軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

危機感なき、擬似独立国家

 西尾幹二氏が“吼えて”いる。月刊誌「WiLL」では「皇室が危ない!」と「皇太子様への御忠告」を繰り返し、今上陛下の御努力御研鑽に比べて、「皇太子ご夫妻は国民の位置から高く聳えるご存在になられるよう渇望されていながら、現実において国民はご夫妻をそのように仰ぎ見ていないし、又ご夫妻の側でも皇室の伝統である国民共同体の中心の地位にふさわしい「民を思う心」をお育みになっているようには思えない」。
 国民は「皇太子ご夫妻をただのセレブだと思っている人が圧倒的に多いことは驚くばかりである」と手厳しい。
 一部メディアの“作為”で「開かれた皇室」が叫ばれてきた“成果”が現れているのだろうと私は思っているが、やがて尊いご存在としての「垣根」はなくなり、俗化されることは避けられまい。その時この国の誇りは消え、ネパールのように?単なるアジアの小国に落ちぶれるのだが、そうなってからでは復活はあり得まい。
 単なる「無知」からだけではなく、国民が知らないところで西尾氏が気にしているような「何らかの力」が働いているとしたら・・・。
「君側の奸」と云う言葉が今ほど思い出される時はない。


 ところで今日の産経「正論」欄で西尾氏は「日本の国家基盤が危ない」と論じている。拉致問題での「米国の道義的な裏切り」を責め、「完全核廃棄の見通しの不明確なままの、米政府の45日という時間を区切ったテロ支援国家指定解除の通告は、悪い冗談でなければ、外交と軍事のお手伝いはもうしないという米政府の見切り宣言である」
「今日の米国の体たらくぶりは予想のうちであったから、日本政府の無為無策と依存心理のほうに問題があることは百も分かっているが、それでも米国には言っておかなくてはならない。核不拡散条約(NPT)体制は核保有国による地域防衛の責任と道義を前提としている。米国は日本を守る意思がないのなら基地を日本領土内にもつ理由もない」
 そのとうりである。昭和50年、当時3佐であった私は、外務省国連局・軍縮室(現在は課)に出向させられ、連日20件以上もの国会答弁資料作りの手伝いをさせられた。NPT批准問題が国連局、というよりも外務省全体の最大の課題だったのである。
 昼は国会の外務委員会や自民党外交防衛部会の勉強会に出席し、夜は答弁書つくりに没頭したのだったが、当時はまさに西尾氏が問題にしている点が最大の課題で、NPT条約加盟国になることにより、将来の我が国の安全保障をどう確立するか?が最大の難問だったのである。
「昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵・・・」国際情勢は「奇奇怪怪」、自国の独立と安全を、同盟国とはいえ“他国”に全面的に依存していいものか?つまり、我が国が将来の核保有の手を縛る代償として「米国の核の傘」が信頼できるものか否か?
 連日連夜、答弁書を起案しながら議論したが、若手の中には「批准すべきではない。自国の安全確保の手段は確保しておくべきだ」と云う意見が高まった。
 しかし外務省首脳の考えは既に「政府の既定方針?」どおり「批准ありき」であったから、深夜の討論は虚しい「口論」に近かった。
 当時の自民党部会内でも侃々諤々の意見が噴出したが、いざとなれば条約の定期的「見直し」時期に“適切な対応を取る”ことが出来ること、最悪の時には“脱退”できることなどを条件に、批准されたと記憶している。
 あれから既に30数年たつ。我が国を取り巻く環境は激変した。同盟国の米国も、冷戦には勝利したものの、同志であった筈の欧州からは煙たがられ、ドルの凋落で安穏とはしていられない。その上アジアでは、唯一の信頼できる同盟国であるはずの日本が、何時まで経ってもマッカーサーが指摘した12歳から成長せず、むしろ周辺アジア諸国の生長ぶりから見ると「幼児化」していて12歳どころか6歳児以下の症状が噴出している!
 北朝鮮が国民を拉致していたのに、自ら奪還しようとはせず、同盟国にすがるくせに「つれないそぶり」を見せると駄々をこねる。
 北朝鮮がミサイルで威嚇し「東京を火の海にする!」といっても、お米を差し上げてご機嫌を取り、そしてNPTなど国際条約にお構いなく、北朝鮮は「核保有国」となった。「持てば官軍」であることを自ら示したのである。にもかかわらず、敵対する凶悪な国が核武装しても、我が国はそれを実力で排除するイスラエルほどの覚悟は持っていない。
 ここに至ってようやく日本国内に「核武装論」が高まったのを見た米国は、ライス長官を差し向けて宥めると、すぐにいい子になっておしゃぶりをしゃぶるだけ・・・他愛ないこと限りない。これまたアメリカ“軍”に排除を期待するだけではないのか?

