その昔、フジテレビが「日航機墜落十七年」に関する深夜のニュース番組で、自衛隊の救助活動を批判した「空白の一六時間」を放映したことがあった。その中で娘さんを事故で失った大阪の遺族K氏が「救助活動さえ手間取らなければ」四人以外にも助かった「可能性はあると思う」として、米軍機関紙「星条旗新聞」に掲載されたアントヌッチなる米軍大尉の証言を引き合いに出し「何故米軍の支援を受けなかったのか」と怒った。そして番組の終わりに「…出来なかったとすれば日本の航空自衛隊は穀潰しだ。物の役に立たない兵隊の集まりだ」と吐き捨てる様に語ったことがあったが、幾ら気持ちが高ぶったからとはいえK氏の暴言は「真面目に勤務している空自隊員に対して如何なものか!」と私は怒り心頭に発して反論したが、その中で「自衛官も人の子、一生懸命努力して評価されないことに耐えられる様な聖人君子ではない。十七年経ってもこの様な“身勝手な批判”が繰り返されるのであれば、今後自衛隊は“シビリアンコントロール”の大原則を忠実に守り、正式な「災害派遣要請書」の提出と防衛庁長官の「正式命令」を待ってから行動することになろうが、その方がよほど「穀潰し」だと私は思うが如何であろうか?」と反論したことがあった。
ところが今朝の産経3面に、田母神前空幕長が統幕学校の卒業式に招待されたので出席しようとしたところ、「田母神氏が出席するなら防衛省関係者は一切卒業式に出席しない」と言われたとして、現学校長である渡邊隆陸将が田母神氏に「出席しないで欲しい」と電話してきたという記事が出ていた。
この件については28日の関西のTV局の『たかじんのそこまで言って委員会』で既に放映されていたとして、『ご覧になってない方は、是非下記のURLをご覧になって下さい』とのコメントつきでインターネット上ですでに紹介されていたものである。
≪銀色の侍魂 たかじんより「ガッカリしたTOP10」雇用と防衛、田母神氏に対する「文民暴走」
http://omoixtukiritekitou.blog79.fc2.com/blog-entry-442.html≫
これを見て私は「穀潰しは自衛隊ではなく本丸の防衛省ではないのか?」と感じたのだが、それを裏付けるように今日の産経新聞はこの記事だけでは終わらなかった。
6面には「指揮官の冷たさ」と題して、大野編集委員が海自江田島の幹部候補生学校卒業式の模様をレポートしている。厳しい教育訓練に耐えて卒業していく候補生たちに対して、校長の野井健治海将補が午餐会で「ここでの訓練は狂気じみたところがあるほど過酷。やりぬいた彼らを褒めてあげてほしい」と挨拶したそうだが、来賓は地元市長だけで「防衛省の大臣、副大臣、政務官らの姿はなかった」という。国会中だから無理だとしても、せめて祝電くらいは・・・と思ったが「大臣はおろか、国会議員すらひとりもいなかった」。
大野編集委員は「自衛隊は首相が最高指揮官で、その命令で動くのである。その幹部を養成する学校の卒業式に祝電すら打たない指揮官とは何であろうか。祝電だったら秘書任せでも打てるだろう」と書き、遠洋航海に出る候補生達に「どうか、政治家の無責任な姿勢をもろともせず(ママ)、任務を全うして欲しいと願うばかりであった」と結んだ。以前、江田島には小沢氏が息子の卒業式に父兄として出席したことがあったのだが・・・。
魑魅魍魎の“シビリアン”や役人達には見捨てられても、国民は見捨ててはいないと信じたい。
その下に、評論家の潮氏が「史上最低の文民統制」だとして、日米共同訓練開始式で、中澤連隊長が「同盟というものは、外交や政治的な美辞麗句で維持されるものではない」と訓示したことを、北沢防衛相が「クーデターにつながる極めて危険な思想」と批判し、文書注意処分にしたことを批判している。何かというと制服苛めの常套句として「クーデター」と云うが、それが何かも知らない大臣如きに言われる筋はあるまい。
最高指揮官たる首相も首相である。≪連隊長に「信頼してくれ」と有言実行すればよい。部下を人身御供にするなど、最低の上司である≫と潮氏は書いたが全く同感である。
