軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「首相にならぬことを祈る」

 昨日は史料調査会で、拓大海外事情研究所の渋谷氏の「総統就任後の馬英九政権」と題する講話を聴いてきた。立法院選挙の大敗後、総統選挙でも国民党の馬氏が圧勝したが、就任以来3ヶ月、支持率は71・3%から36・9%に激減した(民進党調べ)という。
 逆に不支持率は22・5%から57・0%に上昇、8月30日には「馬政権糾弾集会」に30万人が集まったらしいが、選挙という一時的な「熱?」に浮かれ、アイデンティティを見失った結果がこれである。
 支持率がどうであろうと、馬政権による大陸統一準備は着々と進んでいて、例えば陳政権で「台湾」という「正名」を復活させたが、「台湾郵政」を「中華郵政」に、蒋介石を顕彰した「中正記念堂」を「台湾民主記念館」に改名したのに再び「中正記念堂」に戻す等、中華民族を強調しているそうだ。今後の日台関係、米台関係が良好に進展する気配はなさそうだが、馬政権は政策能力に欠けているので「台湾国内の変化」が注目されるという。しかし、大陸は既に「平和的統一」の第一歩を踏み出したと認識しているようだから、今後の中台関係には注目しておくべきだろう。


 ところで今朝の産経5面を見て驚いた。「私の小沢一郎論」というコラムに、表題の記事が出ていたからである。語り手は奥島貞雄自民党幹事長室長。中見出しの「人の苦労がわからない」というのは小沢氏のことで、「私は22人の幹事長にお仕えしましたが、ワーストワンは小沢さんです」といい、具体的に重要な会議などを「すっぽか」した事例を挙げている。小沢氏は「『世の中をなめているな』と思います」というのはいいとして、その次の文が極めて印象深い。
「一方で小沢さんは偉い人の前では非常に礼儀正しく振る舞います。『老人殺し』といわれたほどかわいがられましたね。でも、その人が部屋を出て行くと、ころっと態度が変わるんです。それから、重要な人の葬儀には必ず顔を出して出棺まで見送ります。当然、参列者は感激します。田中角栄元首相がやっていたことを見習ったんでしょうが、小沢さんの場合は形だけで情はないと思います」
 つまり全てが「パフォーマンス」ということだろう。
「政治には『寛容』が大事」という中見出しでは、民主党代表選で小沢氏の無投票三選が決まったことを「参院第一党がそんなだらしない状況では困ります」と苦言を呈し、一方、自民党にも「元気がないですね。『自民党が自分がやらなければ誰がやる』という迫力あるリーダーがいません」と苦言を呈した。
 そして「早期に衆院解散・総選挙が行われるでしょうが、願望をこめて小沢さんが首相にならないことを祈ります。小沢さんには吉田茂元首相の「己を知り己を愛し、また敵を知り敵を愛する寛容があってこそ、民主政治が行われる」という言葉を贈りたい。政治には『寛容』が大事なんです」と結んでいる。


 実はインターネット情報で盛んに小沢氏とノリエガ将軍、創価学会などの『麻薬密売』記事が流れているのだが、その情報源の一つである『アメリカ殺しの超発想』という、霍見芳浩ニューヨーク市立大学教授が書いた本を入手して読んだところ、これまた当時の日米交渉はじめ、外交関係で小沢氏の実名が各所に出てくるので驚いていたところだった。
 この著書は1994年10月31日が初刷りだから、それ以前の日米交渉の裏話が、詳細な資料をバックに明記されていて、逆に信憑性が気になるくらいだが、「小沢氏の代理人からの深夜の抗議電話」の項を見るかぎり事実に近いと思われる。
 この著書の「はじめに」で、「日本人はどうも、戦後にアメリカの庇護を受け、経済発展をさせていただいたという負い目をひきずっているようだ。そして、アメリカがいなければ日本は大変なことになる、アメリカを敵にまわせば、日本経済は壊滅すると考えている人が多い。勿論、日本にとって、アメリカは大切だ。しかし、国際政治のカラクリを冷静に読み取らずに、、ただ、アメリカの言うとおりに考え行動するのは、大変危険なことではなかろうか。こと、対米関係のみならず、片思いの情緒だけで持って、厳しい国際政治経済のダイナミックな動きをとらえようとすると、大きな過ちを犯してしまう」とあるが、これは対中関係にも当てはまる。

