軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

半島と尖閣の危機

 昨日のチャンネル桜は、予想通り≪ミサイル問題≫関連の話題で、井上キャスターとの防衛漫談は盛り上がった。スカパー(216)の今日午後8時から30分放映される。

 
 ところで産経7面の「オピニオン」欄に、元外交官の宮家邦彦氏が「深刻な安全保障上の『現実』」と題して「今回の事件(ミサイル問題)は中長期的により深刻な安全保障上の現実を改めてわれわれに突きつけている様に思う」として、(1)北朝鮮核兵器開発を放棄せず、弾頭はいずれ小型化する・・・北やイランが核兵器を開発する理由は自国のサバイバルだ・・・。(2)朝鮮半島はいずれ統一する。・・・いずれ北朝鮮の体制が終焉し、半島が統一に向かう可能性を今から考えておくべきではないか。(3)(中国は)万一朝鮮が崩壊すれば、ただちに統一朝鮮を自己の勢力下に置こうとするだろう。その際は、米地上軍撤退と米韓安保解消の可能性が現実のものとなる。・・・以上から導き出される結論は、われわれにとって甚だ『不都合な真実』になりそうである」とし、
1、近い将来日本は日米同盟と日韓関係の強化につき厳しい決断を迫られるだろう。当然ながら日本の防衛力増強についても戦略的見直しが求められる。従来のような「対米追随はけしからん」とか「憲法9条を守れ」といった形而上学的議論は何の役にも立たない。
2、日本は朝鮮半島の統一を歓迎・支持し、同国と新に同盟関係を結ぶべきである。そのためには半島との更なる和解も必要となろう。これが実現すれば、統一朝鮮の下で核兵器開発計画廃棄が可能となるかもしれない。今の日本にこうした認識と覚悟はあるだろうか」と鋭い指摘をしている。
 統一された半島国との「和解」には、逆に日本国民からの“抵抗”が予想されるが、宮家氏は「最後に、全ての努力が失敗し、核武装した反日の統一朝鮮半島が出現する場合、日本は『核武装するかしないか、しない場合には、如何に自国の安全保障を確保するか』について究極の決断を迫られる。日本の政治家と国民はこうした事態に耐えられるだろうか」とし「そうならないようにするのが外交だとしかられるだろうが、そうなったらどうするかを戦略的に考えるのも立派な外交である」と結んでいる。
 外務省が今回「そうならないようにしてきた」にもかかわらず、北朝鮮はミサイルを発射したのだから、いまや国民の殆どは「言葉遊びは無意味だ」と悟っている。野党党首の小沢氏があれほど頼りにしていた『国連』でさえもアノ始末。「そうなったらどうするか」を考えるべき時に来ているのではないか?


 ところで私は今「大東亜戦争の真実を求めて」関係資料を“乱読中”なのだが、歴史は繰り返す!ことを思い知らされている。政治と軍事の両輪の噛み合せがいつも予想外の方向に転がっていく。時の勢いには誰も逆らえない。そして人類史上の悲劇が繰り返され、その後しばし「反省」するものの、やがて再び教訓に反して転がりだす。
 それは世代交代による人類の記憶力と知識の劣化によるものかと思われるのだが、なかなか人類は先人に学ばない、というよりも、それを否定するのが『進歩的文化人だ』と錯覚しているようかのように思う。
 憲法9条を死守?しつつ、海外協力に自衛隊を「出動」させている現実を見ると、外交に行き詰ったとたん「後はどうぞ!」と自衛隊に尻拭いをさせて誤魔化す。その結果が良くても悪くても、尻拭いさせられた自衛隊は正当に評価されないばかりか、平和が戻るとやがて邪魔者扱いにされる・・・そんな愚かな歴史のくりかえしに見えるのだが、宮家氏が指摘しているように、戦後の日本には「そうなったらどうするかを戦略的に考える」外交・防衛部門なんぞどこにもありはしないのではないか? 国民は、外務省や防衛省内にそれがあって『守ってくれている』と錯覚しているに過ぎないのではないか?

