軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

理性ある服従

 昨夜放映されたNHKのクローズアップ現代「空幕長論文問題」を録画で見たが、尻切れトンボで要点がつかめなかった。何が言いたかったのだろう?
 こんな番組を貴重な時間帯に放映する暇があったら、先日の「国会の査問風景」を中継すべきだったろう。また、防大教育の問題点を探るのならそう銘打つべきであったろう。
 田母神氏よりも、防大が五百旗頭防大校長の“指導の下”に『視野の広い教育』を推進しているような解説をしていたが、私が年を取ったせいか、何とも軍学校にしては「軽い教育」に見えて仕方なかった。
 その中に、槙智雄初代校長の顕彰室に『服従・・・』と言う標語が掲げられていることを強調して、田母神氏を暗に非難しているかのような構成があったが、槙校長は『理性ある服従』を強調し「盲目的服従」は否定しておられたのである。
 NHKの記者には理解が無理だろうから、せめてその後を継いでいる五百旗頭防大校長には槙智雄著『防衛の務め』を精読して欲しいものである。

 例えば昭和28年4月8日の第1期生入校時の訓示は「均整のとれた人、民主主義を理解する人」の表題の下に、「祖先の励んだ国・・・偏向のない性格・・・個性の尊重・・・自由と規制・・・道義と法・・・自由と服従」という中見出しで編纂されているが、槙校長は「国が諸君に要請するところも、国民の諸君に期待するところも、危急に際しての人としてまた国民としてのかかる忠誠の心であると考えております」。そこで「今日特に二つの点を考えたい」として、「第一に諸君の任務は偏することなき均衡の取れた人物を要求していること、第二に諸君の任務は民主制度に対して的確な理解を要求していること」を挙げて、4ヵ年の課程で「人としての修養練成」「理工学及び保安学(防衛学)に関する基礎知識の習得」「指導統率の資格を備えること」とし、そのいずれかに偏することを許さぬもので、常に均衡を保つ重要性を説いている。

 更に「今後4年間の大学校生活において規律及び服従の真髄を体験されんことを望む」として、「服従のみ存在して自由や個性尊重が認められないならば、それは奴隷的関係でありまして、近代文明の許し得ないところであります。また自由のみ存在して服従のない社会があるとしたら、それが夢に描く国でなければおそらくは無秩序混乱の社会でありましょう」と強調している。
 つまり、槙校長は機会あるごとに『盲目的服従』ではなく『理性ある服従』を指導していたのである。
 ついでに森本氏など第9期生が入校した訓示では「本校は幹部自衛官を養成する特別の学校であり、これを大きな誇りとしている」「一方において、大学教育を採用し、殊に科学技術に力点をおくと同時に、他方において、国防の任に当たる士官を養成すること自身が、独特の風土文化を築いているのであります。世界共通の言葉で言えば、本校は明らかに士官候補生教育を行う学校なのであります。したがって、必然的に内外の異彩あるこの種類の教育上の伝統を継いでおることも事実であります。厳密に言えば本校は一般大学ではなく防衛大学校にほかならぬのであります」といっていて、決して「旧陸士・海兵」を除外してはいない。それをあたかも「戦後民主主義に立脚した防大は、旧軍とは一線を画する」とする誤解がまかり通っている。

 更に入校した9期生には「作法を持つこと。約束事を守ること。ためらいのない服従」という三つを強調したが、服従について「人を服従せしむるのは権威であります。この権威には色々ありますが、我々は正しいものには服従しますが、正しくないものには服従しません。また、服してはいけないものもあります。正義は人を服従せしむる権威の一つであります。また、社会には道徳律があります。・・・また、国家には(国民自ら作った)法律があります」としてこれらに従うのは当然だとするが「理解される服従には一貫した合理性と合法性があって、これを理性ある服従と呼んでおります。この意味での服従は封建的の隷属とは全く異なるものであります」
「正しきことに従うことは真の個性の発揮であり、責任を解せずして自由や権利が考えられないように、合理合法の権威に服することは真の自己の発現の要件でもあるのであります。この環境において『ためらいなき服従』は美徳とも呼び得ましょうし、服従は忍従ではなく、積極的な個性の発展に他ならないのであります」と結んでいる。

 五百旗頭防大校長が強調した「広い視野」とは何であるか不明だが、単なる薄っぺらな「シネマスコープ」であってはなるまい。創設以来50年を過ぎた今、防大教育の原点に返って再構築する必要があるのではないか?初心に帰るべきではないか?と私は思う。


 ところで『忍従』から解放されて、言論の自由を「勝ち得た」田母神氏が「自らの身は顧みず」という著書を出したという。国家防衛の実像を世に問うべく、どんどん建設的な意見を発表してもらいたいものである。
 今朝の産経記事の世界情勢には注目すべきものが多々あったが、紙数の関係で次回に譲ることにしたい。

自らの身は顧みず

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防衛の務め (1968年) (国防双書〈第1編〉)

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大東亜戦争とスターリンの謀略―戦争と共産主義 (自由選書)

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はめられた真珠湾攻撃―ルーズベルトに仕組まれた恐るべき伏線

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中国は日本を奪い尽くす

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国際軍事関係論―戦闘機パイロットの見つづけた日本の安全

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防衛疑獄

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