軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「自衛隊」で日本を守れるのか

 ウイグル地区の暴動で、サミットに参加していた胡錦濤主席は急遽北京に戻った。緊急会議を開いているのだろうが、昨日の産経8面に評論家・石平氏が語っていたことは注目に値する。
「大国としてのメンツを何より重んじる中国がそこまでする理由は一体どこにあるのか」というのである。それは「中国共産党内で暴動処理をめぐり、意見の相違や対立が生じたこと」であり、「最高指導部の一斉沈黙は、内部が意思統一されていないことの証左とも理解でき」「中央政府の対応が必ずしも胡主席の方針に即していないケースである」。「つまり、現地政府や中央の担当指導者(習近平・国家副主席である可能性は大であるが)が独自に考えて行動した結果、事態が胡主席の望まない方向へと進み、胡主席自らが軌道修正して事態収拾に乗り出さざるを得なくなった」との見方を示したが、同感である。そんな内情だとしたら、かってのチベット騒乱事態を収拾した手腕を胡主席は発揮できるのかどうか?見ものである。


 今朝の産経一面「ちゃいな.com」欄の「調和社会の看板が泣く」という伊藤正記者の解説も良い。
 ウイグルは「有望な油田、天然ガス田に加え、石炭、金などの鉱脈も次々に見つかり開発された」。「少数民族出身幹部は共産党のロボット化し、中国語教育の義務化(03年)等、漢族化が進んだ」というのだが、「反日論議」で活躍している言論人が、旧満州朝鮮半島で行ったとされる“日本帝国主義軍国主義の蛮行”、NHKジャパンデビューの“台湾に対する蛮行”などは、筋を曲げても必要以上に喧伝するくせに、中国がチベットウイグルで行っている「蛮行」には目を瞑り一切触れないのはいかがなものか?偏向報道はしない!NHKは情報収集に努めていて、やがて公正な「特番」を組むだろうから大いに期待している。


 特に良かったのが、今日も8面の「安全保障の要地中国は手放さぬ」という星野昌裕・南山大学準教授の解説である。実験回数が多くウイグル族被爆者が多数出ている「核実験基地」、ミサイル実験を国内で行える「軍事上の優位」などから、「同自治区などが『別の国』になることは、安全保障上、許せないことだ」という解説である。
「中国政府は、少数民族地域の政策を、対話や権利維持といった観点ではなく、安全保障の観点から立案してきたこともあり、その限界が今回噴出した形だ」というのだが若いのに軍事的観点から見る鋭い観察であり、こんな若手研究者が出現したことが喜ばしい。
「1950年代から屯田兵として西部に入り、60年代に中ソ国境に配置された『新疆生産建設兵団』(元14個師団)は現在、治安維持も担当しており、ウイグル族から反発を受けている」「漢族の相次ぐ流入で、自治区内のウイグル族の人口は60年間で76%から45%に減少した。そのうえ漢族は少数民族に関する教育を受けておらず、イスラム教徒のウイグル族が食べない豚肉を扱う店も増えるなど、宗教配慮も十分ではない」と鋭い。チベットウイグル同様、今でも民族浄化が続けられている。


