軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

台湾事情と日本の政情

 昨日は門脇翁を尋ねて蕨市まで出かけ、午後1時から5時過ぎまでお話を伺ってきた。台風の余波で猛烈に蒸し暑かったが、94歳の翁は意気軒昂、目玉が生き生きとしていた。
 先月台湾各地を巡って来られたその印象を伺ったのだが、次期総統選は、国民党と民進党との戦いが山場を迎えつつある。しかし、台湾人の意識はさほどでもなく、陳水扁現総統を“感情的に”批判するばかりで、自国の将来を決める大事な“戦い”だという意識が乏しい、と慨嘆しておられた。なんだか台湾政治も昨今の日本政治と共通する状況にあるらしい。
 門脇氏は他力本願の台湾の友人達に「自分の国の将来を決めるのは君達自身だ。俺は日本人だから一票持たない。影響力はない」と突っぱねたと言う。
 いずれ詳しく門脇氏が書くだろうから、今日は一つだけ印象的な話を御紹介しておきたい。
 台北市の友人宅に泊まっていた門脇翁は、朝、新聞を買おうと街に出て、大きな通りの交差点の横断歩道を渡っているとき、左折して来た車に後ろから跳ねられた。ところが交差点に倒れている門脇氏に“見舞い?”の声を掛ける者は居らず、日本のように「駆け寄ってきて助け起こす」者もいなかったという。
 台湾を訪問した日本人が一様に感心するのは、台湾人の優しさであり、車の中で若者達が席を譲る“風習”だが、車に跳ねられ、交差点に横たわっている“老人”に通行人は誰一人見向きもしなし「目撃者」になる者もいない。
 跳ねた運転手が戻ってきたが、まるで「成果?」を確認するかのように突っ立って見下ろしているだけで、起こしてくれる様に言っても「お前の北京語は分からない」というだけ、結局自力で友人宅まで戻って、治療してもらったそうだが、その時門脇氏は、この国には「二つの道徳がある」と感じたという。
 一つは台湾人本来の「道徳観念」で、これは日本統治時代の名残も含まれている。
 二つ目は、大陸から亡命してきた国民党政権と共に入ってきた「関わらない」という悪習で、おそらく事故の状況から、車が「国民党関連の“黒社会”」の常套手段と見た通行人が、見てみぬ振りをしたのだろう、というのである。そうだとすれば、如何に台湾人の文化が長年の国民党政権下で変質したか、ということを物語っていると思う。
元特務機関員、万一を考慮して、友人に迷惑がかからぬよう、後をつけられぬ配慮をしつつ自力で友人宅に戻ったそうで、肘などの傷跡を見せていただいたが、『頑健そのもの』の身体に驚嘆する。
 台湾がそんな状況下にあることを勘案すれば、来年の総統選挙で、万一国民党が“復権”すれば、台湾の将来はないと見て差し支えあるまい。この国にも「天下分け目の」戦いが進行しているのだが、その結果の恐ろしさについて、日本人も理解できないに違いない。
 いずれにせよ日本も台湾も、自国の将来を決めるのはその国の国民であり、外野からつべこべ言っても始まらないが、予想される最悪の事態に備えるのが政治の知恵というものであろう。
 話の中で確率は低いにせよ、万一馬英九が天下を取れば、李登輝前総統は「彼に一札入れなければならぬ」だろうが、どうするのだろうか?という感想には意表を突かれた。

 さて、片道1時間半の移動時間は「読書」の時間でもある。最近はシルバーシートに座ることにしているので、結構読書が進む。今は改めて特攻隊について調べているのだが、森史朗著「特攻とは何か(文春文庫)」は極めて詳細な取材に基づいていて読み応えがある。義父・寺井義守元海軍中佐が残した各種記録と共に整理したいと思っている。[rakuten:book:11881546:detail]
 昨日の往復では「月刊日本8月号」に目を通した。
「激変する朝鮮半島情勢・・・アメリカは北朝鮮の核保有を容認した(菅沼光弘)」が面白い。特に「アメリカが如何なるコストを払ってでも避けたいのはイランの核保有だ。イランが核を保有すればイスラエルは黙っていない。イスラエルは世界から同情されて滅びるより、世界を敵に回してでも生き残ることを選択する国家だ」というのが身に染みる。
 それに反して「世界から同情を集めて、何とか拉致問題を理解してもらおう」という我が国の姿勢が情けない。
「“世直し”7人の侍。大いに吼える!!・・・もう放っておけない!こんな日本でいいのか!」という、村上正邦平野貞夫筆坂秀世鈴木宗男宮崎学紺谷典子佐藤優氏らの“放談”も「体験者の生の声」故に貴重である。
 今月号で特に目を引いたのは「公明党創価学会は『政教一体』だ!」という前公明党参院議員の福本淳一氏と、公明党研究の第一人者・乙骨正生氏との対談である。
 乙骨氏は「インタビューを終えて」の項で次のように感想を書いている。
「第166通常国会で自・公は強行採決を繰り返し、議会制民主主義を事実上、崩壊させた。そうした強圧的な政治手法を展開する自・公政権を問う参院選を前に、公明党の現職参院議員が、公明党を『全体主義的』と批判したことの意味は小さくない。特に福本氏が創価学会公明党の政教一体の事実や、自民党がその創価学会の集票力の前に拝跪している事実を具体的に明らかにしたことの意味は大きい。今後、創価学会公明党は、造反した竹入下委員長同様のバッシングを、福本氏に加えるだろうが、そうした事実もまたこの国の民主主義が危機的状況にある事を示唆するものとなるだろう」
 さて、マスコミはどの程度真面目にこの問題に向き合うか?今後の我が国の生き様を占う指針の一つであるように思えるが・・・