軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

日米関係影響なし?

 昨日は“政界裏話”の長電話を受けていたところ、何度も「キャッチ」がはいる。相手の話は佳境に入っていたところだし、大変面白い内容だったので、無視し続けたのだが、それにしても多い。
 話が一時間以上にもなったので、申し訳ないが「キャッチ‥」といって話をキャッチに切り替えたが、その電話は別件だった。
 午後一時過ぎ、昼食をとろうとしていると電話が入り、携帯もなった。何と名古屋でF−2が墜落したので、解説して欲しいという取材要求だった。名古屋なら三菱、空自の事故ではないので安心したが、離陸時の一番緊張する時点での事故、多分エンジントラブルで失速だろうとは思ったが、最初に取材を請求してきたNHKに「いつまで老兵を頼るのか?若手の適材がいるから彼らにしてほしい」と言ったのだが、昔の広報室長時代からのつながりで、断りきれず録画取りに出かけた。
 スタジオでNHKが入手している画像や情報に目を通して、1、エンジン推力減。2、操縦装置の異常、と感じた。勿論それにはパイロットの操縦上の問題も含まれるが、離陸直後の「異常事態」対処手順は、1、浮揚直前の場合は「離陸断念」、2、浮揚後は、残り滑走路の状態によって着陸か離陸続行かの決断を迫られる、まさに一瞬の判断が生死を分ける緊急手順中最も緊急なものであり、大概はパイロットの経験と決断力、それに「運」がそれを分けるのである。
 昨日の場合は、浮揚後の「脚挙げ」直後にエンジン推力減が起きたように思われるから、パイロットとしては機体を損傷させないため、再び脚を下ろして接地するか、そのまま離陸を継続して空中で対処した後緊急着陸するかの決断を迫られただろう。
 気になるのはその直後、機首上げ下げ現象(ピッチの変化)が発生していたように見えたことで、それがパイロットの意思によるものか、電気的信号のエラーによるものか、エンジン推力減から来た現象なのかは不明だが、いずれにせよ、急角度で機首から滑走路に接地したように見える。
 昔司令を務めたことがある立川の「航空安全管理隊」も調査に参加したようだから、いずれ原因は特定されるだろうが、時期が時期だけに「隠蔽?」されることの無い様に願いたいと思う。
 ところで、その後もこれに関する電話があったが、中で特に“面白かった”のは「事故陰謀説?」であった。三菱重工では、過去に多くの「不審な事例」があった。例えば長崎造船所で建造中のイギリスの客船が炎上した事件(放火?)、今回同様、点検修理で小牧に運ばれた10数機の空自の戦闘機の電気ケーブルが故意に切断された事件(サボタージュ?)などなど、どうも我が国の戦力低下を狙う分子の「工作」ではないか?というのだが、確かにこれらの事件の結末はうやむやであった。
 一旦「何か隠蔽しているのでは?」と疑われた組織は、その後“一生”疑いがついて回るものである。例えば「ミートホープ」も、「白い恋人」も、「赤福餅」も「福餅」も、「鹿児島大根」も「各地の鰻」も、一度信用を失ったらその挽回には異常なほどの努力と年月がかかる。それは国民の信頼を裏切った当然の報いなのだが、その結果に気が及ばないのが、傲慢な「ワンマン」社長や「3代目」の未熟と不徳である。
 今回のF−2事故は、守屋“事件”と山田洋行問題など、防衛利権を巡る陰湿な政界を含む事象が多発して、国民が疑いの目を持っているときだけに、公明正大な解明が望まれる。特にF−2のエンジンも「GE社製」だというので、記者の質問もそれに対する“誘導”が何と無く感じられた・・・
 何をさておき、私が今一番注目している台湾海峡と南西方面を巡る鬩ぎ合いから推察すると、中国空軍はこの事故に最も関心を持って情報収集しているだろうから、防衛上の機密事項まで「暴露」する必要は毛頭無い。問題は、それに隠れて「肝心要な事故原因」を隠蔽してはならないということである。再発防止策の立案こそ喫緊の課題であることを努々お忘れなく。