 第二次大戦でイタリアと組んだことが大失敗だった、と反省しているドイツのように、実は米国も日米同盟の実態に嫌気がさしている。足手まといだからである・・・

 西尾氏は「中東情勢と米国経済の推移いかんで、米軍のアジアからの撤退は時間の問題かもしれない。そうなれば台湾は中国の手に落ち、シーレーンは中国によって遮断され、日本はいや応なくその勢力下に置かれることになる。それは日本の技術や資本が中国に奪われることを意味する」
 しかし、米国は自国の国益確保上、それを指をくわえてただ見ているだけではあるまい。
「これほど危険な未来図が見えているのに、日本の政界は何もしない。議論さえ起こさない。ただ沈黙である。分かっていての沈黙ではなく、自民党の中枢から権力が消えてしまった沈黙である。ワシントンにあった権力が、急に不可解な謎、怪しい顔、恐ろしい表情をし始めたので手も足も出なくなった沈黙である。・・・米中露、それに朝鮮半島までが核保有国となる可能性の発生が北朝鮮問題である。太平洋で日本列島だけが核に包囲されるのを指をくわえて見ていていいのか。日本はこれに対しても沈黙だとしたら、もはや政治的知性が働いていない痴呆状態というしかない。・・・折しも自民党から日本を移民国家にし1000万人の外国人を導入する案が出された。日本列島に『住民』は必ずいる。しかし日本民族はいなくなる。自民党が国家から逃亡した証だ。砂山は流され、消えてなくなるのである」と書いた。
 丁度その頃、西尾氏が危惧しているように、皇室も消えてなくなる・・・としたら、日本崩壊のシナリオは見事に符合しているのではないか?
 ムチも持たず、使おうともせず、口と金だけ出して『許しを請う』のが日本外交だ、と読んだ周辺諸国は、次々に強硬手段をとってきている。竹島を取った韓国人は、次は「対馬も韓国のものだ!」と現地対馬に来て気勢を上げたらしい。不適切行動をとる外国人は、強制帰国させるべきだろうが、現地市長は『困惑している』というだけである。
 長野五輪でも、今回の対馬でも「反日勢力」は“のびのびと”やりたい放題に活動していて、日本人が萎縮している!この図は一体何を示しているか?

 西尾氏が言ったとおり、この国の政治力は、中国の地方政府に優るとも劣らぬ勢いで『劣化』が進んでいる。
 今までは『法治国家』ならぬ『放置国家だ』と揶揄する程度だったが、今や『痴呆国家』に成り下がっているというべきだが、現状は「政治的知性が働かなくなっている」政界関係者が受診していないため「痴呆症と認知されていないだけ」だとも言える。一度強制的に「受診」させてみたらどうか?
 西尾氏の憤慨は、国民の目に見えないところで『日本崩壊シナリオ』が着実に進行している、ことに対する警告だと受け取るべきだろう。

敵国日本―太平洋戦争時、アメリカは日本をどう見たか? (刀水歴史全書)

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