軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

塀の中の懲りない面々!

 3日夕方、渋谷に出て作家の浅野裕子さんと雑誌の新春号の対談をしてきた。作詞家としても有名で「甘く苦い大人の恋愛を描く小説世界は独自の輝きを放つ」作家だけあって話題豊富、「2009年の自衛隊はこうあって欲しい(仮題)」という枠を超えて論壇風発、あっという間に一時間半経ってしまった。
 現代若者達の生き様にどう応えるか、目標を失いつつある青年達にどう生きがいを与えるか、自衛隊員の目の輝きのすばらしさ等など、話題は尽きなかったが、自衛隊の広報のあり方について、もっと「壁を開きなさい」という説には全く同感であった。

 実は広報室長に着任した時に目指したのもそこにあったからである。
「何でも隠す自衛隊」という悪評を、可能な限り打ち砕いて、国民にいい意味でどんどん公開する、そして武装集団としてのあり方を国民と共に考える気風を作りたかったからである。しかし「機密」の固まり見たいな組織という固定観念と、過去に多くの“機密漏えい事件”でたたかれた悪影響からか、自衛隊のなかにはそれをいいことに「知ってもらう必要はない」と考えている向きもあって、それが「知ろうともしない国民」と「利害?」が一致したからか、その間に厚い壁が出来ていたように感じたからである。
 自衛隊の実情を知らしめない!とするメディアの改革は不可能にしても、せめて内部の意識改革は出来るだろう、と考えていた。しかし、広報に無関心、というよりも、波風立てずに『ひっそりと』わが世の春を楽しんでいるグループがいるように感じて、それを私は安部譲二の小説「塀の中の懲りない面々」と揶揄していた・・・

 この作品は『塀の中』つまり刑務所の様に高い塀で囲まれて国民と遮断され、「司法の名のもとに自由を奪われて懲らしめられているはずの囚人達」を描いたものだが、登場する囚人達はちっとも懲りてはいない。それどころか「次から次へと不思議なアイデアを考え出しては、様々な悪事を実行する。そして逮捕されては『同窓会気分』で、喜々として(?)塀の中に舞い戻ってくる」という塀の中の知られざる一面が描かれている。
 自衛隊を刑務所に例えるのは心苦しいけれども、広報不十分で、国民との間に「塀」を高く築いて隔離している、という点では似ていないこともない、と考えたのであった。
 つまり、積極広報せずにそっとしていたほうが、国民からあまり知られたくない?と考えぬるま湯にとっぷりつかり塀の中だけで「敬礼」を受けて良い気分になっているグループには都合が良い。そして「大過なく」卒業して叙勲を待つ?という、何と無く“小説の主人公的な”生活スタイルに私は違和感を覚えていたからである。

 対談した浅野さんもそうだが、女優俳優たちは、多くのファン達にいつも『見られている』という緊張感から、つねに身だしなみを整え、スタイルと健康を保ち、見えない部分で懸命な努力をしていると思うのだが、塀の中で勝手気ままに過ごしていれば、その緊張感が生まれるはずはないから、ややもすると怠惰で居心地良さを求めたサークルが出来やすい。しかも監視しているのは看守だけという気安さもあって小説そのままの世界になる。それでは健全な「国民の軍隊」に成長できない、と私は思ったから塀を打ち壊したい、と思ったのであった。
 今回の田母神論文で世論が分裂しているのは、特にメディアによって「隔離」するかのように形成された分厚く高い塀が出来ていた証明であろう。
 自衛官も「旧軍並みの殺人鬼?」いかめしい殺人集団のトップである「空軍大将」と思い込まされてきた一部の国民にとっては、眼前に現れた田母神氏のギャクとユーモアに驚き「さばけているジャン」と若者達が喝采するのである。
 大阪の読売TVの収録の後、スタジオを出た田母神氏に拍手が鳴り止まなかったところ、田母神氏が戻ってきて拍手に応える「カーテンコール」があったそうだが、おそらく参集者は自衛官に対する印象を根底から改めたに違いない。
 今まで半世紀の間、自衛隊塀の中に閉じ込めて「悪人扱い」にしてきた一部のメディアは、今回の浜田大臣による空幕長更迭劇で、皮肉にも閉じ込められていた「自衛隊の真の姿」の一部が“流出”し、国民の間に親近感が生まれてあわてている様だが、覆水盆にかえるまい。今回、メディアが自衛隊と国民との間に造ってきた分厚い壁の一部が壊れたという点でも私は大いに評価している。むしろ、今回の事態を招いた浜田大臣は、自衛隊の広報に貢献した偉大な大臣!として後世高く評価されることになるのかもしれない?!
 同時に、国民の目線を避けて?塀の中でぬるま湯を楽しんでいた者たちにとっては、今後はいたたまれなくなることだろう。隊員たちが“塀の中で”「カシラ右!」をしてくれるのは、肩の星の数や袖の金モールに「条件反射」しているだけで、中身を尊敬しているわけではない。退官して背広を着たら「どこのおじさん?」といわれるのがオチ、それを錯覚すると老後がわびしいものになると思って私は自制した来た。
 前回はそんな「分厚く高い塀」が齎した弊害の一つともいうべき「山田洋行事件」が事務方トップの不祥事という形で“公開”され、塀の中の懲りない面々には“衝撃が走った”ろうが、今回の田母神氏の行動が更に塀を取り除く効果があったことを恨めしく思っていはしないか?
 毎年発行されている防衛白書の巻頭に歴代大臣が「この白書を多くの方々にお読み頂き、防衛省自衛隊に対する御理解を頂くと共に、今後の防衛省改革の着実な実行に対して見守って頂く、あるいはご支援を頂くよう願っております(20年度白書)」と書くのが通例になっているが、「百の説法も何とやら」防衛白書よりもはるかに効果絶大だった、と私は評価している。

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