軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

EU離脱、対岸の火事ではない!

24日に英国民がEUから離脱を決めた。僅差であったが、ルールはルールだ。残留派だったキャメロン首相は直ちに辞意を表明し、この難題を「後任者負担」としたが、対EUのみならず、連合王国崩壊の危険をはらんでいる。

≪残留望んだ若者がデモ:産経から≫


≪喜ぶEU離脱派:インターネットから≫

我が国のメディアのほとんどは、「想定外」だったとして、離脱を「危険な決断、首相の公約裏目」「国民の不満読み違え」「露微妙な損得」「日本企業分岐点」(いずれも産経の見出し)などと解説したが、どこかピントがずれている。すべてが「投機と化した現代資本主義」が中心になっているように見える。地球上には、札束だけが存在しているのではない。民主主義が≪主権在民≫と言われるように存在の中心は「民衆」なのだ。それが全人口の1%に過ぎないといわれる超金満家が、汗を流すことなくキーボードで資産を増やすことにうつつを抜かしている現状に鉄槌が下ろうとしているのだ。


今朝の産経≪新聞に喝!≫欄に、伊豆村房一氏がいいことを書いている。主題は知る権利でジャーナリズムの原点とされる米国建国独立宣言についてだが、これは現状の“民主主義国の政治家”にも当てはまる。
「すべての人間は生まれながらにして平等である」「すべての人間の生命、自由及び幸福を追求する権利は不可侵でありその権利を確保するために政府が樹立される」という部分だ。

EU離脱に関しては、英国民が決めることであり、現場の情報が貴重だと思うが、25日の産経には、「EUにいる幸せ実感できなかったのでは」という現地在住の作家、黒木亮氏の談話が出ているが、それが大多数の英国人の心情だったのだろうと思う。

≪離脱派が勝利したのは、英国民がEUにいる幸せを実感できなかったということではないか。現地の人からは、よく「EUに入ってろくなことがない」という声を耳にした。日本人で英国籍を取得した人も「EUにいて、いいことは何もない」と離脱派に投票したと話していた。

 争点としては、EU域内からの移民の問題が一番大きかった。ここ10年ほどで、東欧からの移民が増えたことを実感している。ロンドン金融街のレストランのウェイター、ウェイトレスはすっかり東欧の人に替わったし、地下鉄の駅前には必ず、東欧系の食料品店を見るようになった。

 世界共通語の英語が通じるため、英国は移民の数が非常に多い。長い歴史の中で移民に寛容な文化もあり、スキルのある移民は歓迎されている。だが、東欧からの移民はスキルがなく、非正規雇用で働いている人が多い。そのため、税金もほとんど納めず、英の手厚い社会保障に頼って、社会保障費を食い尽くすという不満が広がっていた。

 経済問題でもEUは欠陥を抱えたまま国家統合に進んでいる。英国民はそのことに我慢ができず「NO」を突き付けたといえる。(談)≫


私は英国ミステリーのファンだが、良く「ドイツに勝ったのに、なぜ戦勝国のイギリス人の生活は良くならないのか?」というセリフを聞いて驚いたものだ。


しかし黒木氏の談話には我が国にとっての貴重な教訓が含まれている。我が国も、難民入国に関しては“厳しい”と言われているが“外国人流入”については全くその逆で、バブル期に無制限?に外国人労働者を受け入れたツケが出始めている。黒木氏が言う[ロンドン金融街のレストランのウェイター、ウェイトレスはすっかり東欧の人に替わったし、地下鉄の駅前には必ず、東欧系の食料品店を見るようになった」という事実は、わが国にも確実に適合する。
とりわけわが国には、戦後流入してきた外人よりも、残留したアジア人が多いのであって、今までは同胞として支え合ってきたものの、戦後の占領軍の施政の影響で、対立しているのが現状だろう。
アングロサクソンアメリカンの戦後処理法は、同じ民族を分割して互いに戦わせる『デバイド・アンド・コントロール』である。
中近東アフリカは言うに及ばず、朝鮮半島の38度線、ベトナムの17度線、ベルリンの分割とドイツの東西分離などはその典型だが、わが国に対しても戦後、国土こそ4島に封じ込められたものの、内部で民族的対立をあおる方式がとられた。
≪四方の海皆同胞≫≪和を持って尊しとなす国民性≫を逆用されたのだが、今まで穏便に過ごしてこられたのは、日清戦争当時からの臥薪嘗胆精神がまだ日本人に残存していたからであろう。