 宮家氏が指摘しているように「北朝鮮の支配体制が激変する」だろうが、それは案外早く訪れる様な気がする。そのとき、国境を接する韓国と中国には死活的な重大問題が生じるだろう。国益上、ロシアもアメリカも傍観しているはずはない。ひとり日本だけが取り残される気がしてならない。


 ところで話は急に南に飛ぶが、産経5面端に「石垣市長、尖閣上陸許可求める」という短編情報がある。
沖縄県石垣市の大浜長照市長が3日付で、東シナ海尖閣諸島への上陸許可を求める書簡を中曽根弘文外相あてに送付していたことが8日、分かった。河村建夫官房長官が記者会見で明らかにした。上陸の目的は、地方税法に基づく固定資産税評価の実地調査となっているが、政府は上陸を許可しない公算が大きい」というものだが、これを読んだ国民はどう思ったことだろうか?市長が自分の行政担当区域内に自由に出入りできず、いちいち国に申請するとは・・・ 外務省はどんな「権利」で、市長の税務調査を拒否するのか?理由を明らかにすべきである。

 昨年の日中安保会議で「尖閣は中国の固有の領土、なぜ日本の海上保安庁が守るのか!」と中国軍人が発言したが、まるでそれを裏打ちするようなこの記事。石垣市長が、自分の政治的使命を果たそうとしているのに、「“政府”は上陸を許可しない」というのだから、この“政府”とは中国政府のことではないのか? 尖閣の所有者は、まさか中国に『税金』をおさめているのではないだろう?


 以前、尖閣の領海内に『台湾漁船』が進入して巡視船と衝突、沈没した事故があったが、海上保安庁は「巡視船の対応に不適切なところがあった」として国民の税金から多額の『賠償金』を払って和解したが、この『漁船』は「釣り船」でありマスコミも正確に報じてはいない。台湾漁船には台湾の国内法で遠洋に出るには許可が必要だが、この『釣り船』は法律に違反して圏外に出て日本の領海を侵犯していた“常習犯”であり、責められるべきは台湾の釣り船船長の方である。 しかも。彼は海保に救助されて手厚い手当てを受けた時には感謝していたそうだが、台湾に帰ると『日本に酷い取り扱いをされた!』と正反対のことを言いふらしているという。


 2年前石垣市で講演した際、尖閣問題について地元関係者から大いなる苦情を聞いた。市会議員でさえも「自国の海保巡視船から」上陸阻止されるというのである。島の民宿や猟師さんたちは、今ブームになっている釣り人たちを連れて魚場に行きたいのに、これも阻止されて商売にならないと不満をこぼしていたが、台湾の釣り船のほうは大目に見られるらしく、日本人釣り客たちは台湾に行き、そこで釣り船をチャーターして、台湾の船で“自国”の魚場に来て釣りをする、と聞いていたから、私は今回の事故船に日本人釣り客が乗っているのではないか?と思ったが13人は台湾人だった。心ある台湾の友人たちは、日本がとったこの処置に大いなる不満を語っている。そこへ今日の記事である。どう考えても異常だとしかいいようがない。

 半島情勢が急変した場合に、中国は半島事態に対処するため軍を動員するだろうが、その時気がかりなのは南西方面である。この方面に彼らはどんな手を打つか?
 国民党政権復活で「台湾は手中に収めた」と見ているようだが、馬政権はそれほど安定してはいない。台湾と半島の2正面作戦を余儀なくされないためにあらゆる軍事・外交手段を展開中の中国に比べて、日本のそれは宮家氏が指摘するまでもなく「尋常ではない」といい得る。
 今回のミサイル危機で一部国民は目を覚ましつつあるようだが、政府は一件落着?のようでそのまま居眠りしていれば数年内に恐るべき展開になるであろう。その時は「PACー3」では対処できないことを覚悟しておくが良かろう。
 予算削減、人員削減に耐えている自衛隊も「できないことはできない」と『シビリアン』に直言できるようでないと、いたずらに犠牲を増やすことになる。

 外交と軍事は表裏一体、密接な連携が望ましいのだが、それにしても、朝鮮半島の二国はもとより、台湾や中国を“手玉”に取るくらいのしたたかな外交力は「軍事力否定」の日本国には望めないだろう。
 半島と尖閣、双方の危機を有効に使って“敵戦略”を翻弄するほどの政治家や外交官の出現を期待したいが・・・

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