軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

インテリジェンス非常事態宣言!

 昨日は茨城県潮来まで出かけて講話をしてきた。朝5時起き、6時出発で東京駅に出る。7時過ぎの八重洲南口のバス停は通勤客で一杯、バスの切符売り場が分からずうろうろしたが、親切なJR職員が教えてくれた。はじめて知ったが、鉄道の不便な地方には、ここから定期的に長距離バスが出ていて、潮来方面は10分おき、しかも全員座っていけるから楽である。高速湾岸線は上りが大渋滞だったが、原因は「例のタンクローリー事故」のためだというから、その経済的損失は計り知れないだろう。その逆の下りはスイスイ、予定より10分早く潮来についた。ビッグカントリー?に西部劇の宿場のようなバスターミナルがぽつんと立っていて、周辺は有料駐車場。この地域の人々は、自宅から車でここまで来て、後はバスで通勤するのだという。日本らしい肌理の細かさに感心した。
 そこから更に30分ほどで神社(会場は教育センター)に着き、午前2時間、午後2時間30分の「防衛漫談」をしたのだが、陸の孤島?なのに60人近くの神主さんや氏子さんたちが集まっていて熱心に聞いてくださった。正式名称は「国民精神昂揚研修会」で、防衛問題についての講師を私が要望された次第。
 8月の水戸、下妻、そして今回の潮来と、3箇所での講習を無事に終え、責任が果たせてほっとしたが、日の丸の下で礼儀正しい方々と、それを支える女性陣の作法の行き届いた姿に、久々にこちらの方が逆に日本人精神を昂揚させられた。

 防衛・軍事の話といえば、堅苦しい内容だと思われがちで、とにかく煙たがられ辟易されるのだが、時代の流れか、イラク自衛隊が派遣された影響か、はたまたチャンネル桜の効果か?かなりの方々が私と井上キャスターの「防衛漫談」の視聴者であったこともあって、私が招聘されたということもあったようだが、潮来会場は若い方々が目立ち、熱心に聴いてくれたことが印象的であった。
 自衛隊幹部も、現役は無理かもしれないが、少なくともOBは、積極的にこのような場に出て国民に「広報」する必要があろう。ゴルフ・マージャン・カラオケ・焼肉もいいが、物言えぬ現役のためにも、一肌脱いでもらいたいものである。


 ところで前回の「ロシア人気質」のコメントには昔を思い出すものがあったので、今日はその続き?を書いておこう。

 雑誌「諸君」の「インテリジェンス非常事態宣言」に関するコメントだが、確かにこの国の情報活動は心もとない。一国の総理大臣が、事前に調査された“好みの女”を抱かされて情報を取られたり写真を撒かれたばかりか、国民の税金を彼女を通じて「献金」するのだから、同盟国から信じてもらえず最新武器を売ってもらえない?のも当然である。
 最も、権力ににじり寄るのはまず金と女であり、やがてスパイ行為、情報戦に取り込まれていくのが常道?である。欧州の国でもこの手のスキャンダルは絶えないのだが、それを支える組織がしっかりしているので、わが国ほど「非常事態宣言」しなければならない「ノーパン」状態ではない。

 モスクワの大使館建設時の裏話は「諸君」が書いた通りなのだろうが、4日間だけしか泊まらなかった当時の私の体験では、おんぼろ大使館内での会話は緊張感を帯びていた。
 唯一、大使が胸襟を開いて話してくれたのは「連れション」時で、「ここには隠しマイクはないから・・・」と大使は笑ったものである。
 当時は大音量のクラシック音楽を聴きながら「筆談」で意思疎通を図っていたそうだが、私が本省に戻って報告したのは、通信課に現地雇用のソ連人が採用されていたことを疑問に思ったことで、機密保持上そこを質問したのだが、FAX通信はまだしも、極秘電は“絶対に”大丈夫と確信していたのが気になった。
 大東亜戦争時も、極秘電は米国に解読されていたではないか。この仕事に“絶対”はあり得ないと私は思っている。

 当時、後の東方総監になられた増岡陸将が、1佐で陸の防衛駐在官として勤めておられお世話になったのだが、あるとき、テンガロンハットをかぶり革ジャンを着た増岡氏に、真っ赤なブルーバード3Sでモスクワ郊外の環状線をドライブしてもらったことがある。 モスクワ五輪を控えた市内は工事たけなわで、環状線もおんぼろトラックの渋滞だったが、そんな中を真っ赤なスポーツタイプセダンが通るのだから、故障して道端に止まっている軍用車両に満載された新兵たちが、うらやましげに見つめていたのが印象的だった。 そしてドライブ中に増岡武官は「佐藤君、モスクワにはJAFは不要だよ。少なくとも外国人には・・・。郊外をピクニックするにも全て行動計画書を提出させられるのだが、今日は環状線内だから計画書は不用になっている。しかし、どこかで5分も停車すると、すぐに得体の知れない車が来て、直ちに移動するように言う。「故障した」というとレッカーしてくれるから、JAFは不用というわけ」と大笑いした。
 こんな大胆不敵な武官ならいざ知らず、軍事教育を受けていない官僚たちにはこの国でのお仕事はご苦労なことだったに違いない。

 丁度日ソ「お魚交渉」で、園田特使がモスクワを訪問した頃の話なのだが、到着直前に市内の「オケアン(お魚屋)」の店頭には、大量の冷凍魚類が一斉に並んだのだが、聞くとこの店に園田特使が来るからだという。特別配給だったに違いないが、そんな裏事情を日本から来た官僚たちが見抜けたかどうか・・・
 北朝鮮の「オカラ祭り」「北京の口パク演技」何よりも軍人が大量に出演した開会式のマスゲームを「言葉がないくらいの感動」で日本に伝えたNHKキャスターのように、この手の操作に乗りやすいのが日本人である。
 最も11月に行われる日本のマスゲーム自衛隊音楽祭り」を、北京で感動したNHKのスタッフが放送してくれるとNHKが軍国主義反対ではないことが証明されるのだが?

 冗談はさておき、今私が非常に危惧しているのは、海外の大使館よりも永田町の方が「インテリジェンス非常事態宣言」を発すべき状況下にあるのでは?ということである。
 ロシアは勿論、中国、北朝鮮、それに韓国が入り乱れて行動しているようで、お人よし日本人にはとても対抗できそうにない。

 弛んだ一般官僚と混同されて困惑している公安機関の諸官の地道な健闘に期待したいと思っている。
 最も、現役時代には極めて慎重に「それ」に対処していた私だが、今や民間人、偉そうに「インテリジェンス非常事態」などについて語る資格はないのだが、ツイ老婆心で。

世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む

世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

暗号はこうして解読された―対日情報戦と連合艦隊

暗号はこうして解読された―対日情報戦と連合艦隊