軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

資料から:”むつ事件”に首ひねるソ連

『“むつ事件”に首ひねるソ連

 

昨日は、福島原発事故時におけるわが首相と政府のお粗末な対応ぶりについて紹介した。

今回ははるか以前に起きた、原子力船「むつ」についての、これまたお粗末な政府の慌てぶりをソ連がどう見ていたかの論調である。結局、膨大な予算を無為に浪費し、港の建設でばらまいた納税者としては怒り心頭に発した事案である。

 

 昭和49(1974)年11月13日読売新聞[世界の論調]から当時のソ連がどう見ていたかについて書かれている。

 

【さまよえる原子力船「むつ」がやっと母港入りしてから、そろそろ1カ月―。

 この間、お隣のソ連は克明に“むつ事件”を研究したようだ。なにしろ十四年前に原子力船としては最も不適当なタイプの砕氷船レーニン号を浮かばせソ連の技術は世界最高。

 で、かれらの結論は「そんなに原子力船はあぶないものではありませんよ」らしい。もちろん、国土広大、住民パワー・ゼロのお国柄も頭に入れる必要はあるが……。

   ◇

「船体だけで五十五億六千七百万円の巨費を投じた日本初の原子力船『むつ』は八月二十五日、母港のむつ港から公海に向かった。乗り組員をのせての試験航海だ。航海の七日目緊急事態が発生。原子炉から計量以上の放射線が検知されたからだ。

 たしかにこの亊実は非常に遺憾なことだが、専門家の意見では、放射線の完全な除去が可能であり、敏速な措置をとるなら人体にはまったく脅威は与えないのだ」「だが、その後の事態の展開はますます劇的要素を増していった。公海上で起きた事故から十日後に宮坂駿一・原子力研究所遮蔽研究室長以下の専門家グループ第一陣が送られた。

 九月十三日日本政府は専門家の回答を待ちきれず、原子力船開発事業団に原子力実験の一時停止を指示した。

「むつ」の荒稲蔵船長は原子力に必ず装備されている予備エンジン用の通常燃料と食料補給のために、できるだけ早く、もよりの港に入ろうとした。だが、母港むつも、その他の港もひとつとして亊故に苦しむ船を受入れようとしなかった。すべての専門家が、原子炉を“凍結”するならば港での船の修理、ウラン燃料棒の引き出しも一切事故に繋がる危険はないと保証したにもかかわらず」である。

「『むつ』は事故から一か月半経ってもまだ海上にいた。燃料切れから漂流を余儀なくされ、結局乗組員の労組からの要請で公海上での燃料補給を行った」

「中央代表の鈴木善幸自民党総務会長が、むつ港周辺の住民代表と長期の交渉を行い、ようやく住民は態度を和らげ、『むつ』の帰港を条件つきで認めた。いったい『むつ』の船上で何が起こったというのだろうか。放射線物質の危険性は実際そんなに大きいのだろうか」

「新聞の報道から見る限り、事故は原子炉のしゃへい壁に小さなスキ間が生じたためのようだ。これは二つの理由から起こりうる。一つは原子炉の建設の誤り。もう一つは、しゃへい材の設計ミスである。原子力船には特に安全な炉の建設が必要で、船の“原子炉”は原子力発電所炉に比べ大きな負荷変動に見舞われる。

 なぜなら暴風や荒波に揺さぶられるからだ。たとえば世界最初の原子力砕氷船レーニン号のエンジンは数年間にわたって設計・建設、試運転が行われた。一九六〇年からこの船はなんの事故もなく極地の厳しい条件のなかで働いている」

「こうしてみると“むつ事件”の原因はどうやら原子炉の設計ないしは建設ミスにありそうだ。しかしこのミスさえ、試運転の段階で早急に直すことができたはずだ。いずれにせよ、こうした.ミスのあった原子力船だが.原子炉をただちに閉鎖すれば安全ではないか。

 だいたい原子炉は、“非常しゃ断装置を備えており、わずかの不調でも瞬間的に炉を“凍結“することが出来るのだ。そうすれぱ放射線が漏れていても短時間のうちに消滅する。.

 こういうわけで.専門家の立場からするといったいなぜ『むつ』をめぐってパニックが起こり、またなぜこの事件が斯くもドラマチックな発展をみせたのかと疑問が残る。

 現代の原子力装置の水準は、この様な事件を防止するのに十分な能力を備えている。]

(一〇月一八日付、ソ連国際問題週刊誌「ノーボイェ・ブレーミヤ=新時代」)】

 

昨日の福島原発事故に関しては、明らかに時の政府要人のパニックが招いたものだが、今日の「むつ」の事故はメディアのさきっぱしりと、政治家の誤判断に原因がある。

この時はノーボイェが書いているように、「放射"線"漏れ」だったのだが、日本の新聞は「放射"能"漏れ」だと喧伝したから国民はすぐ[広島]「長崎」に結びつけ、その惨害を思い出し、恐怖を感じた。これが「記者」の不勉強によるものか、あるいは「意図的」だったのかは知らないが、その効果は抜群だった。

福島の場合もそれに酷似している。素人が決めた基準で現場は振り回され被害を大きくした。

上記記事に出てくる「宮坂駿一・原子力研究所遮蔽研究室長」は、実は家内の従兄だったから、よくその不満を聞かされたものである。漏れた放射線は「握り飯一個」で十分に遮蔽でる程度だったから、むしろ現場では、其の微量な放射線漏れを探知した「探知機の性能」を高く評価したと言う。

しかしその報告前に「専門家の回答を待ちきれず、原子力船開発事業団に原子力実験の一時停止を指示した」人間が誰であったかは聞かなかったが、いつの世にも『菅総理』の様な無責任男はいるものだ。そして彼らは絶対に責任は取らないのである。

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これだから我が国の原子力政策は進展しない。

我が国も最近、核を保有せよ!と威勢の良い声が一部で起きているが、過去のこれらの事例を見れば「不適当」だと言わざるを得まい。

基地返還で揺れる沖縄もそうだ。

こんな有様ではわが国の危機管理も安全保障も、世界で低水準にある事を自覚しなければならない。

幼稚園児に花火を持たせるようなものだからだ…、