。始めは飛行群司令が読み終わった“古新聞”が届けられたが、不定期である。そこで飛行隊の「厚生費」で新聞を取るか取らないかでもめた時代もあった。我々の時代にはそんな事が「習い性」になっていたので、当り前のように“ポケットマネーで補填しつつ”任務遂行したものであった。
IT時代になり、業務の大半は「パソコン」に頼ることになったが、例えば人数をまかなうだけの「ワープロ」を与えられたことは一度もなかった。良くて半数、それをたらいまわしに使ったものである。当時は私のような「古手」が多かったから、ワープロよりも手書きに慣れていたのでそれで良かった。しかし今や、若い隊員達は「ノートパソコン」は必須である。にも拘らず、機材不足、或いは「旧式機材」が支給されると、自分が手馴れた機材のほうが遥かに扱いやすいから「私物」を多用することになる。
こうしてブログを書いている私でさえ、息子の“古い”器材は使いづらいので、私のノートパソコンで書いてディスクに焼く付け、それを息子の器材で“発信”している。
だから今回の情報流出の「プロセス」はよく理解できる。おそらくまじめで熱心な隊員ほど「自宅にフロッピーを持ち帰って作業を続行していた」に違いない。
部隊だけで仕事を済ませ、帰宅後は「ゴルフ・マージャン・カラオケ」で“優雅なひと時”を過ごせるのは、いわば高位高官に限られる!そこで、対策の一案を提示しよう。
1、 所属隊員全員(勿論予備器材を含む)にいきわたる器材を調達せよ。
2、 ある一定期間を過ぎたら「最新器材」に更新せよ。
3、 残業を余儀なくされる部署の隊員(司令部などは殆どだが)に対しては、一部自宅持ち出しを許可するが、その際の秘文書取り扱いは保全規則に従って厳正に実施せよ。
4、 勿論、出来たら課業時間外に「秘文書取り扱い」をしなくて済むように業務計画を立案し実行せよ。電気店のサンプル器材じゃあるまいに、パソコンに鎖をつけて持ち出せないようにしても意味はない。
5、 機会を捉えては「秘密保全教育」を徹底せよ。それでも勝手に「持ち出した隊員」は、スパイであるから厳重処分せよ。
「魚は頭から腐る」という。一連の報道を見ていると、上級幹部の姿勢が問われているといわれても仕方あるまい。敢えて言おう、一将功なりて万骨を枯らせてはならない!