軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

この秋、東アジア情勢は急転する!

 昨夜は戦略情報研究会で、コリア国際研究所の主席研究員・高ヨンチョル氏の話を聞いてきた。
『韓日に対する北の脅威と対応戦略』という題であったが、元海軍少佐、国防省海外情報部日本担当、北朝鮮担当官だっただけに、話の内容は現実味を帯びていた。詳細は彼の著書『国家情報戦略』(後掲)などに譲るが、北朝鮮の特殊作戦計画について、『核兵器は抑止戦力なので、通常ミサイル攻撃と特殊部隊によるテロ攻撃を行う可能性が高い」という認識が示された。勿論その最大の攻撃目標は韓国であり、米軍の反撃基地である日本は次の目標である。 つまり、北朝鮮は1950年6月25日に仕掛けた『朝鮮戦争』で、僅か2ヶ月で釜山陥落寸前まで進撃したものの、日本を補給基地とした米軍の反攻が開始され、9月15日にマッカーサーが仁川逆上陸作戦を成功させたため敗退したという教訓に学んでいるというのである。そしてその障害になっているのが第一に『在韓米軍』であり、次が『在日米軍』なのである。
 こんな簡単な戦略構造さえも分かっていないのが今の日本人であって、しかも、その在韓米軍は韓国防衛に「嫌気」がさしている。後方基地の在日米軍も、沖縄の反米・反基地闘争に見られるような同盟国の“冷たさ”に我慢の限界に近づきつつあり、その「最後の判断時期が、インド洋上で貢献している海自部隊を引き上げて同盟国米国と袂を分かつ可能性がある『テロ特措法延長問題』だ」と認識すべきだろう。

 昨日の産経によると、米国防総省のモレル報道官は29日の記者会見で「活動を継続することを強く勧めたい…」などと語ったが、3面には「独首相に『延長反対』と語る小沢代表」が写真入で出ている。
 今朝の産経にはブッシュ大統領自ら「今後も日本が積極的な影響力を保持することを望んでいる」と語り、8日からシドニーで始まるAPECで安倍首相に直接要求する」と報じられた。これらの動きが何を意味するか、我政府要人、特に小沢氏には熟考してもらいたいと思う。国益を無視した、党利党略を優先させれば、どんな結果が待っているか、小沢氏ならば分かっていることだろう。それとも巷で言われている通り「だたぶっ壊し混乱させることだけに生きがいを覚えている」のならば、政治家として失格である。まさか、日米分断を画策しているわけではあるまいが…。だからこの党には「桜パパ」や「不倫姫」のような、人格欠落者が集まってくるのだといわれかねまい。

 ところで昨夜の講演で高氏は、「10月2日に延期された南北首脳会談で、金正日は韓国の大統領選挙で左派政権が継続することを支援する。それは、金大中ノムヒョンと2代続いた左派政権が、あと一期継続すれば通算15年間韓国を支配することになる。そうなれば韓国民も『しょうがない?』というあきらめ気運になって、北主導で半島が統一が出来る。更に今回は“水害”を理由に、韓国民の『同じ民族だという情に訴えて』、前回金大中氏が送金してくれた5億ドルの倍額、10億ドルを請求するだろう」という見通しを語ったが、私はそれに関連して「金正日に対するノムヒョンのお土産は分かったが、金はノムヒョン大統領にどんなお土産を渡すだろうか?私は、朝鮮戦争の『休戦状態』を解消し、一気に“停戦条約”、または“平和条約”を締結し、半島の戦争状態を解決するという“お土産”を考えているのではないか?こんなサプライズもありうると思うがいかがか?」と質問した。
 高氏の回答は「“平和宣言”をする可能性は十分ある」というものだったが、何の裏づけもない「宣言」程度で、大統領選挙に重大な影響が及ぶことは当然考えられる。その時日本はどうするか?
 いや、米国までもがこれに賛同し、3者共同で「半島の戦争状態終結宣言」をしないとも限らない。
 同じ産経7面の「緯度経度」欄に伊藤正記者は、「米朝接近で日本にも『影』」と題し、1971年7月16日のニクソン訪中発表時の衝撃的ニュースを回想し、今回の「金正日総書記がブッシュ大統領に親密なパートナーになると表明した」というニュース(8月10日付)の裏に、実はブッシュ氏が先に金氏に親書を送ったのだ、として、親書は「キッシンジャー大統領補佐官がひそかに訪中、胡錦濤国家主席経由で送られたという。昨年10月10日で、北の核実験の翌日だった」と書いている。
 伊藤記者は「しかし中国は穏やかでは居られない。中国指導部は既に、米朝正常化は時間の問題と分析、米国主導で南北統一への動きが加速する可能性も視野に入れ、東アジアにおける戦略的変化への対応として、対日関係の強化を図りつつある」と分析している。その上、来年早々から台湾の二大選挙が始まる。
 この様な東アジア情勢の急激な変化に、我政府はどう対処して行く気か?米朝接近、韓国の左傾化政権誕生、中ロ接近、その上純“戦略的思考”から、中国が我国に接近して、日米離間を促進させる。これは中国の国益確保戦略以外の何物でもない。そこに「台湾」総統選挙が続き、台湾海峡は“過熱”する…
 こんな複雑怪奇な状況下で、我が国は何に頼って、どこと手を組んで危機を打開する気か?
美しい国づくり」は、今や「強くしたたかな国づくり」の方が最優先される状況になった、と私は思う。
 安倍改造内閣は、速やかにひたすら「生き残り戦略」を模索して、したたかに前進すべきであろう。

 私が所属する「平河総研」の無料メルマガ最新号に、元民社党委員長の塚本氏がこう書いている。終章の一部を引用しておくが、お暇があれば御一読願いたいと思う。

「(前略)国家の基本論争は、今後、憲法の改正に在るが、自民党民主党も、その論争の中身は今日までは、「事なかれ主義の立場」に立っての改憲の論争であり、是非であった。今回迎えた、衆、参議席与野党逆転は、人知を超えた審判の結果を迎えた。

禍転じて福と為す。
 願わくは、憲法を巡って、各国会議員が、愛国心を吐露する舞台として欲しい。時間をかけ、議論を重ねれば、やがて国会議員の意志は、所属の党派を超えて、国家の為にと収斂されて来ることが期待出来る、それこそが衆議院は自民、参議院は民主、各第一党の違いを示された、神の為せる業であり、新しい日本の再出発となるかもしれない。
 所属政党についても、憲法についても、「心ならずも」六十年の、やり過ごした不誠実を、一挙に、本心に「収斂」出来ることを願って止まない。
 当面する最大の課題である憲法の改正が、国会議員の三分の二を必要とするならば、むしろ今回は大連立こそ望ましい。
 日本の国会は、無理をして、二大政党を求める必要はない。民の声は神の声である。(平成十九年八月下旬)

国家情報戦略 (講談社+α新書)

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北朝鮮特殊部隊 白頭山3号作戦

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