軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

入院日記 地獄篇 (その6)

 その夜、若い看護婦が採血に来た。
「佐藤さん、採血しま〜す。少し痛いですけど我慢してくださいね」
 大きなマスクをつけているから目だけしか分からないが、金髪?の20代女性、多分看護学校を出て間もないのだろう。
「親指を中にしてしっかり握ってください。ハイ、少し痛いけど我慢してくださいね〜。力を抜いていいですよ。ハイ、終わりました」
「エッ、もう終わったの?」
「ハイ、終わりましたよ」
「君は上手だねー。全然痛くなかった・・・」
「エッ、本当ですか?さっき上でも言われたんです。嬉しい〜」
「そうだろう。本当に上手だよ。全然痛くなかったから」
「嬉しい〜。自信出ちゃう!」
「自信持っていいよ。ドラキュラじゃないんだから」
 今時の若い子らしく、嬉しそうにナースステーションに戻ったが、すぐ又出てきて、今度は右隣りの老女の採血。ところが彼女は仕切りのカーテンを開けて私にこういった。
「佐藤さん、佐藤さんはドラキュラに首筋噛まれても感じないのじゃないですか?」
「感じる感じる、飛び上がるかも・・・」
「オモシロ〜イ!良かった」
「(何が良かったのだろう??)」
 隣の老女はおとなしい方で、言葉遣いも丁寧である。病状は不明だが看護婦が採血に困っている様子が伺える。
「少し痛いけど我慢してくださいね。血管がよく見えないわ・・・どうしよう」
 少しして「腕、もっと伸びませんか?これ以上は無理?・・・」と言ったから苦労しているらしい。しばらくしてかなり自信を失った様子で出て行ったが、その後年長の看護婦が来て、「○○さん、血液が足りませんでしたので、もう一度採血します。ごめんなさいね」と言ったから、彼女は規定量が採血できなかったのだろう。褒めたのが悪かったかな〜と思ったりした。

 左隣の老女は相変わらず独り言、酸素吸入装置と点滴をはずすたびに、看護婦と諍いがおきる。
「アラ、又はずしている!△さん、早く直りたいのでしょう。いい加減に止めてよ、お願い!」と云う看護婦に対しては、「人殺し〜」「痛いよ〜」と“気丈に?”叫ぶから、ますます拗れる。私だったらマスキンテープで口と手を結わえてやるのに!などとよからぬことを考えるのだが、看護婦さんはそうはいかない。
 ところが面白いことに「△さん、点滴はずしたの?」と優しく言う看護婦には「そう、痛いから」と普通どおりに答えるのである。
「痛いもんね〜。でもね、これしないと早く直らないのよ、ごめんね、痛い目にあわせて。酸素もはずすとよくないのよ」
「フーン、どうして?」
「体が弱っているから栄養つけているのよ」
「フ〜ン、そうか・・・」
「丁度良かった、鼻から一寸タンを取るから少し我慢してね〜」
 タンを除去する装置がじゅるじゅると吸引音を立てる。
「ごめんごめん、痛かったでしょう、これ本当に痛いもんね〜、終わったからね〜」と看護婦が云うと「痛くないよ」と老女が答えるのである。
「ホント、良かった。ハイ、終わったからもう少し我慢して寝ていてね△さん」といいつつ看護婦が出て行くと老女はしばらく静かになる。
 そこで私は看護婦さんの前者を「権威型」、後者を「協調型」と区別することにした。
 
 学校教育でもそうだが、子供は「褒められる」と自主的に行動するが、逆に叱られ続けると従わなくなる。認知症が混ざった患者に対してどちらが有効なのかはわからないが、少なくともこの老女には効果があるように見える。
 その昔、山本五十六も「部下指導上の要訣」として「褒めて使うこと」を奨励していたが、確かにそういえる。

 ラジオではアフリカ問題について、福田首相のアフリカ首脳たちとの「極端に短かった会談」を批判していたが、相手が多いのだから仕方ないとして、それより私は首相の相手を卑下したような態度が気に懸かった。つまり、背景には日本の首相のほうが「上」だという意識があるように感じるのである。白人の人種偏見に共通した「所詮は後進国だ」と云う意識が潜んではいないか?と思うのである。
 金持ちが、援助を請う者に対するあの雰囲気である。政治家達は「同じ目線に立って」とバカの一つ覚えのように言うが、それは自分が「強者」であり、相手は「弱者」だと無意識のうちに考えている証拠である。苦しんでいる者に対して「援助・人道」と強調して“支援”しても、受け取る側はちゃんとその裏を読んでいるのである。それを感じないで銀行員のような外交をするからいつも成果が出ないのである。
 老女と看護婦とのやり取りを通じて、日本の政治家達の目線の位置がずれている、と痛感したのだが、今は療養の身、努めて考えないようにすることにしよう!  (続く)

ところで、入院前に送稿した一文が掲載された航空雑誌が届いた。
「J-Wing」8月号である。たまたま「売ってくれよ!ラプター」という特集に意見を求められ、「なぜ日本はF-22を欲しがるのか」という命題で書かせてもらった。
又、「僕たち航空自衛隊のF-4が大好きだ!」という特集にも、「“3・5次元の世界”で感じたファントム・ライダーの喜び」と云う感想も書かせてもらった。


先日紹介した「撃論ムック=中国の日本解体シナリオ」には、「自衛隊は内にも外にも問題ばかり」との命題で書かせてもらった。ご笑覧いただければ幸いである。

中国沈没

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これだけは伝えたい 武士道のこころ

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扶桑社新書 日本陸軍に学ぶ「部下を本気にさせる」マネジメント (扶桑社新書 28)

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