しかし英国民はついにブチ切れたのだ。それについては『世界に渦巻く「敵対」と「孤立主義」』という6月25日産経の内藤㤗朗記者の記事が見事に指摘しているように思う。長くなるが紹介しよう。


≪敵対、ナショナリズム、そして孤立主義―。24日、僅差でEUからの離脱を決めた英国の国民投票から読み取れるキーワードは、この3つに収斂される。これらの概念は、世界の趨勢を占う上でもカギとなるだろう。
英国の有権者の半数以上がEUからの離脱に票を投じたのには、多くの理由がある。経済のグローバル化から取り残され、安い賃金で働く東欧からの移民に仕事を奪われた労働者たちの怒り。英国の法律や英国人の福祉より、EUの規則やEUからの移民に有利に働く制度への疑門…
「英国は2度の世界大戦を含め、歴史上、常に大陸を助けてきたのに、このままでは社会や政治の統合まで進めるEU帝国の一属州になってしまう」「いまこの流れを止めなければ、英国は永遠に消えてなくなってしまう」
 そんな不満や危機感がEU離脱のうねりをつくり、政治家たちがそれを共感できる言葉にして政治的な潮流を生み出した。大衆迎合的なボピュリズムが既成の政治を変えた瞬間だ。危うさもあるが、それは民主主義のルールでもある。
 英国の孤立主義は当分、政治や経済に混乱をもたらすことになる。だが、英国はスパイ映画「007」で有名な国である。歴史上、何度も存亡の危機に直面しながら主要国の地位を守つてきたのは、強力なインテリジェンスと、狡猾ともいえる類いまれな政治的バランス感覚があったからだ。今回の危機も乗り切るに違いない。
 国民投票の結果は、グローバル化の中で、国家としてのアイデンティティーや国家の在り方を考えさせるきっかけとなるはずだ。人権や平等といった共通の価値観を広げ、「超国家化」を進めてきたEUにも、統合をどう進めるべきか再考を迫ることになるだろう。英国と似た現象は、大西洋を挟んだ米国でも起きている。米大統領選で共和党候補の指名が確定した不動産王のドナルド・トランプ氏(70)も、英国の離脱派と似たような層の心をつかんで政治的な支持を広げている。
 「メキシコとの間に壁をつくる」「米国を再び偉大な国にする」。トランプ氏の発言は米国人のナショナリズムに火をつけ、敵対の構図を生んでいる。米国の次期大統領が誰になるかは11月まで分からないが、将来、より孤立主義に傾倒する懸念もある。
 敵対とナショナリズム孤立主義が渦巻く世界で、中国やロシアといった異質な大国に隣接する日本はどう対処するのか。国を二分する激論の末、EU離脱の道を選んだ英国の苦悩は、日本にとっても決してひとごとではない。(前ロンドン支局長)≫


ここで突然、ブログの年頭の言葉に関連するのだが、取り上げた【2016年深まる世界の混沌】と題するニューズウィーク日本版(2015・12・29〜1・5)に、ヨシュカ・フィッシャー元ドイツ副首相兼外相が「欧州に必要な地政学的思考」と題して、
≪そろそろヨーロッパは、法の支配に基づく大陸秩序は普遍的な価値観だという甘い考えを捨てるべきだ。残念ながら、世界はもっと強硬で、パワーがものをいう。ロシアのシリア内戦介入と、ヨーロッパの難民危機は、このことをはっきりさせた。ヨーロッパは、もっと自らの地政学的利益を重視した行動をとらなければいけない。さもないと、遅かれ早かれ、近隣地域の危機がヨーロッパの玄関口にやってくることになる≫と鋭く指摘していた。
更に彼は≪アメリカは東西の国境を広大な海に守られているが、ヨーロッパは違う。巨大なユーラシア大陸の西端に位置し、東ヨーロッパ、中東、北アフリカと直接つながっている。そして今、これら不安定な「お隣さん」たちに重大な安全保障リスクを突き付けられている≫と喝破していた。


私も、大東亜戦争を振り返ってみて、日露戦争で同盟を組んだ海洋国家・英国を切り捨て、切羽詰ったとはいえ大陸国家・ドイツと同盟を結び、さらに海洋国家・米国と直接戦火を交えるという愚をなぜ防げなかったのか?と考え、これからのわが日本の進むべき道は、海洋国家との連携にあると信じているのだが、戦後のわが国のリーダーは経済界の“経済支援”を当てにしてか、彼らが狙う「低賃金労働者」目当てに大陸にこびへつらう姿に辟易してきた。
そして今や、大陸国家と“友好”を温めた結果、ベニスの商人じゃないが、血まで抜き取られて悲鳴を上げている。因果応報とはよく言ったものだと思う。

