軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

北京会議こぼれ話・その4

 気がついたら102万件ヒット!友人から「対中関係に如何に関心が高いかブログを読んでいると良く分かる」と電話が入って気がついた。
 米海軍司令官の「空母、持つべきだ」発言は勿論ジョークだと思う。三沢でも沖縄でも、彼らは陽気なジョークを飛ばすのが得意だった。空母建造に巨大な財源と資源を投入して、その結果旧ソ連のようになることが自明だからであろう。それだけ彼らには自信がある証拠であろう。大連港で整備中の旧ソ連空母『ワリヤーク』(インターネットから)

 さて、昨日の産経新聞によると、年に一度防衛省で開催される高級幹部会同に出席した福田首相が「慣例である栄誉礼・儀仗の出迎えも断った」という。「防衛省自衛隊への国民の信頼が大きく揺らいでいることは本当に残念だ。原因が自衛隊の活動の場ではなく、むしろ現場を管理する防衛省自衛隊の業務のあり方の基本にかかわることを、大変憂慮する」と講堂に集まった幹部達を叱責したそうだが、それと「栄誉礼辞退」にどんな関係があるのだろう? 自分達の仲間である政治家たちが深く絡んでいたから“反省する意味で”自粛したのだ、と受け止めるべきなのだろうか? 
 自衛隊法施行規則第13条に、「栄誉礼栄誉礼受礼資格者が自衛隊を公式に訪問しもしくは視察する場合又は大臣の定める場合に敬意を表するために行う」とされており、第14条には儀仗についても「・・・栄誉礼受礼資格者などの途上を警衛し、及びこれに敬意を表するため行なう」と定めてある。勿論、第15条には「礼式の実施が職務遂行に支障を及ぼし、又は不適当であると認められるときは、大臣の定めるところにより、その一部もしくは全部を省略し又は変更することができる」とも定められている。今回の場合はどれに適合するのであろうか?「辞退」は定められてはいない・・・。
 国会の外交・防衛委員会などの議員たちが部隊を訪問したとき、栄誉礼や記念撮影を辞退するのは共産党議員だと“相場”が決まっていたが、今回は最高指揮官が部隊からの「敬意」と「警衛」とを自ら断ったのだから、隊員たちは「最高指揮官」に全く信用されていないのではないか?と戸惑ったことだろう。「シビリアンコントロール」の大原則を逸脱している?!などと言うつもりはないが、どの程度軍事を理解しておられるのか理解に苦しむ。
 最も同規則には、栄誉礼受礼資格者は、1・天皇、2・皇族から始まって、13・大臣の定める者まであるが、天皇には未実施のままである。9・には防衛事務次官の名があるが、事務次官は確かに「自衛隊員」ではあるが、大臣を補佐する事務官に過ぎない。彼が総理や防衛大臣、各幕僚長並みに(最も制服トップの統幕長の前に掲げられているが)受礼者になっているから、シビリアンコントロールを履き違えて今回のように“舞い上がって?”間違いを犯すのではなかろうか?と思うのだが、それはさておき、シビリアンコントロールの大原則は、あくまで「政治が軍事を統制する」建前にたっていることをお忘れのようだ。
 福田総理がいつまで最高指揮官を務められるかは知らないが、しっかりと自信を持って“軍事を統制”してほしいものである。

 さて、それでは「北京会議」を続けよう。

(承前) 20分間のコーヒーブレイクの後、3時55分から第3セッション「朝鮮半島問題」に入り、日本側から半島の専門家である武貞氏が「誤解を解くよい機会だ」として「北朝鮮に関する六つの誤解」について意見を述べた。米中韓3カ国の駆け引きを見た武貞氏は、10月の南北首脳会談から「中国は北の核放棄を望んでいない。中国にとって重要なことは、半島での戦争を防止することにある」と冷静な分析結果を紹介した。
 これに対して中国側の研究者から「中国が北朝鮮に対して強圧的な態度を取らないのは、(北の核は)あまり役に立たないと考えているからだ。中韓は資源を巡って常に競争状態にあり、防衛における人的交流について関心ある研究者の交流も必要だ」「ノムヒョン大統領と金正日会談で、ノムヒョンはブッシュを加えて3者で休戦宣言をしようと計画したが、これを聞いた金正日は、中国も加えるべきと発言、ノムヒョン大統領が伝えたところ、中国を入れることにブッシュ大統領も同意した、と消息筋が言った」と発言した。
 これに対して私は質疑の時に「北朝鮮が核実験をしたとき、中国には直前になってしか伝えなかったから貴国政府は不快感を示しているといわれているが?」と確認すると、「遅らせたか否かは受け止め方次第だ。昔は血の盟友であったが、通常の国と国の関係の今では『教えたのだから』ということで、複雑さを示している。また、ブッシュ大統領は軽い気持ちで?これを受けた、と中国は受け止めている」と発言した。
 これに対して上級大佐が「北朝鮮の大使が伝達を10分遅らせたのだ」と意味深長な補足説明をした。彼は、北朝鮮の核問題解決については以前から「リビア方式」を提案しているのだが、「北朝鮮が今推進している核開発は(今回の合意には)含まれていない。無能力化の対象はヨンビョンだけである。無能力化されても再始動は可能である。IAEAと5者が一致協力して監視を実施すべきである」と現実的な発言をして驚かせた。
 そして更に「中国の立場より米国の立場を心配すべきで、日本は米国に立場を堅持すべきだという働きかけをすべきだ」とも言い、「人質問題が解決した後日本は核開発を認める用意があるというのか?日本の解決の優先順位はどうなっているのか?」と我々に質問した。
 これに対しては武貞氏が回答したが、元海軍少将が「1、中国は核問題解決には積極的であり、半島の非核化には中国は明確な態度を示している。非核化は関係国にとって有利である。特に日本にはメリットがあるのではないか? 2、イランの核問題にもつながるから解決は歴史的意義がある。武力衝突を避ける例になる。平和的交渉を通じる好例となる。この問題の解決は、東アジア、日本の平和に役立つ。この二つの問題を一緒に議論すべきではなく、優先順位を持って当たるべきである。拉致問題を優先にしてはいけない。戦略は長期的問題を第一にすべきである」と発言した。
 中国側の女性研究者は「半島非核化は中国の国策として不変であること。半島の核は、不安定化を招くから平和メカニズムを造成すべき」と言い、上級大佐は「リビアモデルの4つの特徴」を付け加えたが、昨年の会議で我々は「リビアモデル」は、米軍の先制攻撃が功を奏した結果であることを示し、半島情勢にはそぐわないと意見してある。
 ここで蒋所長が「在韓米軍の存在は基本的には不賛成だ」と発言し、「板門店を見学しようとしたとき、米軍から中国人は立ち入り禁止といわれだが、こんな屈辱的な扱いを受けたのは初めてだった」と怒りをあらわにした。
 国際関係は、理想と現実では大違い、政府と現場の取り扱いも色々齟齬がある場合が多い。ちょっとしたことが「友好」に繋がったり、「反米」に繋がったりするものである。原因が何であったかは知らないが、所長としてはプライドを大いに損ねられたことであったろう。       (続く)

幻の防衛道路―官僚支配の「防衛政策」

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金正日と日本の知識人―アジアに正義ある平和を (講談社現代新書)

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