軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

行政の不作為?

台風26号による大規模な土石流被害で、死者22人、行方不明27人を出した伊豆大島では依然として救援活動が続いているが、出動している自衛隊など救援隊員はご苦労なことだ。今後はオスプレイで一気に駆けつけることになるのだろうが、いつもいつもご苦労様と言ってやりたい。

≪救援活動=産経から≫


今朝の産経は一面に「行政不作為 被害拡大か」と見出しを付けたが、2年半前の3・11同様、全体に緊張感が薄れていたとは言えないか?
3・11の時も、まさか10mを超える津波が来ることはあるまい、と大半のものは思っていた。
その象徴的なものが、大津波が襲っている動画の中で「ピンポンパ〜ン」とチャイムが鳴り、「大津波警報が発令されました…」という緊張感のない町役場のアナウンスだ。あれが「憲法第9条」によって平和が守られてきたと勘違いして過ごしてきた日本人の実態だと感じたものである。
今回の大型台風26号の進路は、すでに数日前から予報されていたのであり、最近の事例から≪想定外≫の竜巻や集中豪雨が発生することは、気象庁の発令基準見直しからも想定できたはずだ。

≪台風26号進路予想図=産経から≫

地球温暖化などと叫ばれて久しいが、それに伴う異変が連続していることを認識すれば、洋上を発達して島に直接接近してくる台風に対する備えをすべきだったと思う。それが“行政”の仕事だったと思うのだが、強風圏内に入ってからでは遅すぎる。当然町長が言ったように、その機会を逃した以上、深夜に町民を避難させることは無理だったろう。もし発令して2次災害が起きていたら、今度はマスコミはその責任を問い詰めたに違いない。どっちに転んでも、傍観者?は何とでもいえるのだ。

≪東京は2040年代「極端な猛暑が日常になる日」の世界地図:ハワイ大学の研究者グループは、世界各国の都市で、「新たな気候」(過去数年の極端な猛暑が日常になる気候)が実感されるようになる時期を推定した。=産経から≫


ところで直撃が予想されていた大島町ではなぜ事前に【空襲警報】が発令できなかったのか?
それは町長と副町長がそろって島を離れていて、指揮権不在だったから決断できる責任者がいなかったからだろう。電話で連絡は取れていたとは詭弁であり、島に残った総務課長以下では「決断」ができるはずはない。
普段から組織がそのように組まれていて訓練ができていれば別だが、小さな島では無理だったと思われる。
ではなぜ町長と副町長という責任者がそろって、山陰地方に出張していたのか?ということになる。

その昔、山本連合艦隊司令長官が、最前線の搭乗員たちを激励するためブーゲンビル島に向かった時、NO2の宇垣参謀長や参謀らを同行し、共に撃墜されたことがあった。
これで連合艦隊司令部は一時的に機能マヒに陥ったのだが、この時も連合艦隊司令部には基本的な指揮権重視姿勢が欠落していた。どうして主席参謀はこの“暴挙”を止めなかったのか?

近年では阪神淡路大震災がある。この時も知事は側近以外に伝えることなく持ち場を離れていたという。
ではなぜ副知事が指揮をとらなかったのか? 知事が死亡するか人事不省ならばいざ知らず、元気でいる以上越権行為は慎まねばならぬ…。その肝心な時期に指揮の中断が起きて主導権を敵に奪われるのだ。戦争ならば間違いなく「敗戦」である。身勝手な推論を述べれば、その大元には≪戦争≫という、敵の意思によって左右される最も残酷な事態について、日本人は真剣に学習してこなかったからだといえる。自然現象の台風だって、考えようによっては≪立派な敵≫である。
今回の台風26号は、軍事的に見るとB-29の大編隊が日本列島に接近してくる事態に相当する。これに対して軍は、想定される限りの戦力で迎撃態勢を取り、国民は避難する。
大島に例えれば、「敵」の強風域に入る前に、町内の頑健な建物を「避難所」に指定して、行動能力が低い老人や幼児、病人を避難させておけば、ある程度の被害は免れたであろう。もちろん、自主的に避難する町民がいても構わない。上空にB-29が到達して、爆弾倉を開き始めてから防空壕に逃げ込んでも間に合わない。
子供のころ、佐世保に住んでいた私は、空襲警報のサイレンが鳴るたびに親にせかされて防空壕に飛び込んだものだ。もっとも防空壕には、普段口にできない食品が備蓄してあるのでそれが目当てでもあったのだが…