しかし、自民党政権下の麻生総理と浜田大臣の下でも同じような田母神空幕長解任劇が演じられた。このときも麻生最高指揮官が「空幕長の言わんとしているところは何よ?」とホテルオークラのバーに呼び出せば済んだことであった。ところが総理も大臣も、本人に確かめようとはせず、事務次官の言葉だけを信じて処置したから「政権を失った!」。制服を信用していない証拠であった。
これらを総合してみると、自衛隊は自民党であれ民主党であれ、いかなる政権の下にあっても≪極端な差別≫を受け続けるということを証明しているのである。
こんなシビリアンの統制のもとにあっては、内部部局の役人達が共産主義国の政治委員まがいともいうべきう「制服監視役」に徹するのも自然の成り行きだろう。政治と軍事は車の両輪というが、これでは全うな連携を取れるはずはない。
そんな境遇下で長く過ごした私は、創設50年前後にこの組織は破綻するだろう、と予言?していたのだが、後輩たちは黙々と文句も言わずに訓練に励み、国民の期待にこたえ続けていたから“いじらしく”思っていたのだが、どうやら破綻の兆しが見え始めたような気がする。
29面のこの記事を読むが良い。軍学校の生徒たるものが何という堕落であろうか!
五百旗頭校長の意見が聞きたいものだが、記事に被害女性は「学校内部の者」とある。
私の空幕教育課長時代は「男女雇用平等法」の話題が真っ盛りで、政府の指示で各省庁これに取り組んだ。そしてあろうことか防衛省においては女性自衛官の増員と空自パイロットへの道が女性にも開かれることになった。私には役人のポイント稼ぎとしか思えなかった。
≪時代の趨勢≫というのが役人の殺し文句だったが、戦場の狂気が伴う「軍隊」に易々と女性を投入することに疑問を感じたものである。特に女性を士官学校に入れることは、既に米軍でも問題が多発していたから反対だったのだが、防大を管轄するのは「内局」だから、大々的なマスコミの“評価”を受けて実行に移された。
その結果防衛省は施設整備はもとより、人間の“根源”にかかわる問題を抱えてしまったといえる。軍事を理解できない役所の人気取りだった、というのは酷に過ぎるか?
とにかく普段は「石橋を叩いて渡る」お役所が、驚いたことにこの問題では前例を無視してすんなりと決めてしまったのである。もっとも、田母神空幕長追放劇ほど電光石火の処置ではなかったが・・・
こう見てくると防衛省というお役所は、日航機事件のときに娘さんを失った大阪の遺族K氏が「穀潰し!」と言った気持ちが分からないでもない気がしてきた・・・。
とはいえ「教育」と「納税」、それに「国防」は国民の三大義務である。戦後軍事力を否定した憲法下では、教育のひずみもさることながら、国防の義務については全く考慮されなかった。
勿論、自衛隊は創設されたが、単なる“お飾り”であり、前述した様に政争の具でしかなかった。創設以来半世紀を過ぎた今でさえ「仏作って、魂入れず」の状態であることに変わりはない。
しかし国防は「誰かがやらねばならぬ」崇高な使命であると自覚して、大野編集委員が書いたように、江田島でも久留米でも奈良でも、幹部候補生たちは健全に育ち、部隊では隊員たちは身を犠牲にして訓練に励んでいる。
厳しい訓練では勿論、災害派遣などでの殉職者は創設以来800名近い。自衛官はその特性上、殉職年齢も若いから残されたご遺族の苦悩は計り知れないものがある。OBの1人として、そんな非難に曝されている後輩達が不憫だが、昨今の政情は潮氏が批判したように、大野編集委員が疑問に思ったように、児戯にも悖る田母神氏いじめを高級官僚たちが平然と行っていることでも分かるように、私には些か常軌を逸しているように感じられる。
しかし後輩たちよ、こんな政治家や官僚たちの愚行に惑うことなく、日本国という歴史と伝統を誇る国体を護持するため、迷わず、うろたえず、信じる道を突き進んで欲しい。
幹部育成の根幹たる防大においても、五百旗頭校長には軍の何たるかという基本から始めて、学生達の精神を立て直して欲しいと熱望する。
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