軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

相次ぐ自衛隊の不祥事

 今朝の産経新聞は「主張」で「自衛隊よ『しっかりしろ』」と叱咤した。海上自衛隊の情報管理のずさんさに加えて、こともあろうに陸自の高級幹部である1佐が「警視庁に収賄容疑で逮捕された」ことに猛省を促したのである。
 先日来の「コムスン」問題でも防大出の任官拒否者が絡んでいて、彼の醜聞が週刊誌などで大々的に取り上げられたばかりでもある。今回の1陸佐も「防大出」であった。なんとも早、一OBの身である私も、肩身が狭い思いがする昨今である。
 同じ2面左上に「イージス事件」で情況が深刻ならば、「F-22情報提供も困難になる」とアーミテージ氏が語ったという。中国にとっては笑いが止まらないことであろう!
 防衛省に昇格したとたんの不祥事噴出だから、防衛省でも顰め面の毎日だろう。私が希望していたように、省昇格と同時に「軍隊の階級」も改称されていたら、見出しに「現役陸軍大佐」の醜聞という活字が踊っただろうから、高級幹部の権威失墜もさることながら、国民に与える衝撃も大きかったに違いない。せめて「1陸佐」というへんてこな呼称のままで本当によかった?と思っている。
 記事によると彼は「単身赴任生活が長く、パチスロにはまって」いて「週末は必ず店に通っていた」といい、「同僚や部下を頻繁に酒やカラオケに誘い、彼が支払っていた」らしいが、実はこの金を業者に要求していた、というのだから何をか況やである。装備品・調達部門に勤務する者に生じる「典型的な」癒着関係であり、防衛庁では常々調達実施本部事件に見られたような要注意事項として、強力に指導もされてきていたのだが、完全解明は殆ど不可能だった。今回証明されたように何度「倫理綱領」を作り変えても全く効果はなかったのである。
 私も単身赴任を通算10年経験したが、“残念なことに”「酒・女・金」には全く縁遠く、快適とまではいえないまでも「無難に」勤務を継続できたが、意志の弱い者は「ゴルフ・カラオケ・マージャン」などで貴重な時間を浪費し、金に困ってついに業者と「ねんごろになる」のがパターンだった。
 幸い私は写真とスケッチという趣味があったので、三沢時代には700Kmを超えるスケッチ旅行を楽しみ、休日には官舎で絵画(油絵、水彩画の色紙)製作に励んだものであった。
 考えても見るがよい。朝礼台に立って数千人の部下を前に“偉そうな”訓示をする指揮官が、毎週末にはスナックママと戯れたり、他人の金でゴルフしているようでは部下達に示しがつくはずがないではないか!
 その上私は、幸か不幸か「ゴルフ・マージャン」を嗜まず、夜な夜な自らバーの扉を開ける癖もなかったから、彼のような「容疑者」になることはなかったが、基地周辺の飲み屋や食堂は、敵対勢力にとっては格好の情報収集場所なのであり、ましてや「パチスロ」は典型的な存在でもある。
「正論」を読んだ部下から丁重な手紙を何通か貰ったが、その中に「防大出の幹部が毎週月曜になると『昨日も6万円やられたよー』などと、パチスロですった事を自慢話するのは部下として聞くに耐え難い」というのがあった。
「私達下士官は幹部に命を預けている。その幹部がパチスロに現を抜かす気が知れない。横田めぐみさんらを拉致している国の商売に、献金して“貢献している”ということがなぜ分からないのか!幹部として自覚がない」と義憤に駆られた内容だったが、「下士官は幹部の話に合わせて黙って笑っているしかないということも分かっていないのが情けない」という部分に私は絶句した。「裸の王様」なのである。
 多分この1陸佐も、毎週末「酒やカラオケ」に部下を誘っては「パチスロで稼いだ振りをしていい格好」をしていたのだろう。実に寂しくも卑しい男である。こんな男の昇任が早いというのは人事が狂っているとしか思えない。

 聊か自慢話?になるが、松島基地司令時代に地元の茶道教師の尽力で、石巻警察署長が「書道」、石巻専修大学長が「陶芸」、私が「絵画」を出品して、石巻市内の画廊を借りて「三人展」を開催したことがあったが、会場で和服姿のお嬢さんがたの「お茶の接待」があったことも手伝って、3日間で1000人以上の入場者があるほど好評であった。私も機会を見つけて会場に詰めたのだが、教養あるご老人から「基地司令さんといえば雲の上の存在、そんなご多忙な方々が、余暇にこんなに見事な作品を製作しておられるのに感動しました」とお礼を言われた。
「部下たちが働いてくれているので実は左団扇なのです」というと、「今日は司令さんにお会い出来て光栄でした。司令さんには“ゴルフ場かスナック”でしかお目にかかれないと思っていましたので・・・」と、にっこり笑って帽子を取って会釈された瞬間、私は実に複雑な気がしたものである。そして同じ内容の話をされた方が二人もいたのである。基地周辺住民に自衛隊幹部がどのように「理解」されているかを知って愕然としたものである。

何も「謹厳実直」「聖人君子」たれとは言わない。「英雄色を好む」とも言うからである。しかし、戦後の「英雄」は、色ばかり好んでいるのではないか?
 少なくとも米軍の将校達は広く勉強している。あの精強な海兵隊将校に「ゴルファー」は殆どいないという。中国人民解放軍の将校だって、私が知っている限りにおいても軍事科学に熱心に取り組んでいる。
 自衛隊幹部もいま少し「ゴルフ・マージャン・カラオケ・パチスロ」の時間を減らして、浮いた時間を教養番組に向けたらどうか?と言いたいのである。人間、死ぬまで勉強である。
 今週末、講演会が予定されているのだが、イージス艦情報漏えい事件と、今回の1陸佐問題の質問が集中しないように・・・と祈るばかりである。