 イタリアでロシア大統領と会談した麻生総理は、ロシアの「不法占拠」を指摘したそうだが、ロシアからは「領土問題は一切提案されなかった」らしい。
 樺太まで出かけて「面談」するのはいかがなものか?といわれたのに、自ら乗り込んで「双方で何か『秘策』を練り、次回に期待を持たせる」発言をしたが、またまた肩透かしを食った形で、「イワンの●●」にいつまでいいようにあしらわれ続ける気だろうか?
 ロシアが北方領土を手放さないのは「資源豊富」だからではない。中国同様、安全保障上、つまり軍事上絶対に手放せない要地だからである。取り戻すには「一波乱」覚悟しなければならないのだが、「平和憲法」の呪縛下にある日本にはその気は全くないし、政治家にその覚悟はないのだから、小ばかにされるだけなのである。
 拉致問題を見るが良い。全く進展してはいないではないか。その無責任さはあきれるほどで、「国会議員は万死に値する!」と言われても仕方なかろう。
 軍事音痴どころか『軍事(軍人)を蔑む姿勢』を世界中に見せ付けたのが『空幕長更迭事件』であった。おそらくそんな自覚はあるまいが、自衛官を“非人扱い”にしてきた日本政府、メディア人は『シビリアンコントロール』という●●の一つ覚えでしか判断できない異常さを、世界に公表してしまったのである。
しかし、世界は『軍事』で動いているから、田母神氏更迭事件は「異常な出来事」だと世界中に認識された。産経は一面トップで、G8での首相の「悪戦苦闘ぶり」を報じたが、さりげなく『“内憂”見透かされ?』と書き加えた。それは日本人には「政界の混乱ぶり」としか映らないだろうが、軍事で動く世界はそうは受け取らない。そんなことはどの国も同じであり慣れっこだが、軍事を軽視する“最高司令官”だけは、G7メンバーには理解ができないのである。

 そして今やその自衛隊自身が弱体化しつつあるという。前段が長くなってしまったから、以下要点だけに留めるが、今発売中の「SAPIO」に表記の題で特集が組まれている。とりわけ現役代議士、官僚、制服による「覆面座談会」が面白い。
 私がざっと目を通した限りでも、例えば「片山さつき主計官の”平成のバカ査定”」などという発言は、かなり本音が出ていて、内部に憤懣が鬱積している様子が伺える。是非ご一読願いたいと思う。


 つぎが「WiLL」田母神俊雄「増刊号」で、田母神氏の経歴よりも、彼が過ごした自衛隊の内部の様子が窺い知れるのが面白い。もちろん、いままで制服にも多くの「高位高官」が排出されたにもかかわらず、OBになっても、誰一人として「国民に真実を語ろうとしなかった」その背景も窺える。特に再録された潮匡人氏の「防衛音痴のアホ、バカ文化人・言論人」は、その後の「陰謀史観のトリックを暴く=秦郁彦」「西尾幹二vs秦郁彦=田母神現象と『昭和史』論争」と合わせて読むと面白い。

 他方、防衛省の肝いりで発刊されている広報誌「MAMOR」によれば、「自衛官『懲り懲り』が7割、日本の防衛、大ピンチ?」だという。
「現役自衛官へのアンケート調査で、7割もが『生まれ変わったら自衛官にならない』と答えていることがわかった。何が自衛官のやる気を失わせているのか」、その理由は「社会的評価低く、やりがいない?」からだと「MAMOR」は指摘しているのだが、その「MAMOR」自身が、日本語の「守る」にかけた表題にしては、発音は「マモ〜」という異次元語ではないか!中途半端なことこの上ない。これが防衛の実態の一部を表している、とまで極言しないが、いずれにせよ「武器を預かる集団」の劣化が始まっている証拠であり、人材育成教育は年々低下していることが窺える。その上「村山談話」優先教育というのだから、案外内部崩壊は早いのではないか?
「SAPIO」が特集を組み、「WiLL」が田母神増刊号を出したのは、国民がその辺に不安を感じていると、先読みした編集者の勘が作用したものだろうが、この本が完売でもしたら、間違っていなかったことになる。その辺が「上っ面だけの人気取り」しか見えない今の政治家達の勘とは、決定的に違っている証拠である。
 不況の出版界で生き残るために必死に嗅覚を働かせて国民の目線を探っている人間と、「弾の下を潜ったことがない軍隊」がいつまでも本物になれないのと同様、口先だけの“人気商売”の域を出ない代議士たちも、いつまで経っても『本物の政治家』になれないのと同じことである。●●の一つ覚えのように繰り返す、政治家達の『国民の目線』発言が如何に虚しく響いているか、ご本人達には聞こえないだけである。

SAPIO (サピオ) 2009年 7/22号 [雑誌]

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