軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

“学習”が足りないようだ

「学習」とは、「実体験や伝聞などによる経験を蓄えること」であり、「生理学や心理学においては、経験によって動物(人間を含め)の行動が変容すること」とされ、「繰り返し行う学習を練習という」とされる。


まず国際関係だが、ブルネイで開かれたアジア首脳会議で、フィリピンのアキノ大統領は「法の支配」を強調して中国の海洋進出を牽制、それに応えてオバマ大統領名代のケリー国務長官は、スカボロー岩礁をめぐる問題で「フィリピンを支持する」と発言した。
これに対して中国は「領海問題は個別の二国間で決めることであって、米国は部外者だ」と反論したが、ケリー長官は「米国はフィリピンと安全保障条約を結んでいる」と反論、我が安倍首相は、南シナ海の安全航行確保は「地域と国際社会全体の関心事項であり、すべての関係国が国際法を順守し、一方的な行動を慎むべきだ」と強調した上で、「法的拘束力で紛争を未然に防ぐ『行動規範』の策定に向けてASEANと中国の間で話し合いが公式に始まったことを歓迎する」と発言した。


歴代日本総理に見られない自信に満ちた演説は、安倍総理が過去に学んだからだと思われ中々頼もしかったが、さて、一昔前を思い出すと、中国もフィリピンも「過去」に学んでいない、つまり学習していないのではないか?と思った。
尤も、時代は変わったのだから、昨日の敵は今日の友で一向に構わないが…

まず1898年の米西戦争で勝利したアメリカは、スービック湾をアメリカ海軍の基地として太平洋に睨みを効かせたが、1942年には日本軍が占領した。大戦後はフィリピンが独立したためアメリカは1991年9月までスービック海軍基地を使用する軍事基地協定を結んだ。その後は冷戦間、特にベトナム戦争下では重要な基地であった。
ところが冷戦後も米国は同基地の10年間使用期限延長を望んだが、フィリピン政府は「ヤンキーゴーホーム!」を叫ぶ反対運動を背景にして拒絶し、米海軍を追放した。


この頃私は三沢基地司令だったが、米空軍も秘かにクラークから撤退を決めたことを知った。そしてその直後の6月にピナツボ火山が大噴火、これ幸い?とばかりに米国は基地を放棄したので、その後米軍が去った基地はフィリピンのスービック経済特別区として“平和利用”されたが、あれから20年、フィリピンは身勝手にもアメリカ映画の様に「シェーンカムバック!」と唱えたのである。確かあの時の大統領もアキノ…といったはず、現大統領の血縁じゃなかったかナア?

反米闘争に明け暮れる沖縄もフィリピンに似ている…。あれから20年経って世界は変化したといえばそれまでだが「学習」した結果だとは思えない・・・


ところでこの会議では大見えを切った中国だが、「大紀元日本」によると「7日に中国東部に上陸した台風23号の影響で記録的な豪雨に見舞われた浙江省では、省内全域で874万人が被災し、18の県が水没するなど甚大な被害が出ている」という。昔は温家宝首相が現地に飛んだが、今はだれも飛ばない。それどころじゃないようだ。


≪特に被害が深刻な余姚市=インターネットから≫


特に被害が深刻な余姚市では「市内の70%が水没し、交通機関は完全にマヒしているほか、一部の地区では停電や断水の被害もが出ている」らしいが、原因はいつものように現地政府の対応の遅さにあるという。

他方、「チベット自治区ビル県で6日、警官隊が抗議参加者に向けて発砲し、60人の負傷者が出た」と複数の海外メディアが報じた。

≪米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)の報道によると、10月1日の国慶節に合わせ、地元政府はチベット人に自宅での国旗掲揚を命じたが、ほとんどの人は拒否。抗議活動に参加した男性が拘束されたため、6日にデモが行われた。警官隊は参加者に催涙弾のほか、実弾も発射…、負傷者は60人以上だと報じた。ロンドンに本部を置く人権団体も公式サイトで少なくとも60人が負傷と伝えた」が、「国営新華社通信はここ2年間で、計6万人以上の漢民族幹部がチベット全域の村と寺に派遣された」と報じている。(大紀元日本)≫


政権争いが激化している中国は今、内憂外患で混乱しているところだが、それも地方幹部たちの自覚不足が被害を拡大しているといえる。彼らに「前例に学ぶ」という習慣はないらしい。


ところで我が国内でも、とてつもない凶悪事件が続いていて、他国のことばかり言っていられない状況にある。何よりも恐ろしいのは、わが国の関係機関も中国同様「学習していない」ように見える点である。


