軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

脱原発=イタリアらしい軽さ!

イタリア政府は、福島第一原発の事故の影響で広がった反原発国民投票の結果、圧倒的多数の反対を受けて脱原発を決めた。
同国は1986年のチェルノブイリ原発事故後、すべての原発は廃止され建設計画も凍結された。 その後、15年近くは慢性的な電力不足で、フランス、スイスなどからアルプス越えで電力を輸入して電力需要をまかなってきていたが、近年、産業界を中心に原発再開を求める声が強まったためベルルスコーニ政権は脱原発政策を転換し、2013年までに原発建設に着手し2020年までに最初の原発を稼働させる計画であった。
TVで大喜びするイタリア国民の姿を見た日本人は、脱原発の大きな流れが生まれたかのように錯覚しているようだが、イタリアの公称発電能力(Mw)は、手元の資料では2002年末現在、水力「20,439」、火力「55,100」、地熱 「665」、風力「746」の合計「76,950」であり、国産供給能力(Mw) は、それぞれ「13,450」「34.750」「550」「200」の合計「48,950」である。
しかも最大供給能力は55,250 Mw(国産供給能力=48,950 Mw、最大輸入量=6,300 Mw)で、最大需要電力は52,950 Mw、限界供給可能量は2,660 Mwだという。

イタリアへの電力供給は主にフランスとスイスなどだが、原子力発電が全発電電力量に占める割合は、フランスが78%,スイスが40.5%であるから、脱原発ムードが拡散して、原発先進国フランスに輸出余力が無くなった場合には致命的事態となる。
そのほかにも以前のイタリアは、原発技術先進国であったが、稼働中であった三つの原発を90年に閉鎖して以降、大学の研究部門も衰退し、87年には約500人いた原子力技師や学者は08年時点で40人にまで減ったと言われている。

今後の国際情勢の変化次第では、イタリアは“計画停電先進国”となり、いくら名物のピザを石窯で焼いても電力は補えないだろうから、観光客は減る一方だろう。
「電力マーケットという観点からするとEU市場からも切り離されており、安全保障上はまさに孤島並」のイタリアである。
宮崎正弘氏に言わせると、イタリアは「ちゃらんぽらん的でいて、男でもファッションを気にするという、或る意味で美的な生き方は人生の達人でもある。ベルルスコーニを見よ!」ということになるが、それはさておき、原発を持たないイタリアの「脱原発お祭り騒ぎ」に一喜一憂しているわが国が情けない。


我が国の発電構成は原子力が35%以上を占めるが、“感情的反対論”に押されて日本国内の原発は事故機を含めて3分の2が停止状態にある。

工業力で成り立つ島国国家である以上、電力をイタリアのように他国から購入することは不可能に近い。もちろん安全保障上の観点からも疑問が多い。

原子力は、人間が十分にコントロールできない「魔物」であるのならば、イタリアのように「原発さよなら」でも構わないが、それじゃ日進月歩の科学の更なる発展は望めないだろう。原子力時代ならぬ≪原始時代≫的生活に甘んじる覚悟が、一億国民にあるというのなら構わないが…

飛行機は墜落するから「乗らない」というのは勝手だが、「だから造るな」というのはいかがなものか?


今回の福島原発事故の原因は、≪想定外≫の自然災害をきっかけにしたものだったが、徐々に明らかになってきたのは、技術者の助言を無視した、政策的誤判断と、金銭上の制約が主だったように思われる。つまり、『人災』が被害を拡大したのであって、専門家の意見を重視すれば儲けが少なくなるから誰かが「ケチった」のだといえるのではないか?
新型の車の制作費を抑えるため、ユーザーの目に見えない部分のボルト・ナットをメイドイン○○でごまかすような…
原発不信の根底にあるのは、科学的、技術的欠陥によるものというよりも、損益決算書を重視した誰かの意図が絡んでいるといっても過言ではなさそうである。


一方、脱原発運動に取り組んでいる方々の表情と行動をTVの画面で見ていると、なんとなく「成田闘争」に血道を上げた方々のことを思い出す。

警察官に火炎瓶を投げて殺傷した方が大臣になったのは何かの間違いだろうが、あれほど反対した方々が、のうのうと成田空港を出入りしていることに私は納得がいかないのである。あれほど血を流して『成田空港建設』に反対したのだから、当時の社会党員や労組員、ゲバ学生たちは、横浜から船で諸外国へ出かけるべきだろう。ピース・ボートという船もあるじゃないか!

結局あの闘争で犠牲になったのは地主であり農民であった。

今回も、脱原発を喜ぶ方々が、今後は原発分の35%以上の電力を使用しないというのならともかく、デモするだけじゃあその行動に疑問を抱かざるを得ない。
そこまでやらない限り脱原発運動は単なる『ヒステリー現象』だといわれても仕方あるまい。もちろんその前に、政府は脱原発後の代替手段構想を国民に提示すべきであるが、一番原発に詳しいハズの方が、風力発電並みに「風の向くまま気の向くまま」な発言をするから誰も政府を信用しない。
今となっては現首相は、前首相並みに国民からはもちろん、世界中の指導者たちからも≪トラストミー≫されなくなっているのである。
国民は「脱原発」よりも「脱民主政府」を期待しているように見える…。

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