今日の史料調査会月例研究会は、第1次海賊対処指揮官としてソマリア沖に派遣された 五島浩司1佐の「報告会」であった。現在神奈川地方連絡本部長を務めるだけあって、スマートな説明ぶりであったが、何よりも現場を直接指揮したものならではの語り口で、説明終了後に追加として語った隊員たちのエピソードが胸を打った。
公式サイトとしては、防衛省が大臣記者会見に付随して公表しているが、それはこんな具合だから、通り一遍である。
≪アデン湾における第147回(海賊対処行動第106回)の護衛の終了について
平成22年6月21日 防衛省
6月19日より開始された標記護衛について、6月20日(日本時間午後)、アデン湾における海賊対処のため派遣された自衛隊の部隊(護衛艦「むらさめ」)による護衛が終了しました。 今回の護衛対象であった船舶6隻の内訳は以下の通りです。
日本籍船 0隻
我が国の船舶運航事業者が運航する外国籍船 0隻
その他の外国籍船 6隻
(タンカー×3、一般貨物船×2、LPG船×1)≫
五島1佐は、平成21年1月28日に準備命令を受けて前例のない準備に入るが、3月13日には発令となり、翌14日にはおっとり刀で呉を出航した。
そして3月30日から直ちに任務に就き、7月21日までの間日本船舶6隻、日本人が乗った船舶15隻、その他100隻を護衛して無事に帰国した。
≪いざ、ソマリア沖へ≫
準備段階からの苦労話は報道ではまったくうかがい知れないものばかりで、護衛任務に感謝して船舶から寄せられた多くの「感謝のメッセージ」は、食堂に張ってみなに見せたという。
連日緊張した任務についている隊員たちはこれを読んで始めて自分たちの任務が「評価されていること」を知り士気が高まりストレス解消になったというが、彼自身は「お礼を寄せてくれた船舶関係者」に逆にお礼したい気分だったという。現場の指揮官としては本当に嬉しかったであろう。
昭和60年8月12日にJAL機が御巣鷹山に墜落したが、あの時も隊員たちは「わが身を省みず」現場に駆けつけ救援作業に挺身した。しかし、一部のメディアは事故原因よりも「自衛隊の救難活動」を非難したから、現場から帰った隊員たちの怒りは限界に達するかと思われるほどで、各級指揮官たちのストレスも相当たまっていたことを知っている私としては、五島1佐の心境が非常によく理解できる。
衛生状況が悪く、映画「サルの惑星」のロケ地になったほどであるジプチの港に停泊、24時間いつでも蛇口から飲める水が出る日本で暮らしている若い隊員たちが、断水と停電に苦労するジプチで「空気と安全はタダ」の日本が如何に幸せな国かを実感していたという話は面白かった。
とりわけ胸を打ったのは、出発前に「慶事」と「弔事」を控えた隊員が4名づついたから、それぞれ出国前に適切に対処させて出発したのだが、現場に予定外である「50歳代の父親が仕事中に車ごと転落して死亡した」という知らせが届いた。
20代の若い隊員だから、悲しみで任務に集中できないだろうと考え、直ちに帰国させるべく海幕や外務省とパスポートなどの手配を開始したが、それを知った当該隊員が帰国を拒否、任務を遂行するといったという。
彼は「父はソマリアに出発する私を誇りに思っている、といって肩をたたいて送り出してくれたのだから今更帰れない」というのである。母親に連絡すると「使ってやってほしい」という。若い彼は自分の意思で残留して任務についたのだが、ある日突如姿が見えなくなったから、全員で艦内を捜索したところ、誰も行かない奥の奥の倉庫の中で一人号泣していたというのである。強がっていた彼は仲間にそんなところを見られたくなかったらしい。
これを見た五島1佐は「今時の若いもの・・」とは言えないと思ったというのであるが、会場はシ〜ンとなって、多くの海兵の大先輩方は目頭を拭いていた。
私も三沢の飛行群司令のとき、五島1佐と同じことを思ったことがある。
24歳の有望な青年を訓練中に事故で失ったのだが、そのとき、私は士気と規律を保つため、F-1機の残骸を見つめて肩を落とす整備員を叱咤激励したのであった。
そして郷里で行われる49日の法要に参加するためT−2で出発しようとしていたとき、若い整備員が「私の分の線香もあげてきてください。お願いします」とコックピットの私に言ったことがある。彼は事故機を担当していたのである。そのとき私も五島1佐同様「今時の若者など」と言うまいと決心したのだが、たまたま当時の文章が出てきたので最後に貼り付けておきたい。
隊員たちの純真さは、今も昔も変わってはいない。
彼らと同じ年代の青年たちが“娑婆”で問題を起こすのは、本人よりも周りの“大人”の方が悪いからだと私は感じている。山梨や北海道のみならず、教育界を牛耳る“大人たち”の垢にまみれた醜悪な人相を見てみるが良い。
今も昔も、国を思う若者たちの心に曇りはない。あるとすればそれは「己の欲得」に目がくらんだ大人たちの「教えざるの罪」だと思っている。
今日このときもソマリア沖では黙々と第5次派遣隊が任務についている。はるか祖国では、お粗末極まりない「シビリアンたち」の政治ゲームが始まっているが、彼らにとっては「そんなの関係ない」心境だろう。後輩たちの健闘ぶりに拍手を送りたい。