軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

安保『神学論争』に辟易

 10日は、某月刊誌からF−X問題について取材を受けた。コメント欄でも意見が目立つが、F−22か、それとも…というわけである。
 わが国の航空戦略環境と航空戦力の特質を十分分析しないで、まるでおもちゃを買うような買い物計画と金額の多寡にこだわるのは素人論議というものだろう。最も、わが国の国家戦略が曖昧だから止むを得ないところはあるが。

 しかし、F−X論争に国民の中から真剣な意見が飛び交うようになったことに感慨を禁じえない。今までは、納税者たる国民の監視がなく、一部の「担当者」が密室で計画しているに過ぎなかったから『山田洋行』のような事案が生まれたのだ、と私は思っている。


 さて夜は、国家基本問題研究所主催の月例研究会に出席して、『海上自衛隊ソマリア沖で何が出来るのか』という、古庄幸一・元海幕長の話と、その後中谷、長島両議員が加わったパネルディスカッションを聞いてきた。
 古庄氏は、現役時代に防衛庁改革のため、シビリアンコントロールを曲解している元凶である『内局の参事官制度見直し』を提言し下野した男である。

 船乗りらしく、また、現場に精通した説得力ある40分の話であったが、その後艦艇派遣に関する政治的話題に中谷、長島両議院が参加したとたん、会場には何ともいえない空気が充満し、質疑応答では、まるで議員のつる仕上げ?状態になった。
 司会の桜井よしこさんが『ここはつるし上げの場ではない』ことを“優しく”諭して会場の笑いを誘ったが、どう見ても聴衆の皆さんには不満が鬱積していくように感じた。

 最も、会場はご年配の方々が多かったから、戦後育ちの“若いお二人の議員”には馴染めなかったのかもしれない。会場の最後列の隅っこで、会場全体を見渡しながら観察する癖がある私は、周りの方々の「頼りないな〜。これで本当にわが国の安全保障は良いのか?」という不信感が、『つぶやき』や『笑い』の中に伺えてならなかった。

 例えば次のような質問にそれが現れていたように思う。

Q1:正当防衛等、武力行使に制約があることを海賊は知っている。日の丸を掲げた自衛艦には、逆に海賊が寄ってくるのでは?(笑い)

Q2:尖閣列島の例から、自国を毅然と守る意思はこの国にはあるのか?

Q3:現場に赴く自衛隊員に行動の規制が多すぎる。『これとこれ以外は指揮官に任せる』というべき(拍手)

Q4:現場に赴く自衛官は『自分が法律だ』と思って、堂々と任務を果たして欲しい。国民は支持する(拍手)

Q5:時代は急変しているのに、政治家の思想は変わっていない。いつまで「神学論争」を続ける?(拍手)いい加減に「不毛な神学論争」から決別したら?世界の笑いものだ…。(拍手)

 司会の桜井女史が「日本は法治国家ですから」とたしなめる場面もあったが、私が字にすると「放置国家」になる!
 14日に2隻の艦艇が出発するが、それまでに具体的な「命令」が発せられるのかどうか気にかかる。

 そこで私は思うのだが、麻生政権の支持率アップ?は、ソマリア派遣にかかっている様に思う。全ての根源は「憲法」にあるのだが、今直ちに改正というワケにはいかないにしても、せめて集団的自衛権問題、武器使用条件について決断し、出発させることだろう。
 その昔、インド洋上の補給に関して、速やかに「特措法」を制定せよ、という集会に呼ばれた私は、議員会館で「己の無能を部下の血で贖うことなかれ」と議員諸侯に説いたのだが、その再現にならぬことを切に祈りたい。


 現場でEU艦隊を指揮しているオランダの指揮官は、海自艦艇参加を喜びながらも、かなり“いびつな日本海軍”の参入に困惑している。全うな海軍艦艇の隊列内にはさむような形で良いのかなあ〜?と言ったというが、サマワに派遣された陸自部隊を“掩護”した、オランダ軍や英国軍の隊員たちが「どうして日本軍をわれわれが守らねばならないの?」と言った情景に似ている。
 足手まといになる「軍事同盟」は、いたずらに犠牲者を増やすだけ、そんな弱小軍とは戦場で協力したがらないのが軍事常識である。一日も早く国会議員たちには「安保神学論争」から脱却して欲しいと思う。そうでないと九月の総選挙では一大異変がおきかねない。


 例えば、私のところには面白い若者達からの意見が届く。その昔、このブログに民主主義下にある以上、政治に意見を反映させるのは選挙、だから有権者たる者「棄権してはならない。特に若者は投票すべし」と書いたことから来ているのだが、先日こんな電話があった。
「今の政治状況はあまりにも馬鹿馬鹿しいので、自民党には入れたくない。民主党もごめんだ。社民、共産は論外だから棄権しようと思ったのだが、先生は棄権するなという。そこで比例代表には『田母神新党』と書き、小選挙区には『田母神俊雄』と書く。民主主義下における有権者としての意思表示だが、先生はどう思うか?」というのである。
 確かに“勝手連?”が、田母神君には“断りもなく?”田母神新党を立ち上げていることは知っているが、はてさて、面白いね〜としか回答できなかった。

 先日、私の愛読誌であった『諸君』の休刊のことを書いたところ、コメントになかなか味のある意見が出ていた。今までは「右派」の読み物の代表として確立されていた『諸君』が、今では読者層のほうが「右より」に移動したので、『諸君』は「左派」の中に取り残されたのだという説である。右派の中心に座っているつもりが、座布団はもっと右?によってしまったということなのかもしれない。つまり、世の中の動きに疎かったといえるのだろう。その『世の中の動き』とは、「はっきりものを言う政治家、教授、評論家」などがいなくなり、「自分の損得勘定」を優先させている「似非保守派」に気がついたからであろう。これも「田母神効果」の一つで、論壇の裏側の世界が読者に見えたからに他ならない、と私は思っている。

 昨日の講演会でも、その雰囲気を痛切に感じたのだが、さて、永田町は今日もまた「西松建設」一色か?。孤高の政治家は今やこの国では絶滅したらしい。

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