軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

上海会議・その2

(承前)
 宿舎は由緒ある立派なホテルで、会議はその14階で行われるから、何かと便利だったが、風呂の水が臭うのには弱った。むしろ、北京のホテルの方が匂いは少なかったほどである。
 おそらく、水質が悪いので相当量の消毒薬を使っているのだろう。風呂の中で顔を洗うと昔の鉛の水道管に溜まっていた水で洗っているような感じがする。勿論飲用は禁止、部屋に350mlのペットボトルがサービスで置いてある。(後で分かったのだが、この匂いは、揚子江の水そのままの匂いであった!)

(高層ビル建設ラッシュ!) 
 翌11月22日(木)0900から会議が始まり、上海国際問題研究所の楊所長が挨拶、
「1、グローバル化の観点から中日関係をとらえるべき。
2、互いに知恵を出し合って政府へ提言し、双方の国民を指導すべき。
3、学者として、オピニオンリーダーとして、マスメディアにも貢献していくべきである」
との3点を述べた後、「双方がウインウインの関係になるよう、長いスパンで更に協力を」と強調した。ちなみに楊所長の実兄は、現在の中国の外交部長(外務大臣)である。
 これに対して川村団長が「過去、7回の会議を実施してきた。率直な会話を通じて信頼関係を築きたい」とこたえ、第1セッションの「海上安全問題と中日間の信頼醸成措置」に入った。
 今回から、会議は同時通訳方式になったため、時間の節約は出来たが、通訳を録音することが不可能になったため、メモ書きが中心となるから多少のパーセプションギャップは避けられない。
 川村団長が「中国の空母保有と海洋進出」について北京同様の意見を述べた後、北京から駆けつけた楊海軍少将が「中日戦略互恵関係のために微力を尽くす」として、日本側は現実問題に対する分析から、日中相互の力関係の変化がアンバランスになる可能性を強調するが、両国の構造的な違いによるものだと述べ、11月28日に中国軍艦の訪日(ミサイル駆逐艦・シェンチェン号)が成立したことは喜ばしく、友好の使者として歴史的役割を持つこと。戦略的互恵関係は一日にして成らないことを強調した。

(行って来るぞと勇ましく!?シェンチェン号のテレビ解説) 
 続いて「空母」に関する川村団長の意見に対して「空母に詳しい川村提督を中国空母建造の特別顧問に迎えたい」と一同を笑わせた後、中国の「空母建造」について大意次のような解説をした。
「空母保有は民族的誇りだというものが多く、確かに中国の青年には小遣いを減らしても空母を!と言う意見が多い。グローバル化の時代、中国は陸軍国だから、空母はグローバル化の対象なのである。海軍権益という古い考えは問題にならない。平和的な海洋共用目的であり、佐世保は目標ではない。目的は共同である。米国はICBMと潜水艦を運用しているが我々が持つとしたら10〜20年先か、もっとかかるだろう。米・日と共に、西太平洋の安定に寄与したい。世界はエネルギー確保のためのシーレーンの平和確保を期待していて、空母による対峙を求めてはいない。仮に(中国が)空母を保有しても、中国の軍事的発展ではなく、平和的発展である。日本の技術資金を生かして、共に安定へ向けて貢献していきたい」と述べた。
 続いて金田氏が「東シナ海の日中共同開発と日中間の信頼醸成措置」と題して意見発表し、「相手の軍容文化(ミリタリー・カルチャー)への理解」を推進するため、艦艇の相互訪問、危険回避措置としての通信手段確保は重要であるとの意見を述べた。
 続いて日本でいえば海上保安庁の担当官に当たる研究員が「中日相互信頼システムを作り平和の東海に」と題して意見を述べた。東シナ海の現場担当者の意見は貴重だと思ったが、依然として硬直した意見しか述べなかったのは、外交部長の実弟が正面にいたからか?
「1、中日双方には領土問題である『尖閣』問題があるが、中国の領土であるにもかかわらず、中国は今まで態度を控えてきた。
2、日中中間線問題は座標もなく、大陸棚方式に関する意見も不明である。
3、ガス田についても、2005年にノルウェーの調査船で調査したが、互恵、共同開発で中国側が妥協した。
4、潜水艦を巡る対峙(宮古島海域侵犯)でも、航空自衛隊はF-4からF-15に変えた(修正させた)宮古島に警戒基地を設けている」などと、多少意味不明ながら論文に従って発表したが、発言口調がかなり激しく怒鳴っているような表現だったのは、やはり彼が所属する「海保」をPRするのが目的だったのではないか? 発表の合間に「仲良く付き合うべきだとか、日中友好の歴史だとかを挙げ、(東シナ海は)友好の海から戦いの海へなりつつあるが、互いに勉強しあい助け合いサポートしあっていかねばならない」と付け加えるのである。彼は以前日中間で黒潮調査をした経験があることをあげ、解決策として、1、第3者を入れる。2、大陸棚方式についての証明を出す。日本側の誠意があれば解決できる。3、相互の安全確保について、海上事故防止協定を結ぶべき。4、マスコミの誤報道を避けるべき。日本の航空機や艦艇による対処を避けるべき。いずれにしても共同で解決していくべきだ」と自己主張をくりひろげた。

中国の大戦略―誰も書かなかった中国の深層

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