 とまれ私が今朝の産経記事に驚いたのは、丁度この本を読んでいて、気になる点が多々あったから、偶然だとは思えなかったからである。
 
 この本から、小沢氏関連の見出しを目次から列挙すれば、
プロローグ=「アメ玉を奪われる『お坊ちゃん』日本」
●世直し願望を軽視した細川は小沢に使い捨てられた
ホワイトハウス「小沢は所詮、この程度だったのか」

第3章=「モトローラ日本侵略大作戦」
○首相自ら国家主権をただで差し出した。
●小沢氏は日本という女神を売ったポン引きだ

第4章=「アメリカの毒を日本にもる政治家と官僚」
●日本のザル法を巧みに利用した小沢氏の金と権力
●小沢氏の代理人からの深夜の抗議電話の一部始終

第6章=「日本の政治家や官僚の言う『北朝鮮問題』の裏にあるもの」
●小沢氏を失ったアメリカの困惑

第8章=「アメリカが操った小沢レバーと日本政府の腐敗の真相」
●ヤクザと国粋右翼と一心同体で、小沢氏は与党に乗り換えた
●アマコスト前駐日大使は、小沢氏を操るCIAのディープカバーだった
●金丸氏、そして小沢氏が独占した防衛利権
○日戦研(日本戦略研究センター)の謀略を見抜けない社会党やリベラル派
小沢一郎氏と池田大作氏とノリエガ将軍の三角関係
●小沢レバー批判をめぐるマスコミのあれこれ・・・
などなどで、圧巻は第8章だが、小沢氏の実名が表題になった部分だけでこれほどある。

「おわりに」に霍見教授は「象とネズミの話」という表題で次のように書いている。
「『ひもじい』という日本語はもう死語になってしまった。半世紀前の戦争と敗戦の大混乱に子供時代を過ごした私達も昔で言うなら還暦の老人になろうとしている。『ひもじい』(腹が減ってたまらない)を身にしみて感じた少年期の毎日だった。
 そして今の日本を動物に例えるなら、貧相で腹をすかしていたネズミが、飽食し、身体だけ外見は巨象と間違えられるほどになった。つまり、世界第二の経済力を持つまでになった。しかし、悲しいかな、頭の中身も五感も昔のネズミのままだ。食べ物を探して、世界という狭い家の中を人目を忍びながら走り回る。しかし、身体は巨象なみだから、本人はネズミとして壁の穴を抜けたつもりでも、壁全体が壊れれてしまう。これでは世界はたまらない。こんな狂った巨象はオリに入れるか、殺すかだとアメリカ以下各国が日本を叩く。この本は、巨象なみの体をした日本に、巨象にふさわしい思想と行動を身につけてもらいたいと念じて書き上げた。愛する日本への願いでもある・・・1994年10月1日」と書いているが、私も同感である。ちなみに霍見教授は1935年熊本生まれ、私は1939年樺太生まれだから『ひもじい』世代では共通している。

 米国に始まった「リーマンショック」はわが国の経済にどう波及するか?
他方、商道徳が失われている現状に鑑み、それを重点的に監督すべき農水省の弛みきった「無監督」下に生じた「汚染米ショック」で揺れる日本・・・。農水省ならぬ「脳衰症」か?と疑いたくなるような一部官僚たちの堕落はとどまるところを知らない。
 現状は、まさに14年前に教授が指摘した通りではないか!

 日本の政治は揺れ動いている。それに伴い国民の政治に対する信頼も揺れ動いている。そんな最中にこの本を読んでいて、たまたま朝刊の記事で同じ政治家名を見た驚きは言葉に表せない。民主党員は今朝の産経の記事をどんな気持ちで読んだだろうか?鳩山幹事長に伺いたいものである・・・。それとも「産経」は読んでいないかも?
 安倍元首相は遊説で「自由民主党民主党が違うところは、民主党には“自由”がないところです」といって受けたそうだが、代表選で対抗馬さえ出ない(出せない)雰囲気の「民主」党なのだから、記事を読んでも誰も口に出さないだろうが、それじゃ国民に対してあまりにも無責任な政党だといえよう。
 願わくば、迫っている総選挙で、間違っても国民党政権を選んだ「台湾人」のような愚を有権者に犯して欲しくない、と願うばかりである。

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