「欲望と怨念は戦争の卵である」と古代ギリシャ人は言った。
「だから絶対的平和を望むなら、生存と欲望と怨念を捨てる以外には方法はない。さもなければ[強いこと]が必要なのである」と松村劭先輩は「世界全戦争史(H&I)」に書いた。全く同感である。
2001年9月11日に、ニューヨークで日本人24人を含む約3000人が殺害された同時多発テロ事件の首謀者として米国が世界に手配中であったウサマ・ビンラーディン容疑者が、米海軍特殊部隊によって射殺された。殺害されたのはパキスタンの首都イスラマバードに近接したアボタバードという町である。
さて、主権国家・パキスタンはどうするか?自国内で銃撃戦が行われ、異国人が殺されたのだから、何か言わないと「手引きした」ことになり、後が厄介になるだろう。
オバマ大統領は「正義が成し遂げられた」と成果を強調し、「生死を問わず、絶対に捕まえたい」としていたブッシュ前大統領もこの報に喜び、ホワイトハウス前には「USA!USA!」と歓呼の声が上がったという。まさに「怨念は戦争の卵」である。
≪2枚とも産経新聞から≫
オバマ大統領は今後も「テロの報復を警戒し緊張感を保つ」と言い、「イスラム教との戦いではない」ことも強調した。
このテロ以降、まっとうなイスラム教徒たちもいわれなき非難を浴びてきたから、一安心したことだろう。
9・11で犠牲になった3000人の犠牲者とその家族たちにとっては「国が仇をとってくれた」のだから、歓呼の声を上げるのは理解できるが、わが国では、娘を残虐に殺されても、犯人の人権を重視した?裁判官は報復を恐れてか、まず「死刑」にはしないから、恨みが晴らせない被害者家族のうっ憤は高まるばかりである。10年前を振り返ってみるがよい。
≪10年前の報道≫
米国に対する攻撃は「必ず報復して仇をとる」ことが証明されたのだから、米国民が歓喜するのは当然だろう。同時にテロリストたちにとっても、今後一時的な報復はできても、今回のように必ず報復されるとみれば、矛先も鈍らざるを得まい。
まさに松村先輩が言ったように国には[強いこと]が必要なのである。
わが国内には、報復の連鎖が怖い…という識者の意見もあるが、自国民を30年以上も拉致されながら、奪還する意欲もなく、傍観者的態度をとって平然としている国の方が異常なのである。
1986年4月5日、ベルリンのディスコ爆破事件で2名死亡、200人以上が負傷したテロ事件の黒幕がカダフィー率いるリビアであることをつかんだレーガン大統領は、15日未明第6艦隊を中心にトリポリを攻撃した。
この時、反撃を恐れたカダフィーは「南欧全都市攻撃も辞さず」と警告し、米の報復に備え米国人を攻撃目標基地に移動させた。これに及び腰になったフランスは米攻撃機の領空通過を拒否したため攻撃機のルート変更で10分遅れ、カダフィーを仕留めることができなかった。しかし、強がっていたカダフィー大佐は、その後米国に従順になり、ワインバーガー国防長官は「報復攻撃後、彼は人柄が変わったようだ」とまで言った。
≪86年4月16日の産経から≫
その前年に地中海で起きたイタリア客船「アキレ・ラウロ号」乗っ取り事件の犯人たちを移送中のエジプト軍機を、米海軍機が包囲してシチリア島のNATO空軍基地に強制着陸させた事件も忘れてはなるまい。
テロリストに目前で夫を殺害されたマリリンさんは、レーガン大統領に「犯人は見下げ果てた人たち」とののしってきたことを紹介、大統領は「あなたに神のご加護を」と慰め「これからテロリストが私を憎む理由がもっと多くなることを望んでいます」と語ったという。
≪85年10月11日の朝日新聞から≫
「力に頼る米国」「テロはテロを招く」など、軍事力を否定してきた我が国の識者の意見は判を押したように画一的で「人の命は地球より重い」と信じている。
パスカルは言った。「正義なき力は圧政、力なき正義は無効」と。
もちろん「正義」は解釈によって異なるだろう。今回の正義はあくまで「米国民にとってのもの」であり、それに同調する者たちにとっての正義ではあるが、少なくとも24人も殺された日本としても「理解できる正義」ではないか?
見下げ果てたテロリスト達にすり寄って「命ばかりはお助けを!」と哀願するか、レーガン大統領のように「責めと“攻め”を一身に負って」も国民を助けるか。
「負け犬たちの遠吠え」に甘んじる戦後日本人、特に政治指導者たちには、ワインバーガーの言う「断固たる報復が『究極の抑止力』」だというその“価値観”は理解出来まいとは思うが…。
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