軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

不正輸出に見る「判断力低下現象」

昨日の産経新聞社会面のあまりの「異常さ」に、ついつい情けなくなって「所見」を書いたところ、予想以上のコメントが寄せられ、本人が驚いた。色々なご忠告も含めて、日本の現状にいかに関心が高いか、危惧している方々が非常に多いことが分かり、逆に心強く感じた次第。

ところでまたまた「異常な」出来事で、国内が揺れている。「不正輸出・ミツトヨ社長逮捕」事件である。「イラン・リビアに核転用可能な機器」を不正輸出した事件だが、この種事件は絶える事が無いだろう。産経に掲げられているだけでも、平成3年の「空対空ミサイルの飛行安定装置を民生品と偽ってイランに輸出した日本航空電子事件」、平成12年の「対戦車ロケット砲照準装置をイランに輸出したサンビーム事件」・・・、今年に入ってからは「ヤマハ発動機無人ヘリ不正輸出事件」などなど、浜の真砂のように絶える事は無い。
しかし、この種事件が「大きく」報じられている間はむしろ“健全な機能が働いている”と理解したい。昨日の「社会面記事」のように、小見出しになり、べた記事になった時のほうが恐ろしい。

いつも思うのだが、私のように「不経済活動」を34年間も続けてきた者には理解に苦しむことだが、折角世界一の「精密機器製造会社」になりながら、九仞の功を一簣に虧くような行為になぜ走るのだろう?
3次元測定器は確かに高価なのだろうから、2台売れば相当利益が上がるのかもしれない。しかし、その「たった2台」のために失うものがどれほど多いかを、経済専門家である筈の社長たちは検討しなかったのだろうか?
軍事作戦を計画するときは、国家存亡のときだから勿論「採算は度外視」するが、それでもわがほうの被害については「細心の分析」をする。いたずらに兵を損耗させてはならないからである。
ミツトヨ社は、今回の「不正輸出」が発覚したことによって、どれほどの損害を受けたのだろう?それでも2台売ったほうが儲かったのだろうか?得意な「損得勘定」の帳尻はあっているのだろうか?

話は飛ぶが、プール事故でも、パロマガスでも、やるべきことをやっていれば、犠牲者は出なかっただろうし、後の始末で莫大なエネルギーを使うことも無かっただろう。ちょっとした判断ミス、手抜かりがもたらす「組織全体の損失」と「社会がこうむるエネルギー損耗」は、損益計算書に計上されていないに違いない。
コメントにもあったが、これらの「不祥事」が絶えない原因は、危機管理に対する意識欠如が最大のものだが、それに伴って、「大人たちの判断力低下」がその底辺にあると思われる。要するに「物事を考えない」様になった、いや、考えなくても済む世の中になり、それに甘えているのである。

東北で勤務したとき、面白い話を聞いた。バブル崩壊で銀行は四苦八苦していたときだったが、ある銀行幹部が次のような実話を紹介してくれた。
バブルのとき、銀行は競って「本務以外の事業」に手を出した。そんな中にも「それは邪道である。預金者に対する裏切りである」として、自己の意見を頑として曲げなかった方が都市銀行にいたらしいが、邪魔になった都市銀行は彼を地方銀行に左遷したという。地方銀行に来ても、彼はその信念を曲げずに指導するから、東北地方の銀行が集まって会議するとき、他銀行はみんな「右肩上がり」で急伸長、意気盛んなのに、一人彼の銀行だけは伸びが低く、銀行員たちは肩身が狭かったらしい。いつも陰で「すべてはあいつのせいだ。あいつさえいなければ・・・」と迷惑がっていたというが、やがてバブルは崩壊した。その後は他の銀行は皆大幅な“右肩下がり”で、中には水面下に“沈没”したところもあったが、彼の銀行だけは着実に伸びていた。そのときに言った銀行員の言葉が面白い。「彼のおかげだ。やっぱり信じていて良かった!彼は神様だ!」
「司令、人間とはそういうものですよ。多勢に無勢、だめだと分かっていても流れには抵抗できないのが人間です。そこに決定的な判断ミスが生じる。彼は絶対にそれが出来ない性格だったのでしょうが、彼のような存在は日本社会においては稀有な存在です」と銀行幹部は私に言った。
ふじみ野市でも、パロマガスでも、今度のミツトヨでも、そんな「頑固者」がいなかったのだろう。周りに「ゴマすり」を集めて、ゴルフ・マージャン・カラオケで舞い上がっていると、こんな結末を招くものである。
それが単に一民間企業の倒産だけで終わるのならばいざ知らず、「不正輸出」によって、国家が危機に瀕することを思えば、決して許すことは出来ない「トップの判断力低下現象」であろう。