 ところでとうとうテロ特措法の期限が切れた。今朝の産経新聞は「派遣部隊きょう撤収(3面)」と書き、7面には「海賊多発ソマリア沖」「アジアの“生命線”米海軍が救助活動」「海自撤収で燃料補給影響も」と大きく伝えた。日本のケミカルタンカーが海賊に奪われ、その後は北朝鮮の貨物船が襲われ、この海域で任務についている米海軍の駆逐艦が掃討作戦をしているというのである。
 我が国のマスコミが、今頃この海域の現実を“呑気な国民”に伝えるのは遅きに失するのだが、伝えないよりまだましだろう。やがて「高鈴」のような大型原油輸送船が沈められ、ガソリン価格が1L200円に上昇でもすれば、国民も大慌てなのだろうが、今のところそうじゃないから呑気なものである。人間、ぶん殴られなければその痛みを感じないものである。

 同じ7面に「米国防総省・日米関係影響なし」「海自撤収・代替手段確保する」という国防総省当局者談が載っている。ゲーツ国防長官が今月上旬に来日するのを前にした会見なのだが、中に「日本から受けた(給油)分だけ別のタンクに入れておくわけにはいかない」という反発の声も強いという。「米政府は給油活動が停止されることに懸念を示しながらも『代替手段を確保する』ことで被害を最小限に食い止めたい考えだ」という。
「同当局者は2005年2月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、今後の日米同盟強化の指針『共通戦略目標』を策定して以降、ミサイル防衛の推進など両国が『実に多くのことを成し遂げた』と述べ、同盟強化の意義を強調した」そうだが、私には昭和57年5月8日、訪米した当時の鈴木善幸首相がレーガン大統領と会談し、共同声明で「日米同盟関係」を明記し、1000海里シーレーン自主防衛構想を打ち出してレーガン大統領を喜ばせたが、帰国後の閣議で「日米共同声明の『同盟関係』の内容には軍事的側面を含まない」との判断を示し、1000海里防衛をぶち上げた御本人が『外交当局者に対して不満を表明、それが元で伊東正義外相と高島益男外務次官が引責辞任したことがあった。
 こんな日米関係の歴史を振り返ると、米国側は「実に頼りない同盟国だ!」と不快感を持っているに違いない。占領直後、マッカーサーは「日本人は12歳」と言ったが、いまや「3歳児以下」ではないのか?そういうと家内は「3歳児の方が魂はずっと綺麗よ!」と言った。
 今回の「海自部隊撤収」は、今後の日米関係に影響なしだとは考えられない。米国防総省当局者は“心にもない”「リップサービスをしたのだ」と肝に銘じておくべきである。

 ところで、南西方面に緊張感が高まっている。航空関係者としては、下地島の活用は急務だと考えているのだが、この国の為政者達は一向に鈍感で全く施策を立てないし実行する気配もない。守屋次官にいたっては、下地島を地元議員と視察したと国会で証言したが、本気だったのか否か・・・
 そこで今月発行の雑誌「正論」に、南西方面の問題点を概説した一文を書いた。表題が「拝啓・・・石破防衛大臣」という「恋文形式?」になっているのが聊か気になるが、内容は真剣に書いたつもりだから、ご笑覧いただきたい。
 橋本内閣時代に、唐突に発表された「普天間基地返還問題」も暗礁に乗り上げて早10年以上たつ。その間、政治家が暗躍して利権争いに走り回っていたという。中には宜野湾市の一等地を買い占めて、返還後の地上げをもくろんでいる大物議員もいるという。
 いやはや、安全保障という神聖な事業を手玉に取った議員や官僚たちによるハイエナのような活動が始まっているのだとしたら、現地沖縄の県民は、またまたヤマトンチューにうまく利用されただけ!ということになりかねない。しかし、それにはまず沖縄県民の自覚が第一に求められるのであるが・・・
 
 今回の撤収が、沖縄の基地問題も含めて、日米「同盟関係」に影響しない筈は無い。喜んでいるのはどこか?という観点を忘れず、真剣で真面目な同盟関係を構築する努力を継続すべきである。

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