軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

陸自ヘリ墜落事故に思う

 急患輸送に向かった陸上自衛隊第1混成団(那覇)第101飛行隊のCH47ヘリコプターが、悪天候のため徳之島で墜落し、機長の建村善知3佐(54)、副操縦士坂口弘1尉(53)、整備員・岩永浩一2曹(42)、藤永真司2曹(33)の4名が殉職した。建村3佐は総飛行時間4850時間のベテラン、今年7月に定年を迎える予定で、平成14年に「第1回国民の自衛官」として産経新聞社から表彰された人物であった。今朝の産経新聞は、その時の取材のエピソードを書いていたが、彼は「この仕事はいつ命を落とすかわからない。大学生の長男に親父の生き様が伝われば、とのささやかな願いなんです」とアルバムを広げて語っていたという。当時大学生だったご長男は、今は社会人になったばかりなのだろう。残された奥様始め、ご遺族に心からお悔やみ申し上げたい。
 副操縦士の坂口1尉も年齢から察してベテラン隊員、彼も近々定年を控えていたかと思われる。整備員の岩永2曹はそろそろ昇任の時期ではなかったのか?藤永2曹は結婚していたのだろうか?
 彼らが要請を受けて病院に搬送する予定だった胸部大動脈瘤の女性患者は31日に別の自衛隊ヘリで無事沖縄の病院に運ばれたという。結果的には一人の命を救うために4人が犠牲になったのだが、彼女も、その親族方も、心中複雑な思いであるに違いない。その昔、人間の命は「地球より重い」と言った総理大臣がいた・・・。
 建村3佐は、徳之島出身だというから、何としてでも搬出しようと夜間の濃霧の中、目的地への進入を強行したのではなかろうか?

 私も、松島基地司令だったとき、救難隊の夜間洋上救出訓練に同行したことがある。陸地からはるか沖合いの太平洋上に出て、漆黒の海上に発炎筒と救命ボートを投下し、サーチライトを照らしながら徐々に高度を下げて目標(救命ボート)に接近する。周辺に姿勢を判定する参照物は全く無いので、パイロットは計器を参照し、後部扉から、救出員が伝える目標物までの距離と高度を聞きながら、徐々に徐々に接近するのだが、頭の上で回転しているローターにサーチライトの光が反射して、まるで円盤状の傘を被った様で、暗い海面と頭上の円盤に、バーティゴ(空間識失調)に陥る。
 そんな危険な状況での操縦を、若い3尉とクルーは緊密に連携しながら、平然と遂行しているのだが、人間、訓練するとすばらしい能力を発揮するものだ!と感心しながら彼らのすぐ後ろでそれを視察していたのだが、若い彼らの勇気と使命感、高度な技量に私は深く感動したものであった。
基地に戻ると、既に午後9時過ぎ、待っていた整備員たちが機体を洗機場に運び、海水を被った機体を洗って塩抜きをする。そんな作業が終わり、帰宅するのは11時になる。建村3佐達、急患発生に備えて待機する101飛行隊も同様な毎日であった。
 殉職した4人は、各々覚悟していた使命に準じたのだから別としても、問題は残されたご遺族達である。彼らに対する国の今後の「面倒見」である。
 奥ゆかしい自衛官の家族達は、すぐさま国を相手取って「補償請求」する今流行の市民団体や弁護士達のような行動を望んではいない。国が全て自主的に解決してくれることに信頼して一任しているだけである。

 その昔、我々が若い頃の「補償金」はすずめの涙程度であったから、補償担当者は苦肉の策として「国を相手取って補償金請求のための訴訟」を起こすように勧め、国がそれを認めて支給するという、テレビの“ヤラセ?”のような変則的な方策を取ったことがあったが、ご遺族の中には「国に命を捧げた主人の名誉を汚す行為には賛同できない」として拒否される方も多かった。拒否すれば、一般的基準の補償額とは比べ物にならない小額の補償しか得られず、後は故人の“個人的生命保険”が頼りであった。しかも昭和40年当時は、パイロットは危険職業として、加入も制限されていた。その後国は何度かこのような殉職自衛官に対する補償の不備改善に取り組み、一般的な水準になってきたとはいえ、まだまだ不十分である。
 しかし、当時若かった我々操縦者は「ボロは着てても心は錦」が合言葉であった。「金のことを口にするのは武人として相応しくない」と、“本音”は別にして粋がったものだが、残される家族への配慮は、全く欠けていたのが実態だった。
 その差額?を埋めるため、防衛庁は「団体生命保険制度」を採用して、掛け捨ての保険に極力多額加入するように勧誘した。飛行隊長の大きな仕事は、若いパイロット達が「万口(2社合わせて当時は100口)」入っているか、万一の際の受取人はリーズナブルか?をチェックすることであった。
 この世は全てが金で解決できるとは思わないが、「まじめで控えめな善人が苦労し続け、悪を悪とも思わない守銭奴たちが、大手を振ってこの世にまかり通っている現実は“不公平”に過ぎるのではないか?と感じる。
 我々凡人には「あの世」のことはわからない。せめて、この世に残された善良な家族たちに対する国の配慮を期待したいものである。

 先日、自殺願望の身勝手女性を救助しようとして殉職した宮本警視に対する国民やメディアの反響は実に大きく、安倍総理は直ちにお悔やみに駆けつけた。
 さて、今回の殉職自衛官4名に対する国民の反応はどうであろうか?防衛大臣が駆けつけたということは聞いていないが、多分、部隊葬には参列するのであろう。 使命に殉じた警察官、消防士、自衛官などへの対応はあれが自然だと思うのだが、せめて残されたご遺族を直接激励してやって欲しいと思う。
 私はその点に興味を持って見守っているのだが、そう思うこと自体が、34年間に亘って“憲法違反”と蔑まれてきた私の「ひがみ根性」なのかもしれない。


 さて、今夜は恒例の「チャンネル桜」で「防衛漫談」の収録をする。先月で有料の「Ch767=日本文化チャンネル桜」の放送は終了し、「防人の道・今日の自衛隊」は、今月から無料のスカパー番組「Ch241=ハッピー241」の同じ時間帯(午後11時から12時)でご覧いただけることになった。今日がその初放送である。“漫談”の内容は、井上キャスターに一任してあるので乞うご期待!