「月刊日本」11月号に、南丘主幹が「亡国に至るを知らざればこれ即ち亡国」と言う巻頭言を書いている。
明治34年12月10日、明治天皇が帝国議会開院式から還幸の途中、一人の男が「御願いがござります!」と直訴状を手に天皇の馬車に迫り取り押さえられた事件である。
「男の名は田中正造。2ヶ月前に代議士を辞めたばかりだった。正造は足尾鉱毒の惨状を直接天皇に訴えるべく、この挙に出たのだった」
「当時足尾銅山は、多量の鉱毒を渡良瀬川に流し込み、この鉱毒が谷中村を中心に広大な渡良瀬川流域の農地を汚染、農作物に甚大な被害をもたらした。銅精錬の必要な木炭をつくるため、山林は伐採され、水源地は保水能力を失い、洪水が頻発した。ついには人命すら奪う惨憺たる情況を呈していた。この時期、富国強兵の道をひた走るわが国は日清戦争に勝利し、足尾銅山も生産量を飛躍的に伸ばし、その結果、鉱毒被害も一気に拡大していった」
現在の自然破壊や公害を彷彿とするが、田中が国会で被害民の救済方法、将来の鉱毒防止対策を厳しく問いただしたが、農商務相の陸奥宗光は議会では一切答弁をしなかった。
そこで田中は鉱毒激甚地に事務所を設け、鉱毒反対運動に専念したのだが、わが国は近代国家として発展するには、国内鉱山の開発は不可避であったため、政府は一向に改善策を示さなかった。
「そればかりか、明治33年2月には現地で鉱毒反対を叫ぶ数千人の被害民を弾圧、百人を超える逮捕者を出した」
田中はこの事件に激怒し、政府に「亡国に至るを知らざればこれ即ち亡国の儀につき質問書」を突きつけた。「民を殺すは国家を殺すなり。法を蔑ろにするは国家を蔑ろにするなり。皆自らを毀(こぼつ)なり。材用を濫り民を殺し法を乱して而して亡びざるの国なし。これを如何」
これに対して政府は「質問の旨趣その要領を得ず、依りて答弁せず」として答弁しなかった。そしてその翌月の「天皇への直訴」になる。議会で訴え続けてきた田中だったが、政府・政党・議会の対応に絶望した結果であった。
「いつの世も、人心とは実に軽佻浮薄なものである」
「新自由主義の嵐が猛威を揮う中、今や地域共同体が崩壊しつつある。『亡国』の兆しが、日本全国至る所に現出しつつあるのだ。政治家は、そして我々は、この苛酷な現実にどう向き合うべきか」と南丘氏は結んでいる。
今日11月25日は、三島由紀夫没38回忌である。
『英霊の声』で三島は、二二六事件で処刑された英霊達に「我らがその真姿を顕現しようとした国体は既に踏みにじられ、国体なき日本は、かしこに浮標のように心もとなげに浮かんでいる。あれが見えるか」と語らせている。
異常な事件が多発する陰で、密かに?国体の破壊が進行しているように感じるのは考えすぎか?あまりにも「亡国に至るを知らざる」国民と指導者が多すぎるような気がしてならない。
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