英国も、EUというかっての敵国であった大陸国家と手を結んだのが、そもそもの間違い、今頃長い間地政学的に培われてきた考え方の違いに気が付いたのだろう。


防大時代、防衛学教授に佐藤徳太郎先輩がいた。彼は陸士41期、陸大35期で昭和35年に退官して防衛大学校教官として軍事学を教育した方である。その著書
大陸国家と海洋国家の戦略』は彼の体験から研究した戦略思想をまとめたもので、要は、海洋国家と大陸国家は地理学的区分だけではなく、戦略思想で陸上作戦と海上作戦のどちらを重要視するかで分類されるとし、海洋国家としてイギリス、大陸国家としてドイツの戦略思想を比較し、日本は地理的には海洋国家であるにもかかわらず日露戦争後に大陸国家としての政策を採用したことを疑問視している。

天皇も≪四方の海皆同胞…≫とは詠まれたが、≪四方の陸皆同胞…≫とは詠まれていなかったではないか…。

たがいに歴史的事実を尊重し、そのしきたりに従うべきというのが今回の出来事で、きれいごとには飽きたということなのかもしれない。

最後に仲間から届いた少し刺激が強い感想文を紹介しよう。大衆の本音だと思うから…

≪EU離脱。綺麗事 少女の夢の終焉

何も考えずに<難民がかわいそう><平和人権><人種に関わらず難民の移民を認めよう> まさにキリスト教的偽善(心のそこでは差別に満ちたキリスト教、見栄のために口先だけの綺麗事を述べているという意味で偽善という悪)まさに自国民、自らの民族の幸せを犠牲にしてできもしない綺麗事で動く世界。EUしかり国連しかり。結局こんなもんがその国の真面目な勤労者が犠牲になり怒りを爆発させたのがイギリスの国民投票だったのだ!

偽善を助長する現代社会は必ずかかる反動を生むのだ!国家は自国民と民族をまず一番に考えなければならいのだ!当たり前の話だ!

まさにキリスト教的偽善が今後欧州でEU解体に導く政治勢力を勢いつけるのだ!できもしない理想の綺麗事を語るなかれ!まずは自国民の幸福だけを求めよ!
なんで勤勉な国民が、ただ飯ただ福祉を求めて押し寄せる難民をお抱えせねばならないの? ノー アブソルトリーノーだ!
難民は自国に戻り武器を持って圧制者を自分の手で倒せ!これが民族の最低限のマナーだ! 武器の援助なら喜んでしてやろう!
まずオランダ・フランス・デンマークオーストリアで必ずや離脱それは民族主義をもとに来年爆発するだろう!≫

そう、自分の国は自分で守らねば、誰も守ってはくれないことを知るべきだ!
「働けど働けど暮らし良くならず、じっと手を見ている」物言わぬ穏便な同胞の救済こそ急がれるべきじゃないか!



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≪大嫌韓日記:桜井誠著:青林堂¥1200+税≫
著者はヘイトスピーチリーダーとされているが、今や『ヘイトスピーチ反対派』の方の“暴力行為”に押されっぱなしだという。
彼が立ち上がったのは、李ミョンバク韓国大統領の竹島不法上陸行為と、天皇に対する侮辱発言が契機であった。これらの一連の活動が忌憚なく吐露されていて、EU離脱派が立ち上がったことに通じているように見える。


≪おなじみWiLL8月号。報道が減ったせいか少し静かなので忘れられているが沖縄は依然として危ない。恵氏の論は必読であろう。


≪hanadsa8月号。WiLLから分離したからか、表紙がほぼ同一で間違いやすい。内容はほぼ同じだから、保守派の雑誌が1冊増えたということか。井沢氏の「政治の劣化はマスコミの劣化だ」が面白い。マスコミにまだ「劣化する」余裕があったとは知らなかったが…。インターネットの発達で、もう後はないと思うのだが。


≪航空情報8月号。「航空自衛隊主要装備一覧」は人民解放軍にとって貴重な情報だろうが…。表紙の黒中心の色彩には驚いた。航空だからいつもは空色が多いのだが、なかなか印象的だ。

大陸国家と海洋国家の戦略 (1973年)

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風土―人間学的考察 (岩波文庫)

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戦争概論 (中公文庫―BIBLIO20世紀)

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安保法制と自衛隊

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ジャパニズム 31 (青林堂ビジュアル)

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