軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「何が五輪だ!」

 水泳男子100m平泳ぎで、北島選手が堂々の金メダルを取った。出場前のTV朝日のインタビューで「選手にとって競技は戦争だ」と言っていたので感心したのだが、彼の精神力は実にすばらしい。試合後のインタビューで思わず涙を流し「何も言えネー」と言ったのはご愛嬌、25歳の若者が思わず本音を漏らしたのだろう。それほど彼自身は「緊張」していたのである。自己宣言と日本代表というプレッシャーで。
 産経「主張」は「現状満足せぬ努力の勝利」と彼を絶賛したが、同感である。200mにも期待したい。


 ところで、「平和の祭典」とは裏腹に中国国内はもとより、世界中で「硝煙」が上がっている。こんな五輪は珍しいのではないか?
 産経3面に「漢族支配・緊張の新疆」とのタイトルで、ウイグル族の怒りが高まっていることが報じられているが、今まで相当な反漢民族事件が起きていて、それを官憲が強烈に弾圧していたのだが報道されないだけであった。特に日本では皆無に近かったから、今時突然噴出したように思っているものも多いだろう。チベットだってそうであった。これが報道されるようになったのは皮肉なことに「五輪効果」とも言うべき事象だろう。
 ただ、チベットは最高指導者のダライ・ラマ氏が無抵抗主義を指導しているから、軍事的観点から見ればチベットは「ジリ貧」を続けているが、新疆ウイグル地区はそうではない。中近東で起きている様な「自爆テロ」も辞さない強硬なウイグル族による反漢運動が続いている。これは民族独立運動でもありテロというよりも「反政府活動」というべきものである。それほど漢民族ウイグル人弾圧は過酷なものだという証明でもあるのだが、その起源は世界が1964年10月10日に始まった東京五輪で浮かれていた時、その6日目の16日にまるで待っていたかのように毛沢東が「核実験」をしてウイグル族に多くの被爆者が出たことと、イスラム教を弾圧していることにある。
 今でも中国が新疆ウイグルを手放そうとせず、軍事力で強固に押さえているのは、核実験場は勿論、核施設をウイグル領内に持っているからである。その後毛沢東は危険を感じて核施設を四川省内に移動させたものの、ここも今回の地震で相当な被害を蒙っているらしいといわれているから、なおさらウイグル地区を手放すことはあるまい。
 過去10年近くになる日中安保対話の焦点は、台湾問題がこじれると、チベットウイグル、モンゴルなど周辺自治区に「解放」の動きが広がることを彼らが気にしていることの確認にあったのだが、昨年の会議でそれが確認できた。ところが肝心の台湾はあの通り、一人脱落してしまった。皮肉なことに、台湾抜きでチベットウイグルの騒乱が高まったが、やはり「異民族」たる自覚の差がそうしているのだろうか?ここで再び台湾独立運動が息を吹き返すと北京政府は堪らないだろうが・・・。
 44年前の東京五輪期間中の15日にソ連フルシチョフ首相が解任され、日本でも、五輪終了後の11月9日に喉頭癌だった池田首相が佐藤栄作氏と交代した。果たして北京五輪後の世界政治は、中国政府はどうなるか興味がある。

 産経には46歳のウイグル人男性がクチャの事件を「五輪が開幕した直後の事件。(中国政府への)影響は大きい。ウイグル族の怒りが世界に伝わった筈だ」「五輪なんか関心ない。街に五輪のスローガンなんかひとつもないだろう。反感を買うからさ。五輪はウイグル族にとっていい事なんか何もない。何が五輪だ」と吐き捨てるように言い放った、とある。国内では北島選手の快挙に沸き立っている。しかしこの記事を書いた野口記者と時事通信のカメラマンが、中国公安に「非人道的な尋問」を受け、謂れのない拘束を受けている。これがかの国の実態だということを、日本人は少しは冷静に考えてみるべきだろう。
 
 他方、強いロシアを目指すプーチン首相は、開会式に平然と出席する裏で、グルジアに組織的に軍事力を行使した。これほど大規模な軍事攻勢をかけるためには、事前に相当な準備が必要である。これは、その昔毛沢東東京五輪を隠れ蓑に核保有国入りした時と同様、「平和の祭典」を陽動的に利用した「見事な作戦」だといえる。お祭りごとは「陽動作戦」に最も利用されやすいものだということが、軍事力無視、軍事音痴の日本人には全く理解できていない。

 米国のチェイニー副大統領が今回のロシアによる軍事侵攻は「対米関係に重大な結果を招く」と強く警告したようだが、「重大な結果」が何を意味するか明言を避けたという。
「重大な結果を招く」というフレーズは、北朝鮮やイラン問題でもこれまでたびたび使われてきたが、何の「結果」も招かなかった。そんな「色あせた警告」なんぞ、北朝鮮やイランは「笑って」聞き流していることだろう。「脅し言葉」は、乱発されると効果は薄れるものである。「関西人の喧嘩は口で、九州人の喧嘩は口より手が先」といわれるように、口先だけでは抑止力にはならない。最も効果的な抑止力は、イスラエルの実力行使である。プーチンもメドベージェフもそんなことは当然織り込み済みのはず。
 さて、北京五輪終了後の世界政治・軍事情勢の「激変」が見物である。

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