軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

入院日記 地獄篇 (その8)

 昨日、退室した右隣の婦人の後に、緊急入院してきた男性が寝苦しそうである。彼は昼過ぎに救急車で搬入されてきたのだが、食中毒症状?が酷く、烈しく嘔吐していた。
 医師が状況を尋ねたところでは、昼食に市販の切り餅4切れを小松菜と煮て食したところ、突然吐き気とめまいがして、体がしびれて電話するのも大変だったそうだが、かろうじて119を押し何とか救急車で運ばれてきたらしい。その時まず彼の頭に浮かんだのが「毒入りギョーザ・メタミドホス事件」だったそうだから、如何に中国の毒入りギョーザ事件が国民に与えた影響が大きいかが再認識できた。この大問題を真剣に受け取らず、相手が言うままに政治的にうやむやにして解決せず平気なのは「わが政府」だけではないのか?
 しかし医師に答える彼の症状は、私の「見立て」では、食中毒ではなく軽い脳血栓ではなかったのか?と思った。現役時代、自分自身はもとより、多くの部下を抱えて健康を気にしていた私は、素人ながら多くの“症例”を見てきているからそう思ったのである。
 その後看護婦が来て詳細な状況を書きとめていたが、彼は91歳で1人住まい、「え〜そのお歳でお1人ですか?」と看護婦が驚いている。
「18年間ずっと1人。炊事は自分でやっている」というからまたまた看護婦が「偉い!〜」と感嘆する。多分彼の食生活は、退官前の通算10年間、三沢から沖縄まで続いた私の単身赴任時代と似ているのではなかろうか?
 それにしても91歳といえば大正6年(1917年)生まれ、第一次大戦後のシベリア出兵時代の生まれである。この時代の方は実に頑健だ!

 やがて娘さんががけつけてきたが、早速「保険証」で揉め、自宅から持ってきて看護婦に「これが例の後期高齢者用の保険証ですか?」と渡す。看護婦は「これです。でもすぐ又変わるそうで現場は大変!」と答えると、老人が「人をバカにしおって!」と吐き出すようにつぶやいた。政治家と役人にこの言葉を聞かせてやりたいものだと思った。
「おとうさん、無理しちゃだめよ」と娘さんが言うと、「俺の気がかりなことはただひとつ、お前達に迷惑をかけたくないことだ。万一動けなくなり、お前達に面倒をかけることになることが俺としては一番いやだから、ポックリ行くことが今の俺の最大の望みだ」と答える。
「何を言うのお父さん、親子でしょう」
「いや、それはそうだが、介護は口で言うほど生易しいものじゃない。いつかは互いにいやになるものだ。俺はそうなりたくないから、今回は本当に参った。このまま動けなくなったらどうしようかと・・・それが一番俺にとっては心配だった・・・」
 その後MRI検査を受け、彼は夕方には小康状態になったが、老婆の「うめき声と叫び声」には耐えかねているらしい。

 朝6時、院内はいつものような活動が始まり、採血と検温、血圧測定が終わると、看護婦が「佐藤さん、先生から聞かれたでしょうが、今日からお水は飲めるようになります。ベッドから降りてもかまいませんが、クリップが取れるといけないので、まだなるべくショックを与えないようにしてください。尿瓶はまだ置いておきますか?」と言い、「片付けてください」というと、「夜間、暗い廊下で転ばれると大変ですから、夜中のために置いておきますから、遠慮なく使ってください」と言い、枕もとの札から、赤字でかかれた「禁水」を削除していった。「遠慮なく・・・」といわれても、他人に自分の尿の始末をしてもらうのは気が引けるものである。

 8時、看護婦が戻ってきて「先生から許可が下りましたから、歩かれて結構です。明日から流動食が出ます」と告げた。
 早速点滴棒を引きずりながらトイレに行こうと室外に出て驚いた。廊下の反対側の病室が丸見えで大部屋には6人の老婦人方がベッド上で生活している。
 点滴を受け、酸素吸入を受けている方もいれば、ただぼ〜と廊下を通る人を見ている方もいる。今まで“子供が入院しているのだ”とばかり思っていたのは、1人のおばあちゃんが誰に言うともなく“朗読”していた声だったのである。多分小学校時代に暗誦した教科書の内容なのだろうが、入れ歯がないのでやや不明瞭な点を除くとよどみのない調子は感動的ですらあり、それをじっと聞いているご婦人もいる。
 トイレから戻る時も延々とその状況は続いていたが、その有様はまさに“姥捨て山”であり、マスコミや政治家達にこれを見てから発言せよ!と言いたくなった。

 廊下に置いてある体重計に乗ってみて驚いた。58Kgなのである。4月時点では平均65・7Kgだったから、実に7Kg減っている!この体重計は狂っているのだ!と考えることにした。手を洗う時に気がついたのだが、左の手首にピンク色の「腕輪」がしてあって「No105734。名前[佐藤守]様。血液型●●年齢○○」と記入してある。まるで死体運搬用か、囚人番号だ!
早速、気になっていた「KN補液3B」とかかれた点滴袋の製造元を調べたが、「日本製」とも、「中国製」とも書かれていなかった。
 ベッドに戻って携帯ラジオを見ると、中国製のラジオなのに、AM/FMはもとより、TVも全局音声だけは聞けることが分かったからテストする。イヤホーンのコードがアンテナになっているらしく、その具合によって明瞭にも不明瞭にもなる。
 丁度テレ朝では例の番組をやっていたが、音声だけを聞いていると実に面白い。司会者の発言は日本語になっておらず聞くに堪えない!のである。本人はいいつもりなのであろうが・・・
 他局番組も同様で、実に他愛ないどころか幼稚すぎるし下品極まりない。当たり前のことだが、TVは画像があって始めて成り立つのだから、画像を消して音声だけ聞くとこうなるのは当然であろう。一度皆さんも試してご覧になるが良い。
 ついでにTVで「消音」にして画像だけで見ても面白い。登場人物の間抜け顔?は抱腹絶倒疑いなしである。     (続く)


月刊日本・7月号」が届いた。毎月「羅針盤」と云うコラムを書いているのだが、今月号は「パス」することにしていたのだが、退院直後「緊急入院!ベッドの上で考えた!」と題して送稿したところ間に合った様で掲載されている。ご笑覧いただければ幸いである。

これだけは伝えたい 武士道のこころ

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扶桑社新書 日本陸軍に学ぶ「部下を本気にさせる」マネジメント (扶桑社新書 28)

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日本への遺言―福田恒存語録 (文春文庫)

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