マスコミは、悲劇的な結末を迎えた三鷹市の女子高生殺害事件で連日特番を組んでいるが、被害者は「数日前から元交際相手に自宅周辺で待ち伏せされていて、怖い」とストーカー被害を訴えていたという。

≪警視庁の対応が具体的に判明してくるにつれて、専門家からは「殺人という最悪の事態に直結するストーカー犯罪は、110番並みの緊急性を要する。警察はあまりに対応が杓子定規で遅すぎる」との批判の声が上がっている。今回の事件でも、過去の数々のストーカー殺人の教訓が生かし切れていない実態が露呈してきた(産経)≫

何度も繰り返されるストーカー事件対処の不備が今回も表に出てきたようで、報道を見る限りにおいては、警察も過去の事件から「学習」していないようだ。
産経は「警察署同士の連携不備」だとして「警察への被害の訴えは、事件の4日前に行われていた。高校側は鈴木さんから相談を受け、今月4日午後には担任が地元の杉並署に相談。杉並署は三鷹署を相談場所として勧めた」というが、なぜ杉並署が三鷹署に連絡して手配依頼をしなかったのか?

三鷹署からは連絡がないまま、鈴木さんは事件当日の8日午前9時ごろに両親と同署を訪れた」がその場で“犯人”に警告の電話をしたが不在だったと言う。
つながらなかったということは、相手に警告が届いていないということだから、野放しのままである。三鷹署はそれを前提に警護処置をとるべきだったろう。
既に4日の相談時点で“犯人”は「殺すぞ」とメールを送っていたのであり、上京して都内の鈴木さん宅周辺をうろついていたのだから、彼女の身辺警護を厳重にするのは当然だった。こんなに頼りない警察じゃ、市民はこれからどこを頼りにしたらいいかわからなくなる。むしろすぐ駆けつける民間警備会社の方が頼りになる、と思われても仕方あるまい。

≪逮捕された容疑者=産経から≫



以前私は世田谷に住んでいたが、平成13年8月26日に、三軒茶屋の通称アメ横通りで、刃渡り30センチの大型刃物を持つ危険な人物がいるとの通報で、世田谷署の警察官が駆け付けたところ、現場で刺殺される事件があった。
その後現場で“取材”した私は、以前からこの男は刃物を持って暴れていて、住民は危険を感じていたのでその都度通報すると、警官は「事件が起きていないから」と帰っていたという。
警官が戻ると男は「誰がチクッタか!」と激怒して包丁を振り回すので、危険極まりなかったそうだが、無駄だからとその後通報は控えるようにしたらしい。

ところがこの日は、埼玉県警から転勤してきたばかりの責任感溢れる平田隆志警視(殉職後特進)が駆けつけて壮烈な殉職を遂げたのであったが、現場近くの店の主人は「今までは警察の上の方は事なかれ。何もしようとはしなかった。今度殺された警官は本当にお気の毒」と絶句したものだ。
不自然に包丁を振り回しても“事件後”でなければ取り締まらないのなら、警察が掲げる「防犯」とはいったいなんだろうか?と私は訝ったが、この時都議会で問題になったのは「警察官職務執行法と警察官けん銃警棒等使用および取扱規範で、厳しく制限されている」ことの方であった。
どこかが狂っているとしか思えなかったが、警官が被害者だったから拳銃使用が問題になったのであろう。

この時の都議会の結論は「現場の警察官に法律上の構成要件や危害を許容する範囲を考えてからけん銃を使えということは、抽象的には可能であっても、現実的には無理な話であります。まさにやるかやられるかという状況なのですから、規範に定めるような、相手方に警告を発したり威嚇射撃をする余裕は、実際問題としてはほとんどないと思われます」ということだったから、平田警視は発砲すればよかったのである。


この他、平成12年12月30日から31日の未明にかけて、世田谷区上祖師谷3丁目で会社員一家4人が惨殺されたが、初動捜査のミスで迷宮入りになりかかっている。
世田谷署は、そんな警備上の大問題を抱えていたにもかかわらず、経験は生かされなかったのである。つまり「学習」していなかったのである。


今回の杉並署と三鷹署で見られた警察官の「学習不足」の遠因には、ダッカ事件時に福田首相が取った「超法規」措置が響いているように思われる。
警官が体を張り血を流してとらえた凶悪犯を、時の最高指導者がいとも易々と「釈放」したのだから、現場では真面目にやっていられない!


