軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

組員篭城(町田市)事件に見る??

 昨日は、サンケイプラザで開かれた「正論の会(代表・三輪和雄氏)」主催の集いで講演してきた。与えられた題は「わが国を取り巻く危機」であったが、日中間の諸問題、中台問題などから、予測される事態に備えよ、として、主として「間接侵略の危機」についてお話した。同様な問題について、雑誌「正論」6月号に寄稿したので来月発売の同誌をご一読いただきたいが、編集担当者がつけた「『友好』恐るべし!間接侵略に侵された日本の現実」と云うタイトルはさすがだと思った。内容がそれにどれほど伴っているかは疑問だが・・・
 会場では、ご老人から「天皇訪中を要請した温家宝首相の態度」と青年から「南京大虐殺事件はあったのかどうか?」という質問が出たが、時間の関係で十分な回答はできなかった。南京事件は別として、今回の天皇訪中要請については聊か「奇怪な」感じがしているので、少し史料を調査したいと思っているが、いずれにせよ、平成4年10月の天皇訪中は、中国の政治利用だから拒否すべきだという国論を無視して時の宮沢首相が強行したのであったが、その後楊尚昆国家主席自らが「政治利用」であったことを認めた前例がある。
 2008年の北京オリンピックには“何が起きるか”わかったものではない。只でさえも環境が著しく悪化し、空気も水も汚染されているところへ、両陛下が訪問される必要はない。テロの恐れも多分にある。両陛下の健康上の理由からも絶対に応じてはなるまい。二度と宮沢総理時代の悪前例を繰り返してはならない。

 ところで、国家の治安の乱れに応じて起きるのが、外国からの「間接侵略」である。私は「直接侵略事態」よりも、間接侵略を警戒しなければならぬ、と説いているのだが、その場合の“戦力”は勿論警察である。
 警察庁の要員と、県毎に配備されている地方警察(一般職員を含む)の“人的戦力”は約29万人、間接侵略事態発生に伴い警察力を補完する自衛隊の戦力は3自衛隊総計約24万人(主力の陸は16万人)である。海上保安庁は一桁少なく、わずかに1万2千人に過ぎない。他方“合法的”に我が国に居住する外国人数は約200万人(韓国・北朝鮮=60万人、中国約60万人)、不法滞在者数は約20万人(韓国4万、中国3万)というから、220万対29万、つまり警官一人当たり約8人の外国人を相手にする勘定になる。勿論外国人の全てが“対象”になるわけではないが、日本人の犯罪者も対象にするわけだから、とても今の警察力で、万一の場合に対抗できるとは思われない。そこで機会あるごとに治安対策として警察官の増員を願ってきているのだが、そんな中での今回の「町田市の篭城事件」の対応振りには首を傾げざるを得なかった。
 産経新聞によれば、この暴力団組員は、コンビニ前での殺人後、20日午後0時5分ごろに自宅の都営アパートに立てこもったという。アパートには23世帯46人が居住しているが、部屋には彼しかいないことがわかっていて、「警視庁は半径250メートルを規制し、捜査1課特殊班や機動隊がアパートを包囲。1時頃から組員幹部が十数回にわたり携帯電話で説得したが、午後4時半ごろに組長が電話した後彼は電話に出なくなり、電源も切られた」。彼は電話で「申し訳ない」と謝罪を繰り返し、以後「捜査員が拡声器などで呼びかけても応答せず、照明もつけなかった」という。その前に彼は警官めがけて9発発射したらしいが、以後の動きはなかった。
 そして「篭城から15時間後の21日午前3時5分、警視庁捜査1課特殊班の捜査員30人が催涙弾を打ちながら突入」して現行犯逮捕したというのが今回の事件のあらすじである。
 随分時間がかかるものだ、と不思議に感じていたのだが、21日の31面に「今回の立てこもり事件の解決に時間がかかっているのは、男の部屋には人質が居らず、危害を加えられる恐れがないためだ」と云う解説が出たのには唖然とした。記事は「警視庁は説得に時間をかけ、犯人が疲労で投降してくる作戦を描いた」と続くが、自分の都合の良い作戦なんてこの世にあり得ない。
「警察幹部は事件の全容解明には、犯人を生かして捕らえることが必要。そのためにも粘り強く説得に当たった。持久戦を覚悟で取り組んだ」と話したそうだが、あの情況で犯人が生きているという証拠はあったのだろうか?テレビでは、関係者が「家の中でトイレを使う音がした」といったそうだが果たして本当か?
 今朝の新聞には犯人は「捜査員の突入前に頭を撃って自殺を図っており、意識不明の重体」とあったから、午前3時の警官隊突入であわてた彼が自殺を図ったのか?と思ったが、記事には「容疑者はあおむけで自室に倒れ、ロシア製軍用自動式拳銃マカロフ2丁が落ちていた。右後頭部から左目付近に弾が貫通、血は乾いていた。発砲音は確認されておらず、自殺を図った時間は特定されていない」と続く。つまり、疲労して投降してくる希望的作戦は最初から当て外れだったのである。同じアパートの住人にとってはいい迷惑でだったろうと気の毒だったが、本当に本人が「水洗トイレ」を使った、つまり生きていた確証はあったのだだろうか?他の住人のトイレの音だったのではないか?どうも20日午後4時半以降、彼が組長に「謝罪した」以降、携帯電話も繋がらなかったのだから、その時点で自殺を図っていたのだと思われる。「血が乾いていた」と記事にあるから彼が自殺を図った時刻は特定できるだろうが、そうなるとそれ以後の約11時間の「説得作戦」とは一体なんだったのだろう?と思う。生かして捕らえるに越したことはないが、生きていなかったら捜査はできないのであろうか?
 今後の捜査に期待するが、私は現場で苦労した捜査員達を責めているのではない。報道を見る限り、疑問だらけで納得できない点が多かったのである。
「兵は拙速を尊ぶ」とか、ナポレオンが「砲声に向かって進め!そこに戦場がある」と部下に訓示した例をあげて論うものでもない。
 要は、国家騒乱事態は、一箇所で悠長に情報収集してかかれる余裕はないということである。同時多発テロ、連続爆破、陽動作戦などなど「敵の作戦」は巧妙である。それに対応する側が「一点集中」することが如何に危険であるかと云いたいのである。今回のたった一人の篭城事件で、どれほどの人員機材が動員され予算がどれだけかかったのかは知らないが、15時間もかかって漸く解決する様な状態では、少なくとも「民間警備会社」だったら“倒産”していたに違いない。いや、倒産は避けられても大赤字、少なくとも「株価は大下落」していたに違いない。
 国内騒乱時に、国民が唯一信頼している組織である。指揮官の状況判断能力を重視した実戦訓練を更に積んでもらいたい。コツコツと地道に技量を築き上げてきた「団塊世代」のベテラン実務警察官の大量退職が始まっている。
 せめて警察にだけでも「専守防衛」精神は捨ててもらいたい、と思った次第。