軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

ニセモノ文化・その2

 今朝の産経一面トップに、海自の情報漏洩事件の続きが出ている。パソコンは確かに便利な「ツール」だが、使い方を誤れば、このような事態を招くのは当然である。だから、管理者はこれまで以上の関心と教育と注意力を欠かしてはならないのである。空自は早くからBADGEシステムを導入し、コンピューター化には慣れているはずだが、実際にキーボードを叩くのは“若い幹部”であった。「ワードプロセッサー」が導入され始めたのは、昭和55年ごろだったが、私もそうであったが、書き上げた原紙を部下に打ってもらうのが常態だった。
 高級幹部になった頃、指揮通信系がインターネット化されたが、キーボードを自分で自由自在に打てる幹部は、そうざらにはいなかった。勿論私もその一人だったから、意図的に殆どこれを使わなかった。司令官同士の会話は秘匿電話で十分だったのである。しかし、若手幹部は実に柔軟で、個人でパソコンを持ち、自由自在にこれをこなしていた。私が市谷で戦略教官をしていた頃、学生の回答は殆ど「ワープロ」で打たれたものになり、個人の“個性”は消えうせた。図上演習に自家用車でPCを教室に運び込み、プリントアウトした解答用紙を提出するものだから、読むのは楽だったが、教官としては綺麗に印刷された文面が「正解」であるかのような錯覚に陥ったものであった。そして何よりも彼らが困ったのは、大量消費する印刷用紙を個人負担することで「せめて官費でまかなってほしい」といわれて対処したことがある。このとき私は1佐だったが、将来、学校はまだしも、部隊における「秘文書管理」が困難になることを指摘したが、当時は誰も関心はなかった。そして私が教育課長時代に松島基地を視察したとき、それが現実になっていることを確認した。パイロット学生の個室を点検して驚いた。ノートパソコン、プリンター、携帯電話などなど、3種の神器が溢れていたのである。つまり、上級幹部の頭の中は「ゼロ戦時代」、下級幹部達は「F−15時代」だったのである。フロッピー一枚に収納される情報はまさに「無限」と言って良かった。その中のどれが「秘」で、どれが「普通」なのか、赤いゴム印がドカン!と押してある今までのような「秘文書」なら、みな取り扱いに緊張するが、フロッピーでは感じない。今回の事件の発生は当然と言えば当然だったと言える。是非とも、国民の信頼を回復する適切な処置がとられるよう防衛省に期待したい。

 ところで、前回中国の“ニセモノ文化”体験談を書いたところ、心当たりがあるコメントが寄せられていたので納得した。HPを開けて驚いたのだが、中国の「コピー卵」のことである。
 一昨年、訪中したとき、仲間数人が日本の会社駐在員と夕食したのだが、その時「生卵」を食べて死んだ日本人が少なくとも3人いる事を教えられたというのである。その中の一人は、駐在員が見舞った際「生卵だ」と言って死んだらしい。そんな重大なことが、全く報道されなかったし、その後も闇の中であることを不思議に思っていた。
 そこで個人的に調べてみると、香港のある情報に「人間の毛髪などを回収してアミノ酸を作り、これで作った醤油を輸出している」と云うものがあった。記者が秘かにその村に潜入したところ、間違いなく、近在の理髪店(と言っても日本とは全く衛生状態が異なるのだが)から集めてきた毛髪で、醤油などを作っていたという。村人は、これは「毒」だから絶対に使わないと言っていた、とレポートにあったが、まさか日本に輸出されているのじゃ?と思ってきた。「蜂蜜」もそうである。10年前に万里の長城を観光した際、まだ高速道は未完成だったので、途中から山沿いの旧道に入ったところ、道端の無人スタンドに蜂蜜のビンが並べられている。バスを止めさせたところ、藪から数人の女性が飛び出してきて商売を始めた。“蜂蜜”のビンの中身をかざして見たのだがどうも胡散臭い。ガイドが私に「先生、本当に買うの?」と聞く。「もし良かったらお土産にと思うが・・・」と答えると「絶対に止めなさい」と云う。「君は中国人だろう、同胞の商売を邪魔する気か?。君は買わないのか?」と云うと「絶対に買わない。これは毒よ。何が入っているかわからない。先生止めなさい」と云う。彼があまりにも真剣だったので、結局誰も買わなかったから婦人たちからブーイングを浴びつつバスに乗ったのだが、バスの中でガイドは我々にこう注意した。
「中国人は信用出来る店でしか買わない。私が毎日水(ペットボトル入り)を決まった店で買って先生たちに渡しているのも、先生達が病気になったら私が困るからよ」と云う。誰かが「ペットボトルは封が切ってあるかないかで新品かどうかわかるじゃない?」と聞くと、「日本人は皆そう云うが、水を入れて蓋をハンダごてで止めるとわからない。日本人皆騙される」と笑った。ガイドが毎回出発時にホテルの裏の「雑貨店」に立ち寄ってペットボトルを運び込むものだから、我々は仲間の業者と結託して儲けているのだ!?」と勝手に考えていたのだが、実は彼の配慮だったのである。
 2000年秋、桂林奥地の農村で、ほうれん草らしい葉物野菜に、まるで「花咲じじい」のように直接手で農薬を撒いている風景に出会い、それ以降中国産のほうれん草などは絶対にスーパーで買わないように家内に指導したのだが、とにかく、衛生観念はもとより、農民自体が無知だから仕方ない。農薬は撒けば撒くほどいいと思っている。中国の研究者が自国民を「10%は無学文盲」と切り捨てたことがあったが、それは中国の国内事情、我々がその被害を受けてはなるまい。中国人ガイド自身が「十分気をつけている」ことを知り、「ニセモノ・まがい物文化」の実態に驚いたのであったが、今回の「偽卵」情報に、あの時死んだ日本人はこれだったのではないか?と思ったのである。