軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

チェイニー米副大統領の訪日

 昨日は久しぶりに映画を見た。「硫黄島からの手紙」だが、予想よりも淡々としていたのが印象的だった。もっと早く見るつもりだったのだが、時間がなかったのと、友人達から「色々な所感」が耳に入っていたので昨日まで延び延びになった。
 既に多くの所感が出尽くした感があるから省略するが、一つだけ言えることは「実戦」とはもっと凄いものだ、ということだろう。戦闘機乗りとして34年間勤務した私も「実戦経験皆無」という点では素人の域を出ていない。スクリーンには確かに「臨場感」はあったが、やはり日本人の役者の中には緊張感がなく、「演技」を感じたが戦後の「平和」な環境で育った若者に、それ以上のものを求めるのは酷なのかもしれない。私は現役時代に硫黄島には2度行った事がある。あの熱気渦巻く洞窟の中で、強大な上陸軍と戦った先輩方の苦労は、今の日本人にはピンとくるまいと思う。しかし、作品としては今までにない企画だった。
 
 さて、チェイニー米副大統領が来日した。数週間前に、一部にわが防衛大臣との会談を「パス」することが報じられていたがそのとおりになった。防衛「庁」は、「省」になって皮肉なことに同盟国から「無視」された。2プラス2で、少しは存在感が出たところだったのに、再び外務省が優先されてしまった。やはり、この国の「安全保障」の実権は「外務省にあり」ということなのだろうか?
 既にインターネットで真偽不明にしても多くの情報が流れている。一般的には初代防衛大臣の「失言」が影響したことになっているが、裏には相当深い問題がありそうである。最も、トップの大臣自らが「間違いだった」と公言したのだから、あの失言は、サマワに派遣されて苦労した6千人もの陸上自衛隊員、クェートで撃墜されることを覚悟で飛んでいる空自の輸送機部隊員とその家族達にとっては立つ瀬がない。自分達の苦労は一体なんだったのだろうか?と落胆したに違いない。それだけでも大臣失格なのだが、米国が今最重要視していること、つまり「頭が痛い」事は、イラク・イラン問題を抱えた「軍事問題」であることは疑いないのだから、強固な同盟関係にある(筈の)日本の防衛大臣との、たとえ「表敬訪問」であったにせよ、会う暇が全くなかったということは、極めて異例である。
 インターネットで流れている関連情報の中に気になるものがいくつかあるが、想像するに最大の問題は「情報網」にあるように思われる。
 つまり、我が国には「スパイ防止法」がなく、政官民挙げて情報管理がずさんであることは有名だが、とりわけ21世紀のアジアの覇者?を狙う中国の軍事力増強に対する米国の警戒心は、極楽トンボの日本人は理解出来ないであろう。
 これからは「仮説」であるが、例えばF−X選定で、F−22Aが選ばれた場合、機体全体が「高度な機密」であるからこれをわが国内で生産する時に情報が漏れることは必定である。しかも“防衛産業関連業種”が、中国国内に根を張っている以上、米国はそれを警戒することは当然である。
 北朝鮮牽制のために韓国内にはF−117ステルス攻撃機が進出しているが、沖縄に最新鋭のF−22A・12機が進出してきた。勿論、半島有事に備えた動きと見るべきだが、他方F−Xの「デモフライト」だとも受け取れる。航空自衛隊は、21世紀を見据えて今更F-15バージョンを・・・というわけにもいかないだろうから、当然F−22に最大の関心がある。しかし、その機密情報が、日本に売却したとたんに中国に流れたのでは、同盟国としてはたまったものではない。
 その点を日本の政官民関係者に「警告」するために、1等空佐の情報漏えい問題を政府に突きつけたとしたのならば、何と無く納得がいく。
 その昔、田中角栄氏は、ロッキード問題でスキャンダルを暴露されて失脚した。外務省では、女性事務官と「情を通じた」毎日新聞記者が特種を物にして顰蹙を買った。今回もその臭いがするが、わが国内での中国、北朝鮮などの「工作活動」も凄まじいが、同盟国の情報活動は遥かにその上を行くことを忘れてはなるまい。
 報道によると、極めてタイトなスケジュールであったにも関わらず、チェイニー副大統領は横須賀基地で米軍将兵たちとその家族を慰問すると同時に、陸・海・空3自衛隊の幹部とも会談したという。事実ならば、大臣はすっかり「コケ」にされたことになる。勘ぐれば今回の副大統領訪日目的は、防衛大臣更迭のシグナルとも受け取られる。
 これらは、情報小国・日本の無様な実態の一部を示すものだが、世界情勢が極めて流動的な今、米国にとっては死活問題であり時間がない。
 考えてみるが良い。4月は我が国の統一地方選挙、7月は参院選挙である。政官界はそれに血道をあげているが、しかし同じ4月の中旬には、北朝鮮が先日の6者協議の決定に従って「原子炉凍結」を提示する期限であり、他方イランでは、大統領が国民に「偉大な日が訪れる(核実験)」と期待するよう宣言した日とも一致する。更に我が国には温家宝中国首相が来日する。
 この4月は世界中に今までにない緊張が生ずる可能性があるのだが、「首相を尊敬していない」とか、「事務所経費問題」だとか、とにかくわが国の政治家達の意識のずれはあまりにもひどすぎて話にならない。
 米国軍部は、当たり前のことではあるがイラン攻撃計画の立案を終わっている。イスラエルに先制攻撃されたのでは、中近東情勢は混乱する。米国主導でなければ解決は困難となる。今回の作戦計画は、その昔、クリントン政権下で立案され、ゴア副大統領までの決済が済んでいた対テロ先制攻撃計画の「オクトーバー・サプライズ・オペレーション」が、こともあろうにヒラリー女史の干渉で、クルーズミサイル100発発射という“中途半端な攻撃”でテロリスト達を勇気付けてしまった事の反省の上に立った緻密な作戦計画であろう。
 世界情勢は重大な分岐点に差し掛かっているのであり、我が国も好むと好まざるとに関わらず、当然その流れから逸脱できないのだ、ということを政治家達は真剣に考えるべきで「お遊びの時間は既に終わった!しっかり仕事をせよ!」と苦言を呈しておきたい。