11日午後3時半頃、北アルプス奥穂高岳で、心肺停止になった64歳の登山者を救出するため、岐阜県の防災ヘリが出動したが、不運にも墜落して岐阜県の防災航空隊操縦士・朝倉仁さん(57)、整備士の三好秀穂さん(47)、副隊長の後藤敦さん(34)の3人が殉職した。ガスが発生した峻険な岩場が続く現地で、ホバリングしていたヘリの尾部ローターが岩に接触したらしいという。
このニュースをTVで見た私は、私と同じ平成9年に退官した朝倉君だと直感した。
12日の産経25面で、彼の顔写真を見て確認したのだが、一人の救出に3人もの犠牲を出した今回の事故になんとも言いようのない憮然とした気持ちになる。
事故調査委員会が調査中だから勝手な想像は控えたいが、多分、この事故そのものは「操縦上のミス」という結論になるのだろう。
御巣鷹山に日航機が墜落した時、有象無象の「評論家達」から、「夜は飛べない自衛隊」だとか、「地点標定が遅い」などと、言われなき非難を受けたことを思い出す。
当時のへりは峻険な山岳地帯での、しかも夜間行動には大きな障害があったのだが、有名な大学教授からは「村の学校の運動場に着陸して隊員を現場に向かわせれば早かっただろう」といわれ、夜間照明装置がない運動場に着陸するのは危険だ、それを机上の空論というのだ、といったところ、「それでもおまえは広報担当か!」と怒られたものであった。そして教授殿は「運動場の四隅にガソリンを入れたバケツをおいて火をつけて照明にすればよい」といったのである。
今回の事故現場は、西穂高岳の縦走路付近だというが、高度は3163メートルの高地である。私は浜松時代にこの上空をよく飛んだものだが、64歳の登山者が、どんな体力練成訓練をしていたか知らないが、富士山に近い3000メートル(約10000フィート)級の山地では、気圧は地上の760mmHgから520mmHg(14・7PSI→10・1PSI)、気温は地上が15℃の場合にはマイナス4・8℃に変化することは当然知っていただろうに、と疑いたくなる。
今や老いも若きも登山ブームを楽しむご時勢だから、そんな「幸せな現象」に文句を言う筋ではないが、高齢者の体力はよほどしっかり管理しないと意外な体力低下に気がつかないものである。
100歳過ぎでもアルプス登山を欠かさない三浦氏のようなプロとは違うことを認識して欲しいものだと思う。
この事故の真因(主因)は、そんな事態を発生させた“事象”にあり、「操縦ミス」はそれによって派生したものだから、副因であろう。日航機の墜落事故の主因は、当該747型機の整備(修理)ミスによる機体の破壊であり、副因はその機体を組織として厳重に管理していなかった会社の管理上のミスだった、と私は思っている。
産経の報道には「亡くなった操縦士の朝倉さんは、平成9年に20年以上務めた航空自衛隊を退職し、県の操縦士になった。『隊員を束ねて指揮に当たり、信頼があった』と県職員。飛行時間は5740時間のベテランで、ヘリをぎりぎりまで寄せて捜索できる腕前だったという」とある。
しかし、如何にヘリの性能が向上したとはいえ、そんな環境下でのホバリングはきわめて難しく、危険な環境であることに変わりはない。ましてや霧や突風の影響も大である。
私も現役時代に、山岳救難訓練で同乗したことがあるが、タービュランスで常時機体は揺れて安定しない。他方、夜間海上捜索訓練時には、暗夜の中の目標が視認不可能に近い海面すれすれで、波頭を避けつつホバリングするのは至難の業であった。
それはまさに事故に直結する「空間識失調」を誘発しやすい環境であり、私のような戦闘機で飛び回る者とは勝手が違うことを認識させられたものである。
そんな体験を持つ彼の自信と、一刻も早く遭難者を救出したいという気持ちが、誰もはやらないだろう峻険な岩場で、今回のぎりぎりのアプローチにつながったのではないか?
今年3月に、航空自衛隊パイロットOBの機関紙に彼はこんな『通信』を寄せている。
「平成9年4月、割愛(年間、一定量のパイロットを自衛隊から民間へ転出させる制度)により岐阜県防災ヘリコプターの操縦士として勤務しております。消防防災ヘリコプターは全国で70機、ドクターヘリも全国14箇所で活動しており、災害・救急現場におけるヘリコプターの有効活用が期待される時代となりました。自衛隊での経験を生かして活躍中です」と近況報告してくれていた。
長年培ってきた「やむにやまれぬ自衛隊魂」が、手抜きできない彼の性格ともあいまって、今回の悲劇に繋がったような気がする。
亡くなった二人の若い殉職者と共に、朝倉君のご冥福を心からお祈りしたい。

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