金融危機で、東証株価はついに10000円を切った。「世界大恐慌か!」と世界中がやきもきしているのに、あれだけ総裁人事で“有名になった”わが「日本銀行」の動きがさっぱり見えないので、不思議に思っていたところ、今朝の産経一面下に「日銀よ、どこへ消えた」という記事が出た。やはり専門家も不思議に感じていたらしい。経済に疎い私には、この事態に効果的な手段があるのかどうか知らないが、せめて国民に「パニック」だけは起こさせないよう配慮する行動を取ってもらいたいものである。パニックは「戦争」につながりかねないからである。
ニューヨーク発の金融大恐慌!といえば、昭和4年(1929年)10月の「世界恐慌」を思い出す。この年は、前年に起きた張作霖爆殺事件の責任者処分が公表され、田中内閣が総辞職、濱口内閣が後を継ぎ、8月に「全国民に訴う」という緊縮政策を放送した。
10月15日には全国官吏の俸給1割カットを閣議決定したが、判事検事等の猛反対で政府はこれを撤回する。その直後の10月24日に恐慌は起きたのであった。
以降国内情勢は混乱を極めるが、翌年11月14日に、濱口首相は東京駅で暗殺される・・・。これは誰もが学んだ第二次大戦前夜の風景だが、現在も何と無くこれに似ている。
10月6日の「正論」欄に、渡辺利夫拓大学長が、自著の「『新脱亜論』で訴えたかったこと」と題して、「日本の歴史、特に開国維新に始まり第二次世界大戦敗北に至る近現代史については、これを十分に理解しておかなければ現代そのものが分からないという思いはかねて強く、時間を見つけては文献を漁っていた。しかし購入した研究書のほとんどは、いまなお自虐史観というのか東京裁判史観というのか、そういう立場から書かれたものがほとんどである。冷戦崩壊から十数年、日本の国際環境は全く変わってしまったのに、そんなことはまるでなかったかのような装いなのである」が「歴史は全て現代である」。「歴史学を学ぶものの問題意識はつねに現代でなければならない」と書いたが同感である。そして「新脱亜論(文春新書)」に書いたポイントは、
1、「現在の日本を取り巻く極東アジアの地政学的状況が、開国維新から日清・日露戦役開戦前夜のそれと酷似しているという観点」
2、「往時においても現在においても日本が独力で自国の安全保障を全うすることはできない。とすれば、日本はどういう国と手を組んだ時に成功し、どういう国に関与した時に失敗したのかを近現代史の経験から学んでおかなければならない。日本は誰を友としていたときに平穏を保ち、誰と付き合ったときに辛酸を舐めさせられたか」
3、「歴史的イフ」つまり「日本が日清・日露戦役に敗北していたらという『イフ』である。仮に日本がいずれかに敗れていたならばまずは清国、ついでロシアの『属邦』に陥っていた蓋然性はきわめて高い」
と、現在の東シナ海問題が抱えている危険性を挙げ、日清・日露戦役で日本が勝利したのは「指導者の徹底的に冷徹な状況認識と果敢な戦略にあったと見て間違いない。明治のリーダー達の戦略に学び、これを現代に生かす道を探るという知的営為が今ほど必要な時期もあるまい」と結んだ。
近現代史のほとんどが、いわゆる「自虐史観」に犯されているのであれば効果は少ないかもしれないが、私は、少なくとも高校で教える歴史は、縄文時代から現代へと辿るのではなく、昭和20年の「終戦」の日から順次遡って縄文時代に至るべきだと思っているから、渡辺学長の「歴史は全て現代である」に大賛成である。大学受験で制約されて、仮に奈良時代以前は「自学自習」になったとしても、影響は少ないと思うのだが、文科省の意見が聞きたいものである。
そして今朝の「正論」欄には、佐瀬昌盛・防大名誉教授が「新冷戦?いや『大戦前』的な発想」と題して、8月のロシアによるグルジア侵攻問題を取り上げ、これを「新冷戦」という文脈でとらえることに抵抗を感じる。「今回のロシアの行動はむしろ『第二次世界大戦的』であり」、今回ロシアが掲げた大義名分は「南オセチア内の『ロシア系住民の保護』だった」から、「瞬間、私は1938年のヒトラーのズデーデンドイツ人政策を想起した。両者に共通するのは、『国外同胞の保護』なる発想である。第二次世界大戦前の発想だ」と書いた。オーストリー生まれのヒトラーが「祖国が第一次大戦に敗れ、両国とも領土を失うと、ドイツ国籍を取得。やがてドイツの『総統』となり、大ドイツ主義の実現を目指す」。そして「ヒトラーは、この『国外同胞』は住地ごと『祖国復帰』すべきだと主張した」のだが、その後の歴史は周知の通りである。
更に佐瀬教授は「『国外同胞の保護』行動から南オセチア、アブハジアの独立承認、友好協力相互援助条約締結(実質的属国化)までのロシアの措置は、ヒトラーに学んだのではないかとさえ思わせる。いずれ両地域は『住民の意思』で、ロシアに迎え入れられるだろう」と“予言”し、今や欧州各国、特に隣接諸国は、ロシアの行動を厳しく非難するとともに、領域防衛のためにもNATO加盟を考えようとする動きが起きているというが、「スェーデンのビルト外相も、ロシアの行動でヒトラーのズデーデン政策を連想したと語った。これも第二次大戦前の想起だ。冷戦の敗者たるソ連=ロシアに今や大ロシア主義が台頭する気配を、ロシア西方の諸隣国は70年前の大ドイツ主義の記憶をたどりながら、直感しているのだろう」と結んだがこの視点にも同感である。「新冷戦」という言葉に惑わされることなく、何らかのきっかけ次第では「熱戦」も不可避だと考えるべきだろう。
たまたま?とはいえ、これら両論文は、1929年のニューヨーク発世界大恐慌の再来か?といわれる今の時期にタイミングよく掲載された。
歴史に学ばない国は「手痛い目にあう」様な気がするが、わが国の指導者達の誰が気がついているのだろうか?
平穏無事そうに見える国内でも、沖縄や対馬、いや、関東周辺にも「国外同胞」が進出してきている地域が広がりつつあり、いずれ「住民の意思」で、周辺特定アジア諸国が進出して来るかも知れない、などと考えるのは、それこそ“右翼”老人の杞憂に過ぎないというのであろうか?杞憂であって欲しいものだが、歴史は経済危機から「世界戦争」に発展してきたことを忘れてはなるまい、と思うこのごろである。
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