尖閣で巡視船に体当たりした中国漁船の船長を“釈放”させたのは時の仙石長官だったが、これじゃ現場の保安官は命懸けでやろうとは思うまい。

≪仙石長官=週刊誌から≫


私が尖閣にヘリで侵入すると公言した国府の退役軍人グループに対して、E2Cとファントム戦闘機で厳戒態勢をとったら“官邸筋”から「武器は使うな」と指示されたが、本来ならば相手側に言うべき言葉じゃないか?


北朝鮮金正男が偽旅券で入国した時も、ときの田中真紀子外相は「VIP待遇で送還」した。拉致被害者救出の絶好の切り札だったのだが、彼女は被害者を見捨てて国を売ったのである。

≪田中大臣…=産経から≫

こんな“輩”が大臣だったのだから、世界から小ばかにされるのは致し方なかった。


最近の事例では、千葉大生殺害で東京高裁(村瀬均裁判長)が、死刑とした一審千葉地裁裁判員裁判判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。この村瀬裁判長は、6月にも妻子に対する殺人罪などで20年間服役し、刑務所から出所半年後に、見ず知らずの男性を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われた無職、伊能和夫被告(62)の控訴審でも「1審判決は前科を過度に重視しすぎた」として、死刑とした1審東京地裁裁判員裁判判決を破棄、無期懲役を言い渡し、死刑判決を破棄した確信犯?である。
今回もその根拠は「先例では、殺害された被害者が1人の強盗殺人で計画性がない場合、死刑が選択されない傾向がある」と指摘し、「被害者宅に侵入して物色中、帰宅した被害者に包丁を示して現金などを奪った」との経緯は認めたが「金品を要求した時点で殺意はなく、殺害直前の経緯や動機が不明だ」から、計画性がない、というのである。


これじゃ警官も検察官も、裁判員たちもやる気が失せるだろう。三鷹事件で殺されたのは「一人」であった。金品も要求せず、ただ別れ話に逆上しただけ」だから彼は死刑は重過ぎるとでもいう気か?
いや今回は「殺してやる」とメールしている。住居に侵入してクロークに隠れていたのだから計画性はあったというべきだろう。しかしこの裁判官だったらこういうであろう。
日本国籍があるとはいえ“犯人”は、外国人の母親のもとで育てられ、何かと周囲から“差別”されていたと考えられる。そのストレスは同情に値する。死刑は重過ぎる…」  
将来を嘱望されていた若い女子高性が愚かな男に惨殺された事件は甚大な人的喪失である。
なぜこんな事件が…と不思議に思うが、要は事件を防止すべき監督官庁が、有効な処置をとらない(取れない?)からだ。政治はそれを改善しなければならぬ。
事件が起きる度に、責任者が出てきて「プライバシー保護」だとか「個人情報保護」などと弁解し、マスコミが「拳銃使用の是非」を問うのはいい加減終わりにすべきである。
私のような老兵ではなく、若い、将来を担うべき青年男女が、志半ばで失われることは、国家にとって大きな損失であり、世代交代に期待している私のような老人にとっては耐えがたい苦痛である。


「石橋をたたいて渡る」とは、保身優先の官僚を指す言葉だと言うが、最近は「石橋を叩いても渡らない」者が増えすぎた。
私は現役中に「今やこの世界では、石橋を叩いて壊した者が出世する」と事なかれに徹する者たちを皮肉ったものだ。
今、日本人の上層部に立つ大人たちに欠けているものは、「責任感と勇気」だろう。JR北海道みずほ銀行幹部たちの記者会見を見るとよくわかる。

「練習」して金メダルを取った17歳を筆頭にした体操選手らに比べて、大人たちの態度が何と見苦しいことか。


そんなところに福岡市の医院火災で10人死亡した。福岡市消防局によれば「防火扉が開いた状態だったため、煙が流入した。初期消火がなされていない。通報も遅かった」という。
住吉地区は昔の花街に隣接した住宅街、道路が複雑で一方通行が多い。その上病院は古い建物であり防火管理者も不徹底。この火災も長崎などで起きた老人ホームなど、過去の多くの火災事故に「学習」していない。
病院の危機意識欠如もさることながら、監督官庁はいったいどんな指導をしていたのか?

事故事件関連部署の責任者は、上から目線で一片の紙切れ出して済ませることなく、もっと現場をよく確認してほしいと思う。
それには予算もない人が足りない…というのが定説だろうが、なんともはや、これほど異常な事件事故が続くと、そんなことは言っておれまい。“軍隊”がこんな上層部に指揮されたら、必ず全滅するだろう…


赤とんぼの背後に桜が咲き、山肌にはつつじが咲き乱れ、セミと鈴虫がともに鳴き比べする…
そんな“異常気候”よりも、人間様の“異常奇行”の方がよほど恐ろしい。実に気が重い週末になった。

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