産経はこう書いている。
≪「行政の不作為」が被害拡大を招いた可能性もある≫
≪川島町長は「災害情報を過小評価していた。判断を誤った」≫
≪(気象庁長官は)都や町に電話で「尋常ではない状況」を伝えた対応について、「より確実に危機感を伝える表現方法を検討する必要がある」と述べた≫

他方≪大島町から南西に約60km離れた神津島村では、15日夕方に防災無線で避難所開設を周知し、同日午後8時25分に避難準備情報を発令。最終的に16日午前0時半に避難勧告を出した≫という。
別の自治体担当者は「勧告発令はいつも躊躇する」と大島町長に一定の理解を示したそうだが、おそらく行政担当者としては“はずれたら”責任問題になる…と躊躇するのだろう。
緊急事態に際しては多少躊躇して発令しても、結果が「大山鳴動してネズミ一匹」であれば成功だという意識がない。軍は拙速を尊ぶという。
おそらく世知辛いご時世になっているので、「笑って済ませることができない町民」が増えているからであろう。「指示に従って非難したせいで仕事が半減した。どうしてくれる!!」と凄むお方が増えたからかもしれない。しかし、それを敢えて従わせるのが行政の仕事なのだ。後で記者団につかまって、あることないこと“記事の種”にされる方がよほど癪に障りはしないか?


ついでだから書いておきたい。
地質学の専門家などは、土石流発生のメカニズムについて、堅い溶岩層の上に水を吸えば滑りやすい特性を持つ火山灰が覆っているからだ…と解説しているが、地質構造は確かにそうだろう。

しかし私は現役時代に日本列島上空を飛行しながら、当時はバブル期とあって日本列島の広大な山地がゴルフ場、スキー場などにどんどん開発されているのを眺めて危機感を募らせていた。そしてその“乱開発ぶり”を憂え、必ず自然からしっぺ返しを受けるだろうと感じてきたのだが、新潟・長野の大地震の時崩壊した一帯にも縦横に作られた高速道路とトンネル、スキー場などがあった。
日本列島改造論」を掲げた田中首相のおひざ元だったことは皮肉であったが…。


今回も下の写真を見てほしい、大崩落の端緒となったのは、山頂へと続く道路であるような気がしてならない。地質学者の言うとおり、この島は火山島である。
観光資源のためか生活道路なのかは知らないが、山腹には縦横無尽に道路が作られているのがわかる。


≪大規模な土砂崩れが発生した東京都大島町元町地区の現場=16日、共同通信社ヘリから。左は土砂崩れ発生前の同地区=産経から≫


最上部の道路造成時の側面処理部から、大量の水が浸入したとしたら、この様に一気に斜面が崩落することはあり得るだろう。めったやたらに自然を破壊しては罰が当たるという私の論拠なのだが…
勿論私は地質学の素人だから専門家の意見に待つことにするが、逆に言えばこれは「行政の作為」に当たるのではないか?
いずれにせよ犠牲者のご冥福を祈りたい。


次はPR。明日19日午後、町田市で「日本の国防の問題点=日本国憲法で日本が守れるのか?」と題して講演する。

●日 時  10月19日(土)午後2時〜4時30分
(開場1時半、講演1時間半、質疑30分)
●場 所  町田市民文学館ことばらんど2F大会議室
●会 費  1,000円
●主 催  教育を考える会・町田
●協 賛  ◇日本会議・町田支部
新しい歴史教科書をつくる会・東京三多摩支部

相変わらず“電気紙芝居”方式だが、沖縄や日中安保対話の体験談を、写真入りでご説明する予定。

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