軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

武士道は甦るか?

 昨日の拓大日本文化研究所主催のシンポジウムは有意義だった。会場は、勿論拓大関係者、大学教授、評論家、ジャーナリストなど、有名人方で埋められていて、私ごとき「一元パイロット」の出る幕ではなかったが、コーヘン・イスラエル大使の基調講演が熱を帯びて、大幅な時間超過になったから救われた。
 大使の著書を通読したが、深く考えさせられる。日本人自身が“忘れてしまった?”武士道精神は、コーヘン大使や李登輝台湾総統たちに代表されるように、いまや外国人が自ら探求していることを確認できたからである。
15分間の意見発表時間を与えられた私は、レジュメを大幅に省略しながら、概略次のような意見を述べた。

1、厳しい修行を伴わないものは『武士道』ではない。その修行には、時に生命の危険さえ伴う。
(1)自分の剣道5段、錬士号取得を通じた体験から、すべては『自分との戦い』であり、母校の名誉のため、先輩達の強制行為に応じた忍耐・不屈・勇気の涵養がすべてに優先すること。
(2)航空自衛隊パイロット教育でも、操縦術は“理屈ではない”から身体で覚えさせる。それには『強制』が伴う。それは「危険状態に陥った学生を殺すか、貴重な航空機を破壊しない」ための、ある種の「愛の鞭(現代風に言えば暴力行為)」である。それが伴わなければ修行は完成しない。
(3)人間は『パン』のみに生きるにあらず。新渡戸稲造が書いたように、明治維新を通じて日本人を動かした推進力は「物質資源の開発や、冨の増加ではなく、ましてや西洋の習慣の模倣など」では決してなかった。「劣等国とみなされることに耐えられないという名誉心、これが動機の中で最大のものであった」。
 故に武士道とは「食」よりも「名誉」と「恥」を意識しない者には、永遠に会得できないものである。

 したがって、「すべては平等」という枠に子供らをはめ込もうと懸命な反面、同時に「個性尊重」を唱えている自己矛盾に気がついていない現代の愚かな教師の“指導”の下では、武士道が芽を出す可能性はない。
 このような「人間は平等だから差別してはならない。戦争は悪、殺人はいけないことだ」という思想を子供の頃から刷り込んでいる現代日本の教育環境下では「優れた指導者(武士)」は「絶対に」育たない!
 つまり、イラクでの混乱を体験者した後輩が私に「民主主義の基盤となるべき個人主義と、明治以降の武士道とは、相容れない部分が多すぎる」と語ってくれた言葉が集約している。

2、復活へのかすかな望み?・・・では完全に武士道は消えるのか?
(1)少年剣道クラブ育成の体験から・・・鉄は熱いうちに打たねばならない!根本に「自信を失った“大人達”の、教えざるの罪」がある。
(2)三沢、沖縄など、米国軍人・家族の「日本文化」に対する関心は、当の日本人よりも遥かに高い。私は三沢で米国軍人・家族達に「剣道の展示訓練」をしたが、大人たちは「侍」を求め、子供達は「忍者」に憧れていた。日本刀(剣道型展示)の一振りに「魅力」と「恐怖」を感じる外人たちは、武士道精神に限りない尊敬を抱いている。コーヘン大使の例を待つまでもない。しかし、肝心の日本人は「野球」と「ゴルフ」に入れあげて、日本の伝統文化は「外人」達に奪われている。国技・大相撲が良い例である。日本人は武士道精神衰退の実態に目覚めるか?
(3)現役時代、私は部下に「君は国のために死ねるか?」という宿題を与えてきた。その結果は実に「健全」だった。「50を過ぎたこの身体、喜んで国に捧げます」と言い切った、たたき上げの1尉(大尉)がいた。「国のため」という命題に戸惑った若い幹部もいたが「基本的には死にたくないが、任務を遂行してその結果死ぬのであれば本望だ」「愛する妻・子供、両親のために、日本人としてのプライド、男としてのロマンのためならば危険を顧みない」。中には「私利私欲に目がくらんだ政治家のためには絶対に嫌だが、信頼できる上司、先輩、友人のためなら戦死は怖くない」という3尉(少尉)もいた。「信頼できる上司」と3尉は書いたが、“当時の上司”であった私が「信頼されていたか否か?」は定かでない。
 昔と聊か異なるところは、自分は自ら信じるものの為に死ぬ気はあるが、その後「あいつは国のために死んだのだ」と政府が認めようと、「マインドコントロールされた犬死だ」と朝日新聞が書こうと、「死んでしまった私には無関係」というのが結論であった。
 昔も今も、青年達の愛国心には変わりは無いのである。問題はその上に立つ「大人たち」の姿勢である。歳だけ食って肉体が老化し、精神までもが退嬰した「現代大人たち」の哀れな?姿を、子供達は“息を潜めて”見ているのである。私を始め「大人たち」は、それでも「恥ずかしくはないのか?」と、自らに言い聞かせるべきである。
 結局、井尻教授に与えられた命題「甦るか?」に対する私の結論は、○でも×でもなく△となったのだが、実は省略した「私なりの結論」は、
「日本人を『御先祖様』に持たない勢力、つまり大和民族ではない『現日本国民』達の一部?が、自分達に都合の良い生活環境を作り出すべく、新渡戸稲造が指摘した『日本人古来の文化、武士道精神』を破壊するために、政官界はもとより、教育界にはびこって各種工作を浸透させているのではないか?
 この精神的破壊工作に対処するためには、日本人一人ひとりが『日本国の正当な歴史観、宗教心』を取り戻す必要がある。その努力を早急に始めなければ、復活はあり得ない